第13話〔それはそうとして ノリノリである:出店編〕①
おお……。
祭り一色になった城下の出店通りを抜けて直ぐ、一際異彩を放つ店舗に思わず客観的な
驚きで呆と眺める――と。
「ムチャクチャ浮いてるわね……」
隣で立ち止まった少女が即、感想を述べる。
もっともな意見だが、決して間違っているとは言えない。寧ろ、その努力は称賛にも値する程だ。などと内心、納得しようと試みる自分の視界で知らない文化を目の当たりにした二人が店の周辺にぶら下がっている赤の祭り提灯を見上げながら。
「変わった装飾ですね、エリアル導師。――何かを、模した物でしょうか?」
「知らん」
「あ、なにやら描いていますよ。――異世界の絵でしょうか?」
「知らん」
「よく見たら表面が波打ってます。――もしや動く……?」
「知らん」
無視しないだけマシなのだろうか。
そんな訳で世界観の異なる店の外見に惑う親近感を抑えつつ、新たな問題に直面し目を背けたくなる。
……ま、眩しい。
最初から、なんとなく変に明るいとは思っていたが想像になかった自体だ。
「バッカじゃないの……」
同じように黄金で輝く業務用のたこ焼き器を目の前にして、少女が呟く声で言う。
馬鹿とまでは思わないが、言いたくなる気持ちは若干分かる。
そういえば、こっちの世界で金はあまり価値がない鉱物だった。
ただ、さすがに二人もこの状況には困惑している様なので、基本成金思考という訳ではなさそうだ。
「――どうでしょう、気に入ってくださいましたか?」
驚きはしたものの、慣れた感覚で振り返る。と其処に白のローブを着た預言者が。
「店はいいけど。これはちょっと、やり過ぎじゃない?」
「おや、そうですか? ユーリアの希望を全て通した結果なのですが」
タルナートさん……――。
「――ちなみに、預言者様はどうして、ここに?」
聞くと、相手は手を合わせて。
「そうでした。ユーリアからの伝言を預かって参りました」
ム。
「どんな内容ですか?」
「はい、洋治さまにお願いされた材料はそちらの箱に入っているという事と、差し入れを用意したとの事です」
言いながら、店の内側に重ね置かれていた幾つかのクーラーボックスを手で示す。
「差し入れですか――」
――どれだろう。
「ね。これじゃない?」
と少女が近くにあった保冷箱を見て、言う。
そしてナゼ分かったのかと思いつつ近寄って箱を見る。と上に貼られた紙に答えが書いていた。
なるほど。
「開けてもいい? 水内さん」
どうして自分に聞くのかと思うも興味津々と寄ってきた皆の意向を察し、了承で返す。
「じゃ、開けるわよ」
――で開けた箱の中は、ぎっしり詰まったメロンパンだった。
何故にっ。
「なんで、メロンパンなのよ……」
「――メロンパン? 随分と可愛らしい名称なのですねェ。実に、見た目とも合っております。してパンと言うコトは、私の知る物なのでしょうか?」
「まぁ大体は同じですよ。ただパン菓子は甘いので――。よければ食べてみますか?」
「おや宜しいのですか?」
そう聞いてくる相手に、沢山あるからと箱から一つ取って、渡す。
「意外と重いのですね」
ふム。――表面がクッキー生地だからだろうか。
「アンタたちも食べる?」
少女が物欲しげな顔をしていた二人に聞く。
「え。いいのですか?」
「そりゃ差し入れなんだから、いいでしょ」
「なら是非ともくださいっ」
そして箱から出されたメロンパンを短髪の騎士が受け取る。
「む。なにやら模様が」
と第一印象を口にする騎士、の横から――。
「カメ」
――魔導少女が述べる。
なるほど、亀はこっちにも居るのか。
すると短髪の騎士が突然自身の額を押さえて声をもらす。
「ホリーさん……?」
「だ……大丈夫です。一瞬ナニかよくない事を思い出しそうに……」
なんの事だろう。
――女神祭の初日、店に因んだ服装だと用意されていた伝統的な祭り法被とねじり鉢巻を付け、更に何故か腹巻きや下駄を着用した恰好で、黄金たこ焼き器の前に立つ。
なんだコレは、てか眩しい。
「水内さん、あとで写真撮ってもいい?」
若干ニヤニヤした顔で少女が聞いてくる。
「できれば遠慮願いたいです。――というか、カメラを持ってるんですか?」
「ポラロイドなら持ってるわよ」
「またえらく珍しい物を持ってるんですね……」
鈴木さんだから納得はするけど。
「そんなコトないわよ? 最近チェキが流行ってるから、品揃え豊富なのよ」
チェ、チェキ? チョキではなく?
と意味も分からず手をグーにして見る。
「にしても、目に悪そうね……」
輝くたこ焼き器に目を向けて少女が呟くように言う。と――。
「それならジブン、好い物を持っていますよ」
――横幕のある台の向こう側で話を聞いていた短髪の騎士が、ガサゴソと何かを取り出し、こっちに見せる。それは。
「サングラスですか……?」
そういえば、いつぞや見た気がする。
「はい。預言者さまにお借りしている七つ道具の一つです」
残りの六つが気になるところだが。
「ええと。それを貸してもらえるんですか?」
「お役に立てそうなら、是非にも」
多少視界は見え難くなるが、見えないよりは好い。
「では、お借りしますね」
言って、サングラスに手を伸ばした途端に小さな手が伸びてきて物を掻っ攫う。
ム。
何と見る先に、自分と同じ恰好で足りない分を踏み台に乗って補う魔導少女が。そしてサングラスを付け、こっちを見。何故か新たに出した同種の眼鏡をこちらに差し出す。
「ど、どうも?」
で雰囲気的に眼鏡を受け取る。
「エリアル導師……」
そう呟く短髪の騎士を傍目に――妹さん、似合ってるな――と思う。
販売が始まった直後に後程と言って去った預言者と入れ替わる形で来た御客を二台と二名の売り子で対応していく内、ふと気付けば順番を待つ人の列が店の前にできていた。
おお……――いつの間に。
「水内さん、普通のとチーズが八つ、でチョコ六つね」
注文を聞いてきた少女が台を持って顔を上に出し、告げる。
「分かりました」
と返事をする自分の隣で、前回の注文内容を魔導少女が目の前の台に置く。
おお早い。
「――ん。次も、急ぎで頼むわ」
置かれた品を確認したのち、そう言って商品を持ち、少女が御客のもとへ向かう。
ふぅ。――ん?
汗をかいていた訳ではないが、何気なく額を拭おうとして気づく。通常であれば熱を前に作業をしている以上、もっとこもるべきモノがあるはずだと。
――ム?
そして意識した途端に違和感となる清風をさかのぼった身近に、魔導少女が。
魔法って、便利だな。
初っ端から早々に完売という偉業を成し得たものの、黒字なのか赤字なのか分からない輝かしい商売道具の前で一息をついていたところにやって来た見回り中の女騎士と同伴の騎士二名に、品切れした商品の代わりとして、メロンパンを渡す。――と。
「サクサクした生地の香ばしい甘さとふんわり食感が溶け合って、しっとり! サク・ふ
わ・しっとり!」
それを見て、何故かホッとする。
なるほど、しっとりかぁ。
【補足】
たこ焼き≪チョコ≫は、結構イケました。




