第百五話:終焉と真
第百五話です。
よろしくお願いします。
あと三話……今日完結します(´∀`)
「バーンさんっ!」
映像を見ていたアリスが思わず叫んでいた。
しかし、言葉は届かずバーンはそのまま城下へと叩きつけられ、瓦礫の山に埋もれてしまう。
「バーン……!」
ルインが泣き出しそうな声で呟きながらディーバに抱きついた。
ディーバは唇を噛みながら拳を震わせている。
「情けねぇ……何が勇者だ……俺は……俺は息子のためにすら戦えねぇのか!」
ディーバとルインの力は今や殆ど残されていない。
魔王達を封じていた魔法に己の力を全て込めていたのだ。
でなければ魔王を封じることなど出来なかっただろう。
「くそっ、あたしは行く!」
「ゼノを消してやる!」
「私も行きます! もう我慢できませんっ!」
マリア、エリザ、シェリルはバーンがやられた事でもう感情を抑えられなかった。
涙を流しながらゼノに向け走り出したが、彼女達をアリスが手を広げて止めた。
アリスもまた涙を流している。
「アリスどけっ!」
「あの野郎をぶん殴りに行くんだよ! お前はバーンのところに行け!」
「私達が死んでも止めますから! 早く!」
「だ、駄目です……マリアさん達が死んじゃいます! だから駄目です! うぅっ……死んだら駄目です!」
「アリス……!」
「俺達もいくぜ。バーンを助けるんだ。止めても無駄だ!」
カーティスの言葉に勇者達も続くが、やはりアリスは動かない。
涙をポロポロと流しながら、必死に止めていた。
正直彼らがゼノに立ち向かったとしてもせいぜい数分しか持たない。
間違いなく殺されてしまう。
アリスはそれを感じて全員を止めていた。
「アリス! バーンが死んでもいいのかよ!」
マリアの直接的な言葉にアリスの身体がビクンッと跳ねる。
それでも手を下ろさずにその場から動かなかった。
「バ、バーンさんはっ……負けませんっ! 約束っしたからっ! 私達が行っても邪魔になるだけです! それに、私達が行ってバーンさんが助かっても……みんなが死んだら意味が無いっ……だから駄目ですっ! バーンさんを信じないと駄目なんです!」
嗚咽を交えながら身体を震わせて語るアリスに、全員何も言えなくなってしまう。
本当は誰よりもアリスがバーンの元に行きたいのだ。
駆け寄って、傷ついた身体を癒してあげたいのだ。
しかし、それはアリスというバーンの弱点をむざむざゼノに晒す事になる。
バーンを討つ為にゼノが放つであろう大魔法にアリスが巻き込まれそうになれば、バーンは命を賭してそれを止めるだろう。
それだけは避けなければならない。
「アリス……お前……」
「みんなでバーンさんを信じましょう……バーンさんは約束しました。絶対に帰ってくるって。だからお願いしますっ!」
頭を下げるアリスにマリア達三人が駆け寄り強く抱きしめる。
「わかった……待とう。バーンが帰って来るのを」
その時、映像の中でバーンが瓦礫を押しのけて立ち上がっていた。
上半身の鎧は剥がれ、腹部と口からは出血が見られる。
足に突き刺さった剣は抜いた様だが、そこからも大量の血が流れ出ていた。
「やはり生きていたか。だが、もう満足に動けまい。安心しろ……余にいたぶる趣味はない」
肩で息をするバーンに向けてゼノは手をかざす。
その手のひらから黒い球体が現れると、それがどんどんと大きくなる。
肩で息をするバーンの手にはバルムンクしか握られていない。
吹き飛ばされる際に屋上でラグナロクを手放してしまっていた。
「頼みのラグナロクはないぞバーン。時空魔法で消し飛ばすか? ならこれはどうかな?」
ゼノはもう片方の手を空に掲げる。
その手にもバーンに向けられた巨大な黒い球体が現れた。
「この魔法は正真正銘余の魔法だ。名前は無い。だが、この魔法は全てを闇に飲み込む力を持つ。今の貴様では受けきることはできん」
「はぁ……はぁ……どう……かな? なんとか……なるもんだぜ……げほっ!」
無理矢理喋ったせいか、バーンは再び大量に吐血する。
霞んだ視界でゼノを見つめながらバーンはそれでも呟く。
「アリス……マリア……エリザ……シェリル……そしてみんな……俺に力を貸してくれ……」
「仲間に助けを求めるか? それが貴様の限界だよ。だから敗れたのだ。だが……貴様は間違いなく余を変えた。それだけは誇るがよい」
