第12話〔どげんかせんといかん〕②
わざわざ世界を移ってまで得た情報は、文字通りパッとしないものだった。
「つまり、なんでもいいと?」
「はい。お二人なら、とうに気づいていると思いますが。双方の世界に大きな意味で違いはありません。それは趣味嗜好でも同じです」
そう、真剣な表情で、自分と少女に猫耳ゆるふわパーマの相手が告げる。
「……――そうですね。それについては度々思う時がありました」
「細かい事を言えば魔力濃度や、似て非なる文化は確かに存在します。しかし感覚として受け入れやすいというのが本音です」
受け入れやすいというか。
「ていうか――完全に毒されてるわよ、アンタ」
言われ、自覚がありそうな表情をする猫耳ゆるふわパーマ。
「――ちなみに、タルナートさんはこっちのお祭りは好きですか?」
「そですね。異文化交流も兼ね有名どころは制覇しました。特に三大祭の一つ、天神祭には毎年イケメンを探し――じゃなくて、花火を見に」
ヘタに誤魔化した所為で、余計に強調されているのだが。
「なに、アンタ。三十にもなって独り身なわけ? サバなんか読んでるからじゃないの」
言われた相手が即唖然とする。
ヤメたげてっ。
「……鈴木さん」
「ん。――ま、いわ。最悪、アンタも水内さんの取り巻きになりなさいよ」
いや、なにを。
「え――どういう事です?」
こっちに聞かれても……。と返答に困る、と。
「草食系男子の代表みたいな見た目で中身は肉――……今流行りのロール男子ですか、洋治さんは」
いや、それだと何に巻かれてるか分からないからっ。というか巻物状の男ってナニっ。あと何故に急な、さん付け。
そして――。
「ヨロシクお願いします」
――三つ指をついて相手が頭と耳を下げる。
エエ。
「この手のタイプは重たいわよ、気をつけてね」
どの口が言う……。
一先ず話の路線と雰囲気を正し、改めて、質問をする。
「タルナートさんはお祭りに行ったら、なにか買いますか?」
「そですね。必ずという訳ではないですが、やはり粉ものに目が行きがちです」
「お好み焼きとかですか?」
「それもありますが。やはり、たこ焼きです。初めて見た時はいろいろ驚かされました」
「なるほど、たこ焼きですか。いいかもしれませんね」
「――ん。たこ焼きを出そうってコト?」
「はい。鈴木さんはどう思いますか?」
「そ、ね。悪くないと思うわよ。でも、たこ焼き器なんて向こうにあるの?」
あ、そうか。
「それならワタシが用意しましょう」
ム。
「あるんですか? たこ焼き器」
「家で使うようなちっちゃいのじゃ、話になんないわよ?」
「――今は、ありません。しかし女神祭の当日に合わせ、手配します」
「それはさすがに、タルナートさんに迷惑が……」
「いいえ、フェッタ様に話を通しますから問題なしです。店そのモノも任せてください」
「なんか至れり尽くせりで、申し訳ないです」
「その代わり、うちの方でも、たこ焼き器を使わせてもらうやもしれません」
「はい、全く以て構いませんよ」
「あとそれとは別に――ワタシの前途も、ヨロシクお願いしますね」
そんなゴマをする様に言われても。
「で、どうするの?」
店を出た後、少女が率直な質問をしてくる。
「そうですね。店の事をタルナートさんに任せるにしても、販売は自分達でやる訳ですから、他の必要な物をこれから買いに行きましょう」
「そ、ね。作る練習もしなきゃイケないし」
ああ、そうか。
「ならどのみち家庭用のたこ焼き器は要りますね」
「ん。材料とか見て、工夫もしましょ」
「ですね。では――」
――と言い掛けたところで、腕の服を後ろから引かれ、振り返る。
「ホリーさん?」
そして何事かと名を口にすると、相手が思案しているような顔で魔導少女の方を指差す。
ム。
流れ的に目を遣る。其処に、もぎ取ったかの様な猫耳の片方を持ち冷笑を浮かべ眺めている少女が。
なにがあった……?
――そこから、近場のスーパーマーケットに行き、店内で各自自由行動とした後、食料品コーナーにて基本的な食材を探しカートを押す。
先ずはたこ焼き粉。あとは、パッケージの裏を見ればいいか。
と順序を定め、行動に移そうとした矢先――先ほど別れたばかりの魔導少女がやって来て、手に持っていた物を自分に見せる。
ム。
それはクマの形をしたパンだった。
「どうしたんですか? それ」
すると相手が今やって来た方向を指す。
ふム。
「持ってきたのは、それだけですか? 他の物を触ったり、食べたりはしてませんか?」
現在進行形で直接手に持っているパンを見、不安になったので聞いてみる。と縦に二回、返事が振るわれる。
「そうですか。なら他に欲しい物があるかもしれませんし、それがあった場所まで連れて行ってもらえますか? ついでに、買い物の仕方とかも教えますので」
言うと、相手が頷き。次いで、こっちとカートを持つ手を軽く引く。すると其処に――。
「ヨウジどのーっ」
――と短髪の騎士が来る。――そして。
「こんな物を見つけました!」
力のこもった口調で、相手が手に持っていた物を自分に見せる。
「……もずく? どうしたんですか? それ」
「はい、変わった物がないかと探していたら見つけましたっ」
なにゆえ。
「ええと。用途は……?」
「ええっと、タコヤキなるものに使えないかと思いまして」
一体どういうモノを想像しているのだろうか。――まあしかし。
「そうですね。なら、このカゴの中にお願いします」
試行錯誤する上で面白いかもしれない。
「はい――こんなかんじですか? む。なにやら可愛げのある物を持っていますね、エリアル導師。どちらで見つけたのですか?」
「――向こう」
指は使わず、言葉のみで魔導少女が答える。
「ちょっと分かりません……」
いや、ちょっとどころではないと思うが。
「ちょうど、これから向かうところなので。ホリーさんも一緒に、どうですか?」
「おお本当ですか。是非とも共にっ」
「はい。では妹さん、案内をお願いします」
で頷く、魔導少女。が短髪の騎士に顔を向け、こっちだ。と言わんばかりの表情をしてから、動き出す。
「ぇ? ――あ、待ってください、エリアル導師っ」
そして向かった二人の後を追おうとした途端に、横から来た少女に気づき、足を止める。
「あの二人。なに、はしゃいでんの?」
行く二つの背を見ながら少女が、ファッション雑誌らしき物をカゴに入れつつ、言う。
「知らない所に来たらテンションあがるなんて、まだまだ子供ね」
そう言う相手に返す言葉を探す内、何気なく見たカゴの中で雑誌の下に隠すように置かれていた菓子が目に入ってしまう。
ふム。
「――子供っぽいのも、それはそれで好いと思いますよ。俺は」
「え。そ、そう……?」
と照れ臭そうに少女は言った。
その日の夜、試作品を食した感想を述べて物がのった皿をダイニングで掲げる女騎士に。
「という訳なので、度々試食をお願いすると思いますが」
「はいっヨウの力になれるのなら、喜んで!」
「助かります。ただ、変わり種というか、失敗する場合もあるので……」
「――勿論です。それも踏まえ、ヨウの力になれればと思います」
掲げていた皿をテーブルに置く相手が微笑んで言う。そして直ぐに、自分の隣に目を向け、何とも言い表せれない顔をする。
ム?
なんだろうと思い、横を見る。と口一杯にたこ焼きを頬張る魔導少女が――で目が合う。
「あ、熱くないんですか……?」
聞く自分に、相手が涙目で首を横に振る。
どげんかせんといかん。




