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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第42話〔乙女の心をなめないで〕⑨

「マルセラ様」


 平地を駆ける馬を見付けた後、ついさっき自分の体調を心配してくれた騎士が(かしこ)まった態度で相手の名を呼ぶ。


「ん、――なに?」


「嫌な予感がします。我々で見てきますので、マルセラ様は本陣にお急ぎください」


 ム。


「――あ、待っ」


 いや駄目だ。この状況で、下手に止めたら怪しまれる。


「なに? ようじ」


「ええと。怪我とかしないように、気を付けて、行ってくださいね……」


 そう言う自分に、相手が驚いた顔をしてからニコっと微笑む。そして――。


「お心遣い感謝いたします」


 ――と答えてから他の騎士達に声を掛け、自分達を残し、この場を皆と飛び去っていく。


 ムム。


「ね、――ようじ」


 すると初めて聞いた低い声で、手綱を握る相手が自分を呼ぶ。


「なんですか?」


「私いま、すっごくムカっとしたの。どうして、かな?」


 銀髪の相手が真剣な面もちの顔を横にして、聞いてくる。


「分かりません……」



 ***



 揺れる馬上で体を横にして器用に乗る預言者が、やや離れた空に自分達の方へ向かって飛ぶペガサスを見付ける。


「おや、気づかれてしまいましたね」


 その言葉を聞き。前に乗るアリエルは馬の手綱を引き、失速させて、止める。


「預言者様。一度馬からおりて、前へ」


 通常、地上で馬を走らせる際は手綱を取る者が後ろに座った方が安定するところを、本人の希望で逆にしていたが、全速では流石に危険だと判断しての発言だった。


「仕方ありませんねェ。ピョンピョン跳ねて面白かったのですが」


 と預言者は口元に指を添え、残念そうな顔で言う。



 *



 予定よりも早い段階で、フィルマメントの本陣へ向かう事になった状況と残り時間に不安を感じつつ。


「なん、なん――で」


 どう考えても必要のない空中旋回(パフォーマンス)に苦闘する。


「気晴らし気晴らしィ!」


 騎馬だけにぃいあぁ落ちるぅう。



 ***



 後方に迫るペガサス隊との距離を見て、アリエルは腕の間に座る預言者に問う。


「預言者様、馬術の心得は?」


「普通に走らせる程度であれば」


「ではお願いします」


 そう言って、アリエルは持っていた手綱を相手に渡す。


「アリエル、貴方」


「あとの事を宜しくお願いします」


 そして自身の乗る馬を踏み台に、女騎士は空へと跳び上がった。



 *



「とうちゃーく」


 地面が……。


 倒れ込むよう地に膝をついてから、手もつける。


「……大丈夫?」


 吐きそう。






「ようじはここに座ってて」


 案内された場所に置かれていた椅子を見て、渡した(さかずき)を持った相手が言う。


「こうですか?」


 指示に従い、腰を下ろす。


「うん。あとは盃をこの台に置けば、フィルマメントの勝ちっ」


「なるほど」


 ――しかし想像していたよりも殺風景だな。


 周りには囲いすらなく。草を刈っただけの平原に、台と椅子がぽつり。


「あ、あれ」


 不思議そうに声を出した相手の方を見る。


「どうかしましたか?」


「う、うん。……なんでだろ。なんにも起きない、よ?」


 台に置いた盃を持ち上げては、また置く。を繰り返す、銀髪の姫が自分に顔を向けて聞く。


「……――座り方が悪かったりしますか」


「んー。一回、立ってもらってもいい?」


「はい」


 言われて、立ち上がる。


「座ってみて」


「はい」


 そして、座る。


 ――勿論、何も起きない。


「駄目ですか?」


「う、うん」


「普通は何か起きるんですか?」


「うん。――普通は、台から光がパーってなって、パパパーンて、なるの」


 全く分からない。


「ね、――ようじ。やっぱり盃が変なんじゃない?」


 ム。


「そういえば、フィルマメントの盃は」


「あ、――うん。ようじはここで待ってて、すぐに持ってくるからっ」


 持っていた盃を台に置き、相手がどこかへ走っていく。


 さて。この後、どう切り抜けよう。



 ***



 残った最後の敵兵を剣の当身で気絶させ、倒れきる前に腕章を斬ってから空いている手で相手の体を支えたアリエルは、逃げてしまった二頭を離れた空に見る。


「預言者様……」



 ***



「では」


 そう言い残し森へ入っていったフェッタを短髪の騎士と魔導団のローブを着る少女が見送る。


「アンタ、なにやってんの?」


 何かに祈るよう手を擦り合わせる相手を見て、少女が言う。


「敵が一人も来ないようにと、女神さまに祈ってます」


「……いいから。馬に乗るわよ。祈る前に、逃げる準備よ」


「あ。それはそうですね」


 納得して、短髪の騎士が預言者の乗っていた馬にまたがる。


「ちょっと」


「え?」


「アンタだけ乗って、どうすんのよ……」


「あっ」


 少女が最大限に眼を鋭くして、相手を睨む。


「ダメ騎士」


「ははいッ」



 *



 万が一に備え、体格の似た二人を扮装(ふんそう)させて時間を稼ぐ案を出した事に、今になって負い目を感じていたところへ、慌てた様子の相手が銀の髪を揺らして戻ってくる。


 さすがにバレたか。


「ごめん! 見付からなかった。お姉ちゃん達が、どこかに隠したのかもっ」


 え。


「――戦場盤(せんじょうばん)は……?」


「あ――そっか、もっかい行ってくるっ」


 相手が来た道へ戻り、走っていく。


 なんだろう。イケる気がしてきた。

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