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最終話:断と紡

ついに最終話です。


よろしくお願いします。


残すはエピローグのみ……。

 

「バーンさんが……」


「バーンがやりやがったぁ!」


「バーン様っ……良かった……!」


「皆様! バーン様の元に参りましょう!」


 勇者一行は歓喜に湧き、急いで階段を駆け下りていった。

 バルコニーにはザディスだけが残される。

 ザディスはフッと笑って彼らを追おうと使い魔からの映像を消そうとした。

 が、その時ある違和感に気付く。


「バーン……何故そんな顔をしている」


 映し出されたバーンの表情はゼノを倒した安堵や喜びの表情ではなかった。

 まるでまだ終わっていないとばかりに、地面に横たわるゼノの骸を睨みつけていた。

 ザディスにも何が起きているのか分からなかった。


「まだ……終わっていない?」


 ザディスはすぐにバーンの元へ飛び立った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「参ったな……これが……」


 ゼノという魔帝は間違いなく倒した。

 彼の魂はもうこの世には無い。

 だが、その彼より邪悪な何かがその骸から溢れ出そうとしていた。

 バーンは瞬時に消失魔法をかけるが、簡単に弾き返されてしまう。

 続いて時空魔法を試みるも効果が打ち消され、その邪悪な何かが益々力を増していた。


「なんなんだあれは……」


「バーンよ」


「ザディス……あれは一体」


「私にも分からない。だが、あれは私や魔帝様を遥かに凌ぐ邪悪をはらんだ何かだ。あれからは意思を感じない……つまり」


「この世界が溜め込んできた……負のエネルギーの集合体……か?」


「恐らくな……何万年もの悪意……邪悪……何という禍々しさ……」


「ひょっとすると魔帝すらも……この世界の悪意を溜め込むシステム……だったのか? 古代人も魔帝本人も知らなかった可能性が高い……」


「ありえる話だ。本当に神とやらが存在し、この世界の延命策が魔帝……古代人達は知らない内にその魔帝というシステムを更に魔王というシステムで上書きしてしまった」


「その結果があの……消失も時空も効かない程の強大な負のエネルギー……あれは世界にあっちゃいけないものだ」


「恐らく放っておけば世界はあれに飲み込まれ、人間は滅ぶだろう。あの悪意に触れて正気を保てる者はいまい……仮にお前でもな」


「くそっ……あれを消す……それしかないか。約束は守れそうにないな」


「貴様まさか……」


「魔帝に俺の力が通じなかった場合に使う予定だった魔法がある。親父と母さんがそうした様にな。多分これならあれにも効く筈だ」


「……死ぬ気か貴様」


「死にはしないさ。ただ、この世界には戻れないかもしれないがな。けど、俺の役目はこの世界の人全てを紡ぐこと。勇者として力を持った俺の使命だ……アリス、マリア、エリザ、シェリル……悪りぃ……許してくれ」


 そう言うとバーンは骸の側に降り立った。

 骸からは今にも負のエネルギーが溢れ出そうとしている。

 時間はあまり残されていなかった。

 バーンは右手のラグナロクと左手のバルムンクを地面に刺し、二本の巨剣に魔力を込める。

 全ての因果を断ち切るラグナロクに時空魔法を、全ての因果を紡ぐバルムンクに雷魔法を込める。

 互いに相反する力を持った聖剣と神剣が反発し、大気が震えている。


「バーンさんっ!」


 その時その場にアリスが近付いていた。


「来るなっ!」


 バーンは背中越しにアリスを止める。


「な、何でですか……? 魔帝はもう……」


「アリス……ごめん」


「ごめんって……何で謝るんですかっ! 嫌です……やだぁ……やだぁっ!」


 駆け出そうとするアリスを今度はマリアが止める。

 その瞳にも涙が溢れていた。


「マリアありがとう……そのまま下がるんだ」


「バーン……お前……」


「ごめんなマリア。こいつはこの世界にあっちゃならないもんだ。時空魔法も効かなかった。だからこれしか方法がない」


「バーン様っ!」


「エリザ……俺について来てくれてありがとな。みんなを頼んだぞ。まとめられるのはエリザだけだ。任せたぞ」


「バーン様……うっうっ……はい……分かりました……」


「ごめんなエリザ。愛してるよ」


「私も……一生お慕い申し上げます……うぅ……」


「バーン様……わたくしまだあなた様に何もお返しできておりません! だから……だから……」


「シェリル……俺の事を思ってくれるのなら、母さんを頼む。お前にしか頼めないからな。任せたぞ」


「……かしこまりました。バーン様……愛しております」


「ああ、俺も愛してる」


「バーン……もう……どうしようもねぇのかよ!」


「ごめんなマリア……お前の側にもいてやりたかったが……こいつは今やらなきゃ駄目だ。マリア、アリスを頼むぞ。お前が支えてやってくれ。任せたぞ」


「やだよ……やだよぉ!」


「マリア……愛してる。だから頼む」


「ちくしょう……あたしだって愛してるよ!」


「ありがとな。任せたぞ?」


「……分かった。任せろ!」


「バーン……さん……」


「アリス……ごめん。約束守れなかった」


「私は信じてます……うっうっ……絶対約束を守るって……ひっく……だからぁっ……待ってます……いつまででもぉっ! 死んでもっ! バーンさんをずっと待ってますっ!」


 バーンの瞳からも涙が止まらない。

 そんな顔を見せない様に背中を向けて魔力を練り上げていた。

 バーンの命を懸けた究極の魔法。


「アリス……この旅は楽しかったか?」


「はいっ!」


「辛いことも沢山あったか?」


「はいっ!」


「嬉しい事も沢山あったか?」


「はいっ!」


「俺と……会えてよかったか?」


「はいっ!!! バーンさんに会えたから……私は幸せです!!」


 二人は涙が止まらなかった。


 今までの旅が蘇る。

 二人が出逢い、船で旅立ったあの日を。

 マリアとの死闘を繰り広げたあの日を。

 エリザを救ったあの日を。

 シェリルを変えたあの日を。

 魔王との戦いを。

 旅で出逢った全ての想いを。


 バーンは振り返る。

 涙でぐちゃぐちゃになったその顔で、愛する彼女達を見た。

 彼女達も涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 それでもなんとか笑って見せた。

 最後はせめて笑顔でいたかったから。


「マリア、エリザ、シェリル……アリス……みんなに会えてよかった……俺は世界一の幸せ者だ。さよならは言わない……約束する。必ず戻る」


「待ってるよバーン……」


「私達はいつまでも……」


「バーン様をお待ちしております……」


「バーンさん……愛してます」


「俺も……愛してるよ」


 バーンが魔力を解放する。

 世界が揺れていた。

 まるで勇者との別れを悲しむかの様に。


「次元魔法……〝因果を断ち切り紡ぐ世界〟」



 そうして……勇者はこの世界から姿を消した。


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