はじまりの章
時は現在。日本。
セミの鳴き声が響きあう比叡山に、白装束の修行僧とあたかも魔法使いのような黒いローブを、涼しい顔をして着ている人物が、ある洞窟へと向かっていた。
黒いローブの人物は髪は黒く、ショートヘアで男性とも女性ともとれる顔立ちをしている。背には黒い長方形の籠を背負い、右手には管槍のような物を握っている。先端は刃ではなく、銀の鉄で覆われている。
二人は目的地に到着すると、白装束の修行僧は深々と頭をさげ、合掌して言った。
「それでは、ご武運を」
黒いローブの人物は同じように頭を下げ、合掌すると笑顔で答えた。
「古より繰り返されてきた連鎖、私が全力をもってして、終わらせてみせます」
そして、一人きりで洞窟の中へと入っていった。それほど広くない洞窟で、真正面には鎖につながれたボロボロの鎧が、置かれているだけだ。鎧は兜から足もとまで揃っており、いたるところに怪しげな札が貼られてある。
すると、どこからともなく声が響いてきた。
『また来たのか、何度忠告しても懲りないやつらだ』
黒いローブの人物は驚きもせず、淡々と返した。
「終わるときがやってくるまで、諦めないでしょう。例え私が駄目でもね」
『もしも、俺が拒んだら?』
「その質問は、私が初めてではないでしょう。あなたがいかに協力せずとも、我々は共に行く他ないのです」
鎧の面の瞳が青く光り、仕方なさそうに言った。
『ならばつれて行け。俺と共に、おまえの目的を果たせ』
黒いローブの人物は管槍を振り回すと、鎧はあっという間に黒い長方形の中へと吸いとられていった。
一連の動作が終えたところで、黒いローブの人物が言った。
「我が名は標。そなたの過去を照らし、願わくば、現世から解放されることが我が目的。四十七代目にて、使命をまっとうすることを誓う」
標は洞窟から出ると、菅槍を再び、今度は五芒星を描く形で前方に振り、最後に地面をついた。
すると、真っ赤な鳥居が地面から出てきた。
「さて、参りますか。獅子魔道の道へ」
標が鳥居を潜ると、姿が消え、次に鳥居も消えてしまっていた。