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第百二話:愛と剣

第百二話です。


よろしくお願いします。


ラストバトルかぁ……。

 

 ヴァンデミオン城最上部。

 城の頂点には式典を開く際に使用される屋上が存在する。

 その為ヴァンデミオン城は頂点が平らになっており、三百六十度景色が見渡せるようになっていた。

 そこには今現在二人の人間と魔帝がいる。

 しかし、二人の人間は一切動かない。

 剣を地面に刺し片膝を付く男と、その剣を持つ男の手を包み込む様に女も片膝を付いていた。


 魔帝はまるで銅像の様に動かない二人の人間を見つめている。

 その心中にあるのは敬意。

 命を賭し、魔王八人を封じ込めたこの二人の勇者の愛の力に感服していた。

 魔帝が憎むべきは本来人間ではない。

 この世界のシステムを作り出した人間の神こそ、魔帝が憎んでいる存在なのである。


 人間の神……実際は古代人と言った方が正しい。

 魔帝を封じる為にこの様な馬鹿げたシステムを作り出したのだ。

 それに振り回されているのが今を生きる人間と魔王。

 魔帝を封印した魔法は、人の心に住み着く邪悪によって解けてしまうという欠点があったのだ。

 嫌悪、怨嗟、妬み、恨み、怒り、憎しみ……負のエネルギーが世界に満ちた時、魔帝の封印は解かれる。


 古代人達はそれを防ぐ為に魔王という人柱を作り出す。

 負のエネルギーを魔帝ではなく魔王という形でこの世界に解き放つ。

 そうする事で魔帝だけは復活させまいとしてきたのだ。

 その様な輪廻を繰り返し生み出された魔王は計八人。

 実は彼らは死後に再びこの世界に留まり続けていた。

 肉体も精神もない。

 負のエネルギーとして空中を彷徨い、世界の調律という名目で消えることも出来ずに。


 魔帝はそんな魔王達を憐れに思っていた。

 封印された状態でもこの世界をずっと見てきたのだ。

 勿論魔帝は邪悪な存在である。

 人間を滅ぼし、魔族の世界を作りたい意思は今も変わらない。

 だがそれでも、彼が一番今壊したいのは世界のシステム。


 その為に魔王達のエネルギーを自身に集める必要があった。

 魔王という存在の力を吸収し、今魔帝には魔王七人分の力を得た。

 後一人、ザディスが倒れればそれで世界を壊せる。


「さて、余の話は伝わっておるかな? 勇者バーンよ」


『今の話を俺にしてどうしたいんだお前は』


 世界のシステムについて、魔帝はバーンに念話を使い事細かに説明をした。

 知らずに戦ってもよかったのだが、そこは魔帝の気まぐれであった。


「ふむ……特に意味は無いか。貴様とは戦う宿命であるしな」


「ああ、そうだな」


「早かったではないか。勇者バーン、アリス」


 ヴァンデミオン城の屋上にバーンとアリスが姿を現した。


「お前が……」


「そう……余が魔帝。魔帝ゼノである」


 遂に魔帝と相対したバーンだったが、その目はすぐに中央にいた二人に移る。


「……親父……母さん……」


「ふむ、この二人がいては戦いにくいであろう。アリスよ、〝白銀の咆哮(シルバーレイ)〟を使うが良い。今の貴様ならこの二人を解放してやれるだろう」


「えっ……?」


「余は嘘は言わぬ。早くするがよい」


「アリス……魔帝は俺が見てる。頼む」


「分かりました」


 二人は離れた位置にいる魔帝を見ながらディーバとルインに近寄る。

 まるで今にも動き出しそうなまま、二人は固まっていた。

 アリスは魔力を練り上げる。


「いきます……〝白銀の咆哮(シルバーレイ)〟!」


 白銀の光がディーバとルインを包み込んだ。

 願ったのは勿論二人の回復。

 固まっていた時が動き出し、二人はゆっくりと床に倒れた。

 その姿は変わらず、若いままで。


「親父! 母さん!」


 バーンが二人に呼び掛けると、二人はゆっくりと目を開けた。


「ここは……俺達は……ル、ルインは?」


「親父……」


「親父って……お前……まさかバーン……なのか?」


 その時ルインも目を覚まし、ディーバの姿を見た。


「ディーバ……私達……生きて……」


