第14話〔それはそうとして ノリノリである〕②
女神祭初日の夜、昼間の頑張りもあり先に眠った少女が居ないリビングで談話の時。
「本当に取り置きしておかなくていいんですか?」
と、自分に体を預けて座る、相手に念押しで聞く。
「はい私の分は、お気になさらず……」
ふム。――余程、試食のもずくが衝撃的だったのだろう。
そんな記憶が強く残っている内に執拗な事をするのはよくないので、話題を変える。
「――たこ焼きの件は、それとして。ジャグネスさんの方はどうでしたか? 見回り中になにか変わった事とかは」
「変わった事ですか? そう、ですね。特別その様な事は起きていません。ですが今年も迷子は多いです」
なるほど。
「中には祭りの度に迷う子も居て、ちょっとした顔見知りです」
そう言う相手に、やんわりとした優しさを見る。すると、見られていることに気付いたのか、目が合う。
「えっと、私の顔に何か……?」
「いえ。なんとなく、子供が好きなのかなと」
「ぇ――そっ、そんなふうに見えましたか……?」
「なんとなくです」
「……なるほど。――そう、ですね。子どもは好きな方です。ただ自分の子となると分かりませんが」
ム。
「そうなんですか? 何故」
「……――その、自分でも何故か分からないのです。けど、なんと言うか……喧嘩になりそうで」
何故こっちをチラチラ見るのだろう。
「――それは、親に苦手意識があるというところからですか?」
「そ、それとはまた別ですっ」
ふム。――あ。
「ひょっとして、将来的に子を持ちたくないという?」
だとしたら、その気持ちに配慮しなければ。
「い、いえっ。そういう訳でもなくて、ですねっ」
ムム……?
「たったぶん子は、自ずと出来てしまうと言うかっ――必然として、望ましくっ」
……おのずと?
「――あの、いま話してる子って、何の子ですか?」
「ぇ。それは勿論、私と――ヨウの子に決まっているではありませんかっ」
預けていた体を離し、顔を迫らせる相手が声を立てて言う。
「そ、そうですね……」
まるで自然発生するかのように言うものだから、向こうとこちらとでは体制が違うのかと思ってしまった。
「――ち、ちなみに、ジャグネスさんは男の子と女の子なら、どちらが?」
失礼なコトを言ってしまった気もするので、ここも話題を変える。
「えっと、私はヨウとなら、どちらでも……」
なるほど。まあ自分もこだわりはないが。
「確か、男女比は女の人の方が多いんですよね?」
「はい。大抵は女の子が産まれます」
「それって、なにか特別な理由があっての事なんですか?」
「いえ、そういう訳はないと思いますが。一般的には世界を守護するのが女神様だからではないかと言われています」
「なるほど。――けど実際、国を守ってるのも女の人が多いですもんね」
「ぁ。それにはちゃんとした理由があって、簡単に言うと男性より女性の方が体内の魔力量などに恵まれているのです。なので、戦闘は女の得意分野となります。ヨウの居た世界では違うのですか?」
「……――そうですね。ある意味では、得意分野かも、しれませんね」
と言った自分の言葉を聞き、微妙に理解が及ばなかった様な表情を相手がする。
「けど、ジャグネスさんのお父さんは男なのに、凄いですよね……?」
聞くと、あからさまに物憂げな様子で。
「預言者様のお言葉をお借りして言いますと――何事にも例外はつきもの、です」
ふム。
「まぁそのおかげで助かった事もありますし、度々忠告っぽい事もしてくれてますから、そうそう無下には出来ませんよ」
「え。どういう事でしょう? ここ最近に父と話をしたのですか?」
そう言ってぐんと詰め寄る相手に気圧され、ソファの上で、やや逃げる。と――。
「何故、逃げるのでしょう? やはり何か善からぬ事を吹き込まれたのですか?」
――更に寄ってきた相手に服を掴まれ、逃げ道を失う。そして、そこから尚も詰めようとする状況に。
ムム。
押し切られる形で話した内容を聞いた女騎士の、気迫に満ちた立ち姿を後ろから見ながら、先行きの不安に――。
