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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
三章【異世界から来た女騎士と愛を交わした】

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第1話〔うん 今日も平和だ〕①

「妹さん、大丈夫ですか?」


 眠たそうにする相手を心配して声を掛ける。と、呼び掛けに反応して振り向いた寝惚け眼の魔導(まどう)少女が自身の手に持っていた朝食のサンドイッチで、べちゃっと頬を汚す。


 ――あ。


 直ぐに、手元のナプキンを使い、相手の頬に付いたソースを自由に動く方の手で拭う。


「すみません、急に声を掛けてしまって」


 と言う自分をボサボサ髪の少女は首を横に振って否定した後、こちらの行為を妨げないようにじっとする。


「はい、取れました」


「ありがと」


 そう呟くように少女が礼を言った途端、向かいの席から、今度は何かが飛び散るような変に力強い音がして見ると――。


「ジャグネスさん……?」


 ――顔面をソース(まみ)れにした女騎士が。そしてこっちに顔を向ける。


「……――もうそれ、洗ってきたほうが早いですよ」


 言われて、何らかの衝撃を受ける動作をする相手に――あと食べ物で遊ばないよ――と心の中で言う。






 女神杯(めがみはい)で負った怪我の治療で入院し、退院をしてから一週間と少しが経った頃の日常といえる朝のひと時を楽しんでからの出勤。そんな何気ない時間と、城の廊下を並んで歩く姉妹を後ろから(ぼう)と眺める。


「――ヨウ、どうかしましたか?」


 と心配そうにする声で、我に返り。振り返っている二人を改めて見て。


「すみません。ぼうっとしてました」


「なにか考え」


「大丈夫?」


 姉の言葉に割り込む形で、妹が聞いてくる。


「はい、大丈夫ですよ」


 そして、姉がヤキモチまじりに妹を注意する最近の流れになり。いつも通り傍観(ぼうかん)する。


 ――やっぱり、なんとなく分かってきた。


 何故その感情が嫉妬(しっと)だと思うのかは、まだ分からないにしろ。


 とはいえ――。


「――ジャグネスさん、今日もお昼はいつもの時間に待ち合わせでよかったですか?」


「ぇ? あ、ハイ。いつも通りです」


「分かりました。今日も気をつけて、お仕事してくださいね」


「はい。ヨウも、十分に気を付けてください」


「はい、ありがとうです」


 で、あからさまに機嫌がよくなって前を向く姉にバレないよう、こっそりと妹が自分に親指を立てて見せる。


 ふム。






「あれ、なにやってるんですか? 鈴木(すずき)さん」


 到着した目的の部屋に入る扉の前で、腕を組み仁王(におう)立ちしていた相手に聞く。


水内(みなうち)さんを、待ってたのよ」


 ム。


「俺をですか?」


「そ、よ。さ、中に入りましょ」


 と自分の腕を取って、相手が部屋の中へ入ろうとする。


「え、あ、ちょ――ジャ、ジャグネスさんっ、そういうコトなので、またお昼にっ」


「――ぇ? ぁ、ハイ。お気を付けてっ」


 すると突然に腕を引く力が無くなり。


 ム?


「あ。悪いけど、今日はわたしと水内さん、昼は居ないわよ」


「え、どういうコトですか?」


 と反射的に質問した自分に――。


「言ってなかったけど。今日はわたしとデートしてもらうわよ、水内さん」


 ――あっけらかんと少女が言う。


 ハ、ハイ?


