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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第44話〔乙女の心をなめないで〕⑪

「どうして。どうしてっ」


 頬を打った手を胸の前で握り締め、相手が繰り返して言う。


「何について、ですか」


 はっきりと問われた訳ではなかったが、できるだけ言葉の意図を()みたいという気持ちで、言葉を口にする。しかしかえって反感を買ってしまったのか、再び相手の手が上げる。


「――一緒に、フィルマメントに、行ってもいいって言ってくれたの。あれは――嘘?」


 自分を打たずに手を下ろした相手から代わりの質問が飛ぶ。


「嘘ではないです。女神杯(めがみはい)でメェイデンが敗ければ、本当に行くつもりでした」


「そう。なら、フィルマメントへ行く為に協力するって言ってくれたのは?」


「それは……――嘘です。すみません」


「謝らないで。謝ったって、もう――」


 ――女神杯は、メェイデンの勝利で、終わった。とは言わず、相手は口を閉ざす。


「言い訳はしません。俺は、マルセラさんを騙したんです」


「……最初から?」


「いえ。信じてもらえるかは分かりませんが、最初からマルセラさんを利用しようとは思ってませんでした。というか、マルセラさんを騙したのは勝つ為ではないです」


「どういう、こと?」


「言い方は悪いですけど。勝つだけならマルセラさんを騙す必要はなかったと思います」


「なら、――どうして?」


「それは……――すみません、今はまだ言えません」


「今は?」


「……すみません」


 まだ早い。もっと周りに、人が居ないと。


「うん。――分かった。でも一つだけ教えてくれる」


「答えられる事なら」


「ようじがメェイデンに協力したのは、アリエルの、為?」


 ム。


「かも、しれないです」


「そう。――なら、仕方ないね」


「え?」


「好きな人と一緒に居たくてついちゃった嘘なら、仕方ない、よ」


 うっすらと涙を浮かべた目を閉じて、相手が微笑む。


「……それは、分かりません」


「え。――どういうこと?」


「俺は」


 そこから言葉を続けようとした途端、大きく足もとが震動(しんどう)して、地盤が(こす)れる様なゴゴという音が広い範囲で鳴り響く。


 うおっ。こ、これは。


「キャ」


 と声の上がった方を見る。


「大丈夫ですか」


 揺れが徐々に増す地上で立っていられなくなり、手をついて座り込んでしまった相手が、自分を見て、頷く。


「どうして、地面が、揺れるの?」


「え。それは、じし――」


 ――を言い終わる前に、自分達の居る場所が下から(すく)うみたいに盛り上がり、次の瞬間には浮き上がった。



 ***



 地殻変動(ちかくへんどう)の無いベィビアにおいて、大地の震動は恐怖よりも不思議が勝る。それ故、殆どの者が踏ん張る以外に対処の仕様がなかった。


 しかしアリエルは違った――。


「あれは……」


 ――意識のないフィルマメントの兵を保護の観点から地面に並べていた矢先に起こった揺れの中で平然と立って、空を見詰めていた。


「……何でしょう?」


 誰に聞くでもなく、女騎士団長が呟く。



 ***



 野外会場の空に集まっていく土色の物体。それは文字通りの、土だった。地下から地上に吹き出した砂や地面ごと浮き上がった地の、集合。そしていつしか(たい)()し、会場に居る者全ての目に入る程のモノとなって、大地に立つ。


 その姿は、巨大な人の形を()した“土の人形(ゴーレム)”だった。



 ***



「おやおや」


 白のローブを着る預言者が(さかずき)を置いた台に寄り掛かって大地の揺れに耐えたのち、手前に在る森よりも高い位置に見える、巨大な人型の出現に感想を述べるよう口にする。


 そして周囲を見渡しフェッタが歩き出そうとしたまさにその時、通常よりも一回りは大きい白馬に乗って現れた筋肉質な大男が。


「どうだ。今ならワシのここが空いておるぞ」


 と言って、自分の前を指す。それを見て――。


「では後ろに」


 ――預言者が満面の微笑みで答える。



 ***



「行くわよ、ダメ騎士」


 一言目に何と言った少女が、二言目に、そう言う。


「えっ。どうしてですか……?」


 目の前の思いがけない事態に直面し逃げ腰だったホリが嫌そうにして聞く。


「アンタ、分かってないわね。水内さんはね。ああいうのに、巻き込まれやすいのよ」


 はっとなって短い髪の騎士が、軽く拳を作り、頷く。


「い、行きますっ」


「ん。――じゃ。おじいちゃん、ありがとね」


「ほッ、おじいちゃんっ」



 ***



「エリアルちゅわん待って」


 リャマが走って向かおうとした相手を制止させる。


「なに?」


 体を前にしたまま、振り返ってエリアルが聞く。その問いに、パープルヘアのおかっぱ少女は誰も乗っていないペガサスを指し。


「あたし乗れる、――気がするの」


 そして魔導少女は暫し考えた末――。


「うん」


 ――と“親指を立てる(サムズアップ)”で答えた。



 *



 これはどういう状況なんだ。


「ね、――ようじ」


 近くで、いくつかある突起物の一つに掴まっている銀髪の姫が自分を呼ぶ。


「なんですか」


「どう、なってるの?」


 もちろん。


「分かりません」


 そして相手がキョロキョロと辺りを見て。


「高いよ、ね?」


「はい凄く」


 高層ビルから下を眺めている気分だ。


「横にあるのって、顔?」


 言われて、そっちを見る。


 うーん。


 全体的な形からして普通はそうなるが、目や口といったものは何も無い。


「ぽいですね」


「そう。うん、――どうしよ?」


 ム。


「怪我とかはしてないですか」


「うん、大丈夫。ようじは?」


「怪我はしてないです」


「そっか、よかった。でも――どうして、そんな端っこに居るの? 危ない、よ」


「できれば、そっちに行きたいんですけど。行けないんです」


「どうして……?」


「じつは」


 と言って相手に、人の形をした謎の物体に埋まっている左の脚と直ぐ(そば)の突起物に挟まっている左の腕を、見せる。


「え。――痛く、ないの……?」


「痛みはないです。それにちゃんとありま」


 ――地鳴りの様な音を立て、謎の物体が動き出す。

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