「あの様な不躾なモノは、やはり斬っておくべきでしたッ」
――合掌をしておく。
女神祭二日目の午後三時、前日より二時間も早く完売した激しい闘いのアトで屋台に体をもたせかけて休息する自分達の所に、予約していた御客がやって来た。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
様子を見た男児の第一声に答えるべく店から体を離し――。
「大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
――次いで、同伴の女性に顔を向ける。
「お久しぶりです。預言者様から伺っている取り置きの分ですよね?」
と聞く自分に、メイド服を着る相手の女性が小さく頭を下げる。
「こちらこそ、ご無沙汰しております。――はい、その件で参りました」
「分かりました。ちょっと待ってくださいね」
言って、近くに置いていた予約の品が入った袋を取り、相手に差し出す。
「食べる直前に温めてから、食べてくださいね」
「承知いたしました」
そう言って品物を受け取る相手。が不思議そうに自分を見た後。
「いささか変わった風貌で……――普段着でしょうか?」
「断じて違います」
「そ、そうですよねっ。失礼をしました」
気持ち慌てた様子の相手に、いえと返す。すると若干離れた傍らで。
「どうし様カッコイイッ」
「しかも飛べる」
「どうし様スゴイッ!」
いや、飛べる事と今の恰好は関係ないと。
「ではまた屋敷にもお越しください。当主のクーア様も皆様にはお会いしたいと申しておりましたので」
「はい。いずれ、機会を作って」
「ゼッタイだよっ」
「はい、絶対に」
そして、別れの挨拶と手を振る二人の姿を見送る。
――暫くして、店の片付けを終えた頃に現れた二人の内の預言者が。
「今、どのような感じでしょうか?」
「ちょうど片付けが終わって、これから報告しに行こうと思っていました」
「おお、それは互いに都合のよいグッドタイミングです」
相も変わらず勉強熱心な事で。
「――都合がよいと言うのは?」
「アリエルだけでなく私も、本日は勤めを果たし終えました。ので、これから皆で他の店を見て回りませんか?」
ム。
「それは面白そうですね。是非、見学したいです」
「では、さっそく参りましょう」
いいえ、先に余計な物を脱ぎます。
そうして急遽いつもの顔ぶれで女神祭の出店が並ぶ通りに向かい。二人一組で縦になって歩く一番後ろから、行く先々の店を楽しんで眺める。
うーん。
他店を見、改めて思う。自分達の店が、もの凄く目立っていたのだと。
今更ながら恥ずかしくなってきた。
などと独りで気恥ずかしくなっていると先頭が進路を変え、近くの店に寄る。
ム。
で自分も後に続いて寄る、と雰囲気からして射的をする店の様だった。――が。
「へぇ。弓でやるんだ?」
最初に目を付けたであろう少女が弓の置かれた台の前で側に居る短髪の騎士に聞く。
「はい。矢をマトに当てた結果の得点で景品がもらえます」
「面白そうね。ちょっとダメ騎士、撃ち方とか教えなさいよ」
「え、――あ、はい。いいですよ」
という訳なので、店の人に料金を払い。ついでに気になった立て看板に指輪の光を当てて、文字を読み取る。
「こんな感じでいいのね?」
それを聞いて、なんとなく少女の方を見る。
「あ。鈴木さん、そのままだと耳を打つので角度を変えたほうがいいですよ」
「――え、そうなの?」
「はい、この看板に書いてます。危ない撃ち方の一つとして」
言うと当然の如く少女の刺すような視線は指導者の方へ。
「ちょっとアンタ、どういうことよ?」
「す、すみません。最近は弓を使う事もなかったので、忘れていました……」
「ったく。ま、いわ。――で、どこを狙うのよ?」
「あそこにあるマトです」
短髪の騎士が先にある的を指す。
「ん? どこよ?」
「え? あそこですよ?」
「だからどこよ? 分からないから近くに行って」
「あ、はい」
と返事をして、短髪の騎士が台の隙間から中に入ろうとする。
ダメ、誘導っ。