「ルイン! 生きてるよ! そんなことより……」


 ディーバはバーンに指を指す。

 ルインはバーンが何者であるのかを一瞬で察した。

 その瞳からとめどなく涙が溢れている。


「ああ……ああ! バーン……! バーン!」


「母さん……!」


 母と子は二十五年の時を経て、今再びあの時のように身を寄せ合うのだった。

 ディーバの瞳からも涙が溢れていた。


「親父、母さん……二人が作ってくれた未来を……俺が紡ぐよ。今はゆっくり休んでくれ」


「バーン……あなた……」


「知らない間に……でかくなりやがって……」


 アリスも涙を流していた。

 余りにも美しい親子の愛にただただ感動して。

 バーンは立ち上がり、ゼノを見る。

 そのバーンの視線の先を二人も見て、今から何が始まるのかを察した。


「もうよいのか?」


「ああ……終わってからゆっくりするさ」


「バーン……奴は……」


「八代目勇者ディーバ、そしてルインよ、余は魔帝ゼノ。悪いがこの世界を壊す為に蘇った。貴様達には敬意を表する。しかし、この世界は一度壊さねばならんのだ」


「ゼノ……どうしてもか?」


「バーンよ……お前の言わんとする事は分かる。だがな、魔と人は交わらぬ。魔物は人を喰らい、人は魔物を殺す。相容れぬのだ。世界を壊し、古代人の呪縛を解き放つには人間は一度滅びねばならん。それを防ぎたいのなら……余を倒すしかない」


「〝白銀の導き(シルバールゥ)〟!」


「む? それは……」


 本に向けてアリスが第二の魔法を放っていた。

 それにより本からシルヴァが現れる。


「ありがとうアリス。約束を果たしてくれて」


「はい、ずっと魔力を溜めて……銀の光に導かれてきました。ここがその終着点です」


「そう……〝白銀の導き(シルバールゥ)〟は世界の中心に誘う魔法……これで最後の魔法を渡せます」


 本のページが捲られ、白銀の光がアリスに注がれる。

 最後の魔法が、今アリスに宿った。


「なるほど? シルヴァよ……貴様……」


「久しいですねゼノ。貴方にこうして再び会いたくはなかったのですが……」


「ふん……貴様のやり方に合わせる気は無い。余は余のやり方で世界のシステムを破壊する」


「出来るかしら? バーンは貴方と同じ力を持つわ」


「フハハ……面白いでは無いか。余は全ての魔族の為、憐れな魔王の為に戦う」


「俺はこの世界に生きる人の為、魂を受け継いだ勇者達の為に戦う」


「勝った方が……」


「世界を変える……」


「よい。では始めよう。ザディスは……まぁよいか。あれは優しい魔王だ。人間に対する憎悪は強いのだがな……ディーバとルインに敗れている。今も尚……な」


 ザディスは未だに生きている。

 恐らくは魔帝と勇者の戦いを見届けるつもりなのだろう。


 バーンはディーバとルインに向き直り、二人に声を掛けた。


「親父、母さん……俺に任せてここから避難してくれ」


「バーン……」


 ルインは再びバーンを抱きしめる。

 逞しく育った我が子がそこにはいた。


「バーン、お前に任せる。終わったら……酒飲もうぜ」


「親父……楽しみだ」


 父と子は手を交わす。

 それ以上の言葉を今は飲み込んで。


「バーン、この世界を頼みます。私の力はもう全てアリスに……これで二度と会う事はないでしょう。私達の過ちを……貴方が……正して……」


 シルヴァは最後に頭を下げ、本と共にこの世界から消えた。


「バーンさん……」


「アリス、後は……」


「任せろ、ですね?」


 二人は見つめ合い、抱き合う。


「必ずアリスの元に戻るよ」


「はい! 信じてますから……」


 三人が屋上から去り、ゼノとバーンだけが残された。

 二人は互いに剣を抜く。

 バーンは聖剣ラグナロクと神剣バルムンクを構えた。

 ゼノは魔剣グラムと暗黒剣ダーマを構える。

 二人は奇しくも二刀使いだった。


「バーン……始めよう」


「ああ……これが最後の戦いだ」



 勇者と魔帝の剣が世界の中心で邂逅した。


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