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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
三章【異世界から来た女騎士と愛を交わした】

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第17話〔下ネタはヤメてください〕②

 会場の外に(もう)けられたくつろぎの場で椅子に座り、予選が始まるのを待つ合間、雑談をしていると組み合わせ発表の紙が配布されたと知った預言者が席を外す。――と。


「なんだか変に緊張してきました……」


 自身の腹を押さえる様に、短髪の騎士が口にする。


 ふム。


「けど、ホリーさんは何度も大会には出ているんですよね?」


「はい。今回で四回目です」


「――死ぬには、いい回ね」


 左側に座っている少女が感情のこもっていない声で言う。


「そんなぁ、騎士になってからの最長記録だったのに」


 言って、がくりと目の前の席で騎士が項垂(うなだ)れる。


「いや、死ぬと決まった訳では……。というか、予選で死ぬ可能性はあるんですか?」


 と聞くが、思いのほか失意している様子の相手からは返答がなく。代わりに、女騎士が自分に顔を向けて口を開く。


「通例であれば、闘技場に設置されたリングと呼ばれる石の台上で予選の後、本戦が行われます。内容もおそらく変わりはないと思われるので、今年も予選専用の道具を使用した乱闘方式と思います」


「乱闘……――大丈夫なんですか? もの凄く危なっかしい響きの言葉ですけど……」


「はい、予選で狙うのは頭の上につける球状の物です。それを皆が同じ専用の棒を使って叩きますので、安全は配慮されています」


「なるほど。――ちなみに、勝ちの基準は?」


「物を壊されずに残った二名が本戦出場となります。そして、本戦からは一対一で行う勝ち抜き戦です」


 なるほど。


「ジャグネスさんは、去年の大会にも出たんですか?」


「ぇ。ぁ……はい、一応……」


「やっぱり、騎士団長は出ないとイケなかったりするんですか?」


 ん、まてよ。だとしたら参加するかしないで悩んだりは。


「騎士の(ちょう)(せき)を置く者の参加は、本人の意思で決めていい事になっております」


「そうですか。けど、ジャグネスさんなら予選どころか楽に優勝してしまうのでは?」


「い、いえ。その様な事は……――事実、去年は本戦にて敗退しました……」


 え。


「敗けたんですか? 一対一の試合で、ジャグネスさんが?」


「ぇっと、はい、その……――はい、敗けました」


 信じられない。一体――。


「――相手は?」


 て聞いたところで、分からないか。


「対戦した相手は、ヨウも知っている」


 まで話した途端に。


「お待たせいたしました。予選での組み合わせを(しる)した紙を、いただいて参りました」


 数枚の紙を手に持った預言者がひっそりと言い、そして微笑む。


 久しぶりで若干驚いてしまった……。


「ちょっとアンタ、きたわよ」


 項垂れたままの短髪の騎士に、強めの口調で少女が声を掛ける。


 ム。――もしかして……?