「どっどど、ど、どういうコトでしょうかッ? きゅ救世主様っ」


 そして当然の如く詰め寄ってきた騎士に。


「どうって、デートはデートでしょ」


「しっしかし、ヨウは私の……」


「婚約者だって言いたいわけ? 言っとくけど、わたしには関係ないわよ」


 はて、以前にもこんな遣り取りがあったような……。しかし、今回ばかりは――。


「――鈴木さん、申し訳ないんですが、さすがにジャグネスさん以外の女性とデートをするのは婚約者として、お断りするしか」


「ヨウ……」


 自分としてはあたりまえの答えを、聞いた女騎士が胸の前で手を組んで嬉しそうにする。


「ん、分かってるわよ。水内さんなら、そう言うと思って、ちゃんと納得する理由を用意してるから安心して――行くわよ」


 と再び腕が、さっきよりも強く、引っ張られる。


「え? あ、ちょっ」


「詳しい話は、中で、するから。ほら」


 相手の小さな体からは想像できないほどの力で、グイグイと。


 ぬわっ。


「きゅ救世主様っ」






 結果、引き込まれた預言者の部屋で始まった少女の説明を一通り聞いて。


 うーん。


「ど、納得した?」


「ええと……――」


 (よう)するに、向こうで買い物がしたいから付き合って欲しいという事なのだが。


「――それって、二人でないと駄目なんですか? むしろ人数をそろえたほうが」


 第一今は――。


「それにヨウは片腕が使えません」


 ――そう、それ。


「大丈夫よ。荷物持ちにしようってわけじゃないから」


 だとしたら余計に付いて行く意味が。


「ていうか、なんでアンタが居るわけ?」


 若干(じゃっかん)今更だが、自然と行き着く質問を女騎士にする少女。


「それは、その……」


 まあ聞かなくとも察しはつくが。


「ま、いいわ。――ね。水内さん、以前わたしに言ったコト、覚えてる?」


 ム。


「……――すみません。さすがに、それだけだと……」


「水内さんが、カネ貸しの連中にさらわれた時に、言ったコトよ」


 以前で片付く範囲とは思えないのだが。


「……なんて言いましたか?」


「わたしにお礼がしたいから、できるコトがあれば言ってって、言ったでしょ?」


 あ――。


「――言いました」


「だったら。約束だし、まもってくれるんでしょ?」


 ム……。


「……つまり、あの時のお礼で鈴木さんとデートをすると?」


「そ。ほんと水内さんて、物分かりがよくて助かるわ」


 ムム。


 そして悩む自分の視界に、(はた)で見ていた預言者が入ってくる。


洋治(ようじ)さま、救世主様の願いを聞き入れてくださいませんか?」


 ム。


「――よ預言者様ッ?」


「お静かに。――見ての通り、救世主様は洋治さまと外出する事を非常に楽しみにして今日を迎えております」


 そういえば、いつもより服装がオシャレだ。


「ちょっとフェッタっ」


 言いながら、少女が照れ臭そうにする。


 ム、ムム、ム。うーん。



 ***



 二人が出て行った後の扉を複雑な心境で見る女騎士に近付き、預言者は口を開く。


「そのような顔をせずとも、逢い引きなどではないと洋治さまは(おっしゃ)ったではないですか」


「はい……」


 と返ってくる言葉の中に不安を見て、預言者は問う。


名実(めいじつ)ともに婚約者となった相手を信用できませんか?」


「いえ。そういう意味での心配は全くしておりません」


 女騎士が断言する。


「では何を?」


「もしもの時に不自由な体では心配です……――預言者様、やはり私も」


「それについては心配無用です。――エリアルに二人の後を追わせ、様子を見守りながらの護衛をしていただきます」


 言いつつ、預言者が魔導少女に顔を向ける。


「――分かった」


「期待していますよ」


 そして小さく笑う預言者に、女騎士が。


「エリアル一人で、ですか……?」


「おや、自身でないと信用に足りませんか」


「い、いえっ。護衛という意味では十分なのですか……」


「なるほど、仰りたいコトは分かりました。しかしそれも心配無用です。私の予想では、そろそろ」


 と言ったところで、扉がノックされ、預言者の許可を得て短髪の騎士が入ってくる。


「ああれ? ヨウジどのが居ると思ったのですが……」


 後頭部を掻きながら困惑(こんわく)した表情をする短髪の騎士に目を向け――。


「さて、役者も(そろ)いましたし。こちらはこちらで始めましょうか」


 ――と言って、預言者は優しく微笑む。


「へ……?」


 そしてこれまでの経験から、短髪の騎士が不安な気持ちを口からこぼした。

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