第百四話:友と決別
第百四話です。
よろしくお願いします。
最終回までこれを含めあと四話です。
伝説と呼ばれる四本の剣。
それらがぶつかり合う度に世界が揺れる。
互いの能力を互いに発動し相殺していた。
行き場を失った膨大な力が大気に逃げ、それが世界を揺らしているのだ。
見ているものには剣が見えない程の打ち合い。
打ち合う二人は目を見開き瞬きすらしていなかった。
互いにそんな余裕は無い。
その一瞬が勝負を分ける。
いや、一瞬という言葉すらバーンとゼノの戦いには生ぬるい。
あれ程の巨剣の影すら見えないのだ。
何十度目の邂逅の末、激しく打ち合った衝撃によって両雄は地面を削りながら互いに後退した。
そのまま二人は動きを止めて互いに見つめ合っていたが、魔帝が先に口を開いた。
「見事。余とこれだけの打ち合いを演じたのは貴様が初めてだ。まったく……人の身でありながら魔の神である余と競り合うなど不遜が過ぎるぞバーンよ」
「褒め言葉として受け取っておくよゼノ。だが、こんなもんじゃないんだろ? 魔王を吸収したあんたの力は」
「語るではないか。今の打ち合いを見た者は皆が口を揃えて次元が違うと言うだろうに、それを〝こんなもの〟とはよく言ったものだ」
まさしく魔帝の言った通り、映像を見ていたアリス達は言葉が出ない。
速いという次元ではない。
まるで二人だけ時の流れが違うかの様に彼らの目には映っていた。
しかも互いに魔法などを使わず〝ただ剣を振るっていただけ〟である。
「全力でやろう。戦いを楽しむには、俺達は多くを背負い過ぎた。そうだろ?」
「で、あるな。今暫く剣舞に酔いしれたい所ではあるのだが、それもまた無駄な時間となろう。決着をつけるならばやはり使わねばなるまい。余の力を」
その言葉が終わると同時に、ゼノは力を解放した。
ズン、という見えない何かに押されている様な感覚を、離れていたアリス達さえ感じる。
世界という器に、魔帝という巨岩が落とされたのだ。
しかし次の瞬間、その巨岩を打ち消すかの如く、今度は何かに包まれる感覚をアリス達は感じていた。
バーンもまた力を解放し、ゼノと遜色ないオーラを放っている。
本来バーンにはこれ程の力を有する時間は無かった筈だった。
今バーンがゼノと対等の力を手に入れたのはやはりアリスの力である。
彼女の存在が、バーンの力を解放し、ゼノを倒し得る力を身につけさせていたのだった。
「愛か……余には無い力だなそれは」
「そうか……そりゃ悲しいな。愛を知ればお前も変われるだろうに」
「どうだかな。そもそも余が愛する者など現れまい」
「分からないだろそんな事は」
「フフフ……貴様は本当に面白い奴だな。立場が違えば友になれたかもしれんと、そう思わんか?」
「おかしな話だが……かもしれないな」
互いに笑い出す二人。
しかし、その時間は長くは続かない。
笑い声が聞こえなくなった頃、ゼノはバーンに手をかざす。
「始めよう。これ以上は……互いに望むべき結末に関わりそうだ」
「ああ、来いよゼノ。あんたの全てを受け切ってみせる」
「フフフ……闇魔法〝暗黒の蟒蛇〟!」
ゼノが唱えるはグリードが使う闇魔法。
嘗てバーンを襲った闇魔法だが、ゼノが唱えたそれは威力がまるで違う。
ゼノの手から飛び出した巨大な漆黒の蛇は、地面を飲み込みながら大きな口を開けてバーンに迫っていた。
しかし、バーンには通用しない。
「〝因果断ち切る聖なる剣〟!」
真名を呼ばれた聖剣は光り輝き、逆に漆黒の蛇を飲み込んでいく。
しかしゼノはそうなる事を分かっていた。
既にバーンの頭上から次なる魔法を繰り出す。
「溶岩魔法〝赤黒の滅雨!」
ラグナロクは未だ闇魔法を打ち消すために力を行使している。
頭上から降り注ぐ溶岩の雨に、すぐには対応できない。
更に魔王は畳み掛ける。
全身から禍々しい形状の武器が現れ、バーンに向けて飛び出していった。
「ちぃっ!」
バーンはまず溶岩魔法を時空魔法で吹き飛ばす。
更にバルムンクで地面を突き刺すと、割れた床が一人でに浮き上がった。
バルムンクの力で地面との因果を紡いだバーンは、その瓦礫でゼノの剣をなんとか防いでいく。
未だに漆黒の蛇にラグナロクは力を使っている。
そうなる様にゼノは出来るだけ巨大な魔法を放ったのだろう。
更にゼノはまるで第五魔王の様に身体を大きくさせた。
バーンと同程度だった身長は三メートル程になり、更にルリーナの如く強力な身体強化魔法をかける。
ゼノは三度魔法を唱えながら、今度は自分自身でバーンに突っ込んでいった。
「地殻魔法〝大地の軋轢〟!」
ゾブングルの魔法で大地が揺れる。
激しい地鳴りと共に大量の土砂が城の屋上に舞い上がると、その全てがバーンに向けて降り注ぐ。
バーンは未だ大量に飛んでくる武器を捌いていた。
漸く消し切った闇魔法から解放されたラグナロクとバルムンクで飛び交う剣を粉砕していく。
しかし、今度は大量の土砂がバーンに襲いかかった。
「くそっ!? ぐっ!」
土砂が隠れ蓑になり、禍々しい武器がバーンの右足に突き刺さってしまう。
更に土砂はバーンを掴むかの様に下半身にまとわりつくと、そのまま身体を締め上げていく。
「ぐあああっ!」
そして、ゼノが自身が出来る最大の強化をした拳をバーンの腹部に叩き込んだ。
「がっ!?」
下半身を封じられ、回避も防御も出来ずに直撃を受けたバーンの鎧が砕け散り、腹部にゼノの拳が突き刺さる。
ギリギリまで土砂で掴んでいたのをゼノが解放すると、殴られた衝撃によってバーンは大量の血を吹き出しながら吹き飛ばされ、そのまま城下に向けて落下していった。
「手応えありだ。流石にこれだけの力を得ては負ける要素がない。ではトドメを刺すかな。世界は魔族に微笑んだ」
ゼノは飛び、バーンに向けて移動を開始する。