「おや。どうも眠っている様子ですねェ」


 緊張感がない。というかは、ある種の不安すら覚える症状だ。






「よ、よかったぁ。――ジャグネス騎士団長とは別の組みでした」


 見るからに安堵(あんど)の表情で短髪の騎士が言葉を出す。


「二人の出番はいつ頃ですか?」


「――私は、予選最後の組みです」


 と女騎士が告げ、次いで。


「ジブンはジャグネス騎士団長の、前の組みです」


「そうですか。――試合中、皆と応援はしますが、大怪我だけは負わないように頑張ってくださいね」


「勿論です。私の身体は、今や私だけのものではありませんから、ご安心ください」


 もの凄く誤解を生む言い回しなのだが。


 しかし、周りも本人の性格を知っているからか取り立てる事はなかった。


「ワタシの場合は、ヒドイ怪我をするほど長くは残っていないので大丈夫です」


 確定なんですね。


「――ていうか、いっそケガでもして、死んだふりしてるほうが安全なんじゃないの?」


「死んだふり? なんですか、それ」


 ム。――そうか。


「要は倒れて、敗けたふりをするんです」


 死ぬと(しばら)くしたら消える世界で死にマネをしようなんて、普通は思わない。


「気絶するってコトですか?」


「実際にするのではなく、演技をするんです」


「なるほど、でもなんの意味が?」


「状況にもよりますが、既に敗けた相手を攻撃したところで特はありません」


「おお、なるほど!」


「ただ演技する瞬間を見られたり、見抜かれた時は深刻です」


「な、なるほど……」


「――ま。頭につけてる物を見られたら、一発でバレるんじゃない?」


 死んだふりを提案したのは鈴木さんなのだが。


「……――試合は、台の上で、やるんですよね?」


「はい、石台の上でやります」


「なら地面との間に高低差はありませんか? もしあれば、台の端で頭の先を下に隠すとかで……」


 なんか言ってて、馬鹿(ばか)らしくなってきたな。


「ヨウジどの、どうかしましたか?」


「いえ……、なんでもありません。とにかく、そんなかんじです」


「なるほど。ふむふむ、イケそうな気がしてきました」


 え。


「まさか、……実践するつもりですか?」


「え、駄目なのですか?」


「いや、駄目ではないですけど……」


 不安しかない。


「――アンタ、騎士の気位(プライド)みたいなもの、ないわけ?」


「プライド? なんですか、それは」


「背中の傷は的なヤツよ」


「え。ワタシ、背中に傷があるんですか? ――ど、どこですか?」


 言いつつ、短髪の騎士が座ったまま自身の背を見ようと顔を左右に動かす。


 仮にあっても、鎧が邪魔で見えないと思うのだが。


「ホリーさん。鈴木さんは、敵に背を向けて恥ずかしくないのか、と聞いてるんですよ」


「――恥ずかしい? どうしてですか?」


 聞かれて、困る。


「騎士ってのは、ナニかを守るのが仕事でしょ。障害から逃げて、ナニを守るってのよ」


 (いや)、最初に提案したのは。


「……でも守るのは頭の物ですよ? それに恥なら山ほど()いてきたので気になりません。今は笑う知人も近くに居ませんし。見せ物だと思って皆に楽しんでもらえれば、それで」


 ム。


「アンタ……。――ダメ騎士」


「はいッ」


 駄目になった理由の(いく)らかは鈴木さんにある気がする。






 予選に出る二人とは途中で別れ、先導された特別な高所(ばしょ)から直径二十メートル程の四角い石台(リング)が中央にある場内の様子を見る。


 まさに観戦って感じだな。


 ――台の高さは一般人の膝上くらいで周囲は砂地。それを囲む様に壁で仕切られた観客席は既に多くの観戦者で埋め尽くされている。


 それ故に、申し訳ない気持ちで。


「やっぱり俺は、一般席の方に……」


 隣の預言者に向けて言う。しかし返答は直ぐ別の口から。


「水内さんて、ほんとマジメね。いいのよ、気にしなくて。そもそも、水内さんが向こうに行ったからって、誰かと交代するわけでもないでしょ。一人分、余計に埋めるだけよ」


 と少女が、自身の胸元までを隠す落下防止の塀に片手を掛けて振り返り述べる。


 ム。――確かに。


「ね。この大層な椅子には、誰か座るの?」


 唯一ある立派な腰掛けを指し、預言者を見て、少女が聞く。


「本来は王の席です。しかし現在持病の腰痛で床に()している為、今回は空席でしょう」


 腰の調子がって話は、本当だったのか。


「そ。なら、わたしが座っても文句はないわね」


 いや、そんな訳――。


「仰るとおりです。(かえ)って、救世主様に着座していただいた方が座席も喜ぶかと」


 ――いいんだ。


「見えにくいから、椅子だけ前に動かすわよ」


「ええ、どうぞ」


 そうして自由に振る舞う少女が体格にそぐわない椅子を動かそうとして難航するのを見、横から手伝うと一言告げて手を貸す。


「ぇ。ぁ、ありがと……」


 なかなかに重たい。


「――どの辺に?」


 次いで返る指示に従って動き、椅子を置く。


「ありがとう、助かったわ」


「いえ、これくらいの事は」


 そして、座り心地などを確かめる様に少女が着席する。しかし、明らかに合っていない座席には結構な空きが出来ていて、直ぐさま気づいた御嬢様がこっちを見る。で少し間を置き、最も本人から離れた所に立っている魔導少女の方を向いて。


「ね、こっちに来て隣に座りなさいよ。楽だし、眺めもいいわよ」


「いい。ヨウに抱っこしてもらう」


「え――なに、それ。その権利、わたしに譲りなさいよ」


「おや、いつの間にそのような事態に」


 まてまてまて。


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