アリス達はバーンを信じ、ただ見つめていた。
彼の顔を、彼の身体を、彼の心を、彼の生き様を、彼の戦いを。
そしてアリスは静かに呟く。
「バーンさんなら……勝てます」
「さらばだ勇者よ。あの世で誇るがよい……魔帝ゼノ最強の魔法に屠られたことを!」
ゼノの手から魔法が放たれる。
二つの巨大な球体は空気を飲み込みながら尚巨大さを増していく。
城の半分はあろうかという大魔法が一瞬でバーンに近づくその刹那、バーンはアリスの声が聞こえた。
『バーンさんなら……勝てます』
「ああ……勝つよ。約束したもんな……アリス」
球体が眼前に迫る。
「〝刻の一到〟……」
一つ目の球体が時空に消えた。
だがそのすぐ後ろにもう一つの球体が迫る。
「無駄だ。消えよ」
魔帝が勝利を確信した。
その瞬間だった。
キンッ
巨大な黒い球体は跡形も無く世界から消失した。
「……馬鹿な」
ゼノが驚くのも無理はない。
タイミング的に再度時空魔法を発動するのは不可能だった筈であった。
映像を見ていたエリザは自分の目から流れ落ちる涙など気にせず、ただただ喜びに震えていた。
「バーン様がっ……私の魔法を……!」
そう。
バーンが放ったのはエリザの消失魔法。
「何故貴様が……」
「〝全てを紡ぐ黒き神剣〟……リーグの魂が繋いでくれたんだ。世界と俺を」
「世界と貴様を……だと?」
「そうさ。お前には分からないだろうがな。〝吸収〟ではなく〝継承〟……魂が通った者にしか出来ないその行為は何よりも尊く、そして何よりも……強い!」
傷ついたバーンの身体が癒されていく。
それはアリスの回復魔法。
さらにバーンは風魔法で浮かび上がる。
それはシェリルの飛翔魔法。
バーンの右手に魔力が宿る。
それはマリアの魔拳。
バーンの周りに無数の剣が現れる。
それはディライトの創造魔法。
「き、貴様はっ!」
「ゼノ……勇者とは世界を紡ぐ者。この世界に生きる全ての人の想いを、その平和を願う魂を、全てを背負い戦う者が勇者。お前は確かに魔を紡いだ。だがな、力だけでは絶対に辿り着けない境地がある。それをお前に教えてやるよ」
「……ほざくなっ!」
ゼノは再び黒い球体を生み出す。
先程よりは小さいがそれを大量に展開し、バーンに向けて解き放つ。
「消えよバーン!」
宙に浮かぶ自身と同じ目線にまで浮かんだバーンに向けて、魔法を全力で放った。
「無駄だ」
球体がバーンに当たる前に全て消えていく。
それはミリアの対抗魔法。
「返すぜ」
黒い球体がバーンの周りに無数に現れ、今度はゼノに向けて放たれる。
「ぬぉぉぉぉぉ!?」
必死に相殺するゼノだが、その身体に何本も剣が突き刺さっていく。
更に目の前に瞬時に現れたバーンは魔拳をゼノに叩き込む。
「がはっ!? 貴様ァ!」
既にバーンの姿がない。
その時背後から熱を感じてゼノが振り返ると、燃え盛る太陽が自身に迫っていた。
それはスタークの太陽魔法。
「こ、こんなものがぁぁぁぁぁあ!」
障壁を展開し、なんとかそれを受け止めようとするが、両手が炎に焼かれていく。
「がぁぁぁぁぁぁぁあ!」
渾身の魔力を込めてゼノが太陽を粉砕するも、その両手には深刻なダメージが残る。
瞬間目の前に現れたバーンに、ゼノは咄嗟に蹴りを繰り出す。
バーンの側頭部に命中した蹴りは、大地を割る程の威力を誇る。
しかし、バーンは何事もなかったかのようにゼノを見つめていた。
それはバカラの強靭な肉体。
「馬鹿な……」
「ゼノ。俺はお前も紡ぐよ。だからもう休め。悠久の牢獄に縛られたお前をこの剣が解き放ってくれる」
バーンの手にはラグナロクが握られていた。
ゼノは瞬時に察っして離れようとするが身体が動かない。
それはカーティスの無力化魔法。
「やめろ……余は……魔の世界を!」
ゼノはバーンと語らう中でもやはり人間を許せなかったのだろう。
しかし、バーンに感化されそうになる自分に恐怖した。
だから会話をやめ、全力を持ってバーンを排除するつもりだったのだ。
「さらばだ魔帝ゼノ。今度は一緒に旅をしよう。また、いつかの物語に紡がれるように」
「やめろオォォォォォ!」
「〝因果断ち切る聖なる剣〟!」
勇者の聖剣が、魔帝の身体を切り裂いた。
斜めに斬られた魔帝の身体は上下に分かれ、力なく落下していく。
しかし、見事魔帝を倒した筈のバーンは、その魔帝の抜け殻から真の邪悪を感じるのであった。