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第百三話:人と魔

第百三話です。


よろしくお願いします。


鼻が詰まってます。

 

 アリス達三人がバルコニーまで下りると、そこにはマリアをはじめとする勇者一行とザディスの姿があった。

 両者は向かい合い、互いに微動だにしていない。

 ふと、ザディスがアリス達に気付き視線を移す。

 そこにはザディスにとっては仇敵であり、また好敵手である八代目勇者の姿があった。


「……ディーバ」


「ザディス……」


 互いに思うところがあるのだろう。

 視線も身体も動かさずに二人はしばらくの間見つめ合っていた。

 先に口を開いたのはザディスだった。


「どうやら封印が解けたようだな。こうして貴様と再び話す日が来るとは思わなかったぞ」


「ああ、俺もだ」


 二人以外はその光景を静かに見守っていた。

 周りにいる彼らにとって、ディーバという勇者とザディスという魔王は最も身近な存在。

 その二人がこうして話している姿は不思議な光景であった。


「魔帝様とお話になったか?」


「ああ……大体は今の状況が分かっている。今の俺にはどうすることも出来ないこともな」


「今しがたこの者達にも今の状況を話していたのだ。そして、先に進んだところでバーンの足手まといになるだけだともな」


 集まった勇者一行は悔しげに俯く。

 ここまで来てバーンの力になれないのが口惜しいのだ。


「魔王が魔王たる力の源を抜かれた我らはその辺にいる魔物と変わらぬ。まぁ、多少は魔物より手強いがな。そして、破れた魔王達の力を魔帝様は吸収した。我ら魔王を救う為にな」


 この世界のシステム。

 魔帝を蘇らせぬ為に作られた存在、魔王。

 彼らは生命体というよりは世界の部品のようなものである。

 死して尚浮かばれない魂を救うには世界を変えねばならない。


「魔帝様は世界を壊すおつもりだ。そして人間に変わり魔族が繁栄した世を創る。魔帝様が勝てばそうなるだろう。それには私の命もお渡ししなければならないが、魔帝様が勝った瞬間命を絶つつもりだ」


「だったらお前は死なないな。我が息子バーンが勝つのだから」


 ディーバがニヤリと笑うと、ザディスも笑った。


「バーンが勝てばアリスよ、貴様の魔法で世界は変わる。そうであろう?」


 アリスはこくんと頷いた。

 彼女が最後に渡された魔法は〝白銀の律(シルバーロゥ)〟。

 魔帝を倒したその時に発動できるその魔法は、世界のシステムを破壊し、魔王という存在を消し去る魔法。


「ザディスさん……あなたは……」


「そう、どのみち私は間も無く消える。だが構わない。私は今でも人間を憎んでいるよ。その身勝手さが私達魔王を生んだのだからな。魔帝を封じるという名目により、人間の負のエネルギーの集合体として命を与えられた我らは一体なんなんだ? ただの道化ではないか。私のこの意思すら人間の負の感情だとするならば、何の為に私はいる? 私は一体何だったんだ? 人間の世界に必要の無いもので作られ、その実人間の為に生み出される……矛盾極まりない」


 ザディスの言葉に誰も何も言えなかった。

 それはただの事実。

 魔王とは人間の為に生み出された存在。

 にも関わらず人間を滅ぼしたいという欲求に駆られる矛盾。

 人間の手のひらの上で、哀れに踊る操り人形だと断じてもなんらおかしくない。


「私は人間なのか? 魔王なのか? 魔物とは? 魔界とは? 全ては人間の神、古代人の創り出したシステムから生み出された人間のカスだ」


「それでお前はあの時……」


「そう、人間こそが悪だ……そう言った」


 仮に自分が魔王の立場なら同じだったろうと誰しもが思った。

 彼らが倒した魔王達もそれを知っていた。

 知った上で魔王として在り続けた。


「だがそれも終わる。魔帝様かバーンか、どちらがかってもな。正直私はもうどちらでもよい。この無駄な輪廻が終わるならそれで……」


「変えます」


 誰も声を出せない中、アリスの言葉だけが響いた。

 ザディスはアリスを見る。

 少女はじっとザディスを見ていた。


「ほう……貴様の魔法でか?」


「いいえ、こんな悲しい事が起きないように、人間を変えてみせます」


「フハハ! 人間は変わらんよ。仮にバーンが勝ったとして人間の世が続いたとしよう。精々半月だ。人間がその喜びに浸るのは。その後は変わらぬ。誰しもが当事者でありながら誰しもが他人事なのだよ。自分さえよければいいと、悪い事は誰しもがするだろうと、そうやって僅かな負のエネルギーが積み重なり、やがてまた新たな魔帝様の様な存在が……」


「させません。確かに私達は愚かで身勝手です。私もお父さんを助けたくて冒険者になりました。でも、今は違う。世界を変えたい。ザディスさんのように、苦しむ人が生まれないように」


 ザディスは驚いた。

 アリスは彼を人だと言った。

 苦しむ人だと。

 その時僅かに、ほんの僅かにだが、ザディスは嬉しかった。

 魔王ではなく、人間の負の感情の集合体である自分を、アリスは人として扱っていた。


「……そうか。なら変えてみせよ。あの世というものがあるならば見せてもらおうではないか。お前が世界を変える様を」


「はいっ!!」


 そういって笑うアリスにザディスも思わず微笑んでしまった。

 ザディスは思う。

 ああ、私も次は人間に……と。


 その様子をジャバは涙を流してただ見守っていた。

 あの幼かった娘がこんなにも成長し、魔王を、いやザディスという人間の心を癒したその姿に、ただただ感動し、嬉しかったのだ。

 ジャバはアリスを見つめる。

 彼女はジャバが思っていたより、遥かに勇者であった。


 その時、大気が震える。

 それは世界の命運をかけた最後の戦いの幕が上がった事を知らせていた。


「始まったようだな……見るがいい。これが我らでは到達しえぬ超常の戦いだ」


 ザディスが空間に映像を映し出した。

 彼の使い魔が見ている光景を魔力によって再現しているのだ。

 その映像に全員が釘付けになる。

 勇者と魔帝は二刀をぶつけ合い、世界を変える戦いが今始まったのだ。



「見届けよう。人か魔か……」


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