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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第30話〔ちょっと寝違えました〕③

 


 *



 二日目の戦いを終えて――無事に帰ってきた姉妹の騎士が、砂埃をかぶった姿を恥じらいながら自分に言う。


「夕食の前に……」


「はい。入ってきてください」


「ハイ」


 返事をして微笑み。そして相手は、妹と共に風呂場へと向かった。






 夕食後、三人で談話するリビングルームに時間を知らせる時報が響き渡る。


「そろそろ寝ましょう」






 自室のベッドに入り、二時間。何故か寝付けない体を起こし、水を飲もうと部屋を出た。


「あれ」


 廊下に出た途端、階段を上がってきた相手と出会う。


「ジャグネスさん」


「ヨウも、起きていたのですか?」


「も?」


「あ、はい。どうしてか私、今晩は目がさえてしまって」


「なるほど。じつは、俺もなんです」


「ヨウもですか」


「はい、なので水でも飲もうかと」


「でしたら。すぐ用意を」


「え。あ、いや。自分でします。ジャグネスさんは気にせず、部屋で寝てください」


「ですが」


女神杯(めがみはい)は明日もありますんで。横になって、少しでも休んでください」


「――……分かりました。では」


「はい、おやすみなさい」


 軽く頭を下げ、相手が自室の方へと歩き出す、が直ぐに足を止めて――。


「あの。よければ少しお話をしませんか?」


 ――こちらに振り返り、そう言った。






 相手の希望で、自分(こちら)の部屋で話をする事となり。互いの顔が見れるよう、ベッドと一つしかない椅子を使って準備を整える。


「それで。お話というのは?」


 話す姿勢ができた事を(しら)せる意図も含めて、ベッドに座る相手に、聞く。


「え、っと。話す内容をまとめたいので、少しだけ時間をください」


「分かりました。まとまったら、教えてくださいね」


「はい」


 そして――沈黙――暇を持て余し、無意識に相手を眺める。


 日中に上げている後ろ髪を(ほど)き、垂れる糸の様に細い金色の毛。柔らかな寝衣(しんい)を着るその体は華奢(きゃしゃ)で、弱々しくさえ感じる。しかし実際は初めて会った日のように力強い――。


「あ、あの」


 ム。


「どうして、その……私を、まじまじと、見るのでしょうか……?」


 相手が伏し目がちに顔を赤らめて聞いてくる。


「ぇ」


 しまった。シチュエーション的に、誤解(ごかい)(まね)いたかもしれない。


「す、スイマセン。深い意味は――ただ、その……」


「……はい?」


綺麗(キレイ)、だなぁと」


 と言った自分の言葉に何故か相手は不満げな表情をして、口を開く。


「それは、マルセラ様と(おんな)じ意味で、でしょうか」


 ム。


「もちろん違いますよ。マルセラさんの時は髪を見て、そう思ったんです」


「つまり私の髪は、マルセラ様に負けていると」


「勝ち負けではないと思うんですが……」


「それは、そうなのですけど……」


 あ、そっか。


「俺の、一番に、ですか」


「はぃ」


「ジャグネスさんはどうして、俺の一番に、なりたいんですか?」


「だって好きな人にはっ、自分だけを見ていて、ほしいのです……」


「……――ジャグネスさんは、俺のコトを、いつも見ているんですか?」


「はいっ、いつも見てますっ」


 ――まあいいか。


「マルセラさんの言葉を借りて、ではありませんが――なら、ジャグネスさんに俺はどう見えていますか?」


「それはヨウの、どこが好きかという質問でしょうか?」


「んー、――そうですね。それで構いません」


「でしたら」


 相手が自身の胸に手を当て。


「優しいところだと」


 と言った――が。


「はじめの頃は、思っていました」


「――いまは?」


「正直に言うと、ここ最近になって、分からなくなってしまいました」


 そう言って、相手が手を(ひざ)の上におろす。


(よう)するに気持ちが()めたってことですか?」


 この場合は、目が()めた、かも。


「前に断言しましたが、それだけは、ありえません」


「どうして分かるんですか……」


「だってあの時よりも、私はヨウのコトを、好きになっています」


「分かるんですか」


「はい分かります。ヨウは、どうでしょう?」


「どう、というのは」


「ヨウは私のコトを、好きと……まだ、言い(がた)くとも。前と比べて、何も変わらないままなのでしょうか……?」


「なるほど」


 んー、うーん、んん……――あれ。


「分からないです」


「……分からない?」


「なんと表現すればいいのかが、分かりません」


「私のコト、前よりも、嫌いに……?」


「なってないです。というか、そっち方面での伸びはないです」


「では好きに……?」


「それが、分からないんです」


「何故でしょう?」


「ジャグネスさんは、失礼ですが――俺以外と交際した事は?」


「ありません。ヨウが初めてです」


 それはそれで意外……――でもないか。


「なら、誰かを好きになったコトは?」


「苦手な人を他と区別するコトはあります。実際に、私は父が苦手です」


 訳を詳しく聞きたいところだが――いまは、ヤメておこう。


「ただ好きになる、という意味で異性に好意を持ったのは、ヨウが初めてです」


「初めてなのに、好きだと分かるんですか?」


「……実は、分からなくなってしまった。というのは、その好きだと思う理由なのです。優しくされた事で好意を持ったというのなら、ヨウの優しさは私だけに向けられているものではありません」


「優しいかどうかは……」


「はい。ですが人を好きになる根拠(こんきょ)は、必ず何処(どこ)かにあるはずです」


「確かに」


「それが最近になって、分からなくなってしまったのです」


「やっぱりそれは」


「ありえません」


 言い切る前に。


「――けど、理由が無いのに。好きとハッキリ言えるんですね?」


「無いのではありません。分からないのです」


「……どういう意味ですか」


「好きなところが沢山ありすぎて、一番が、分からないのです。それ故に、どこを好きかという質問に、どう答えていいのかが分かりません」


 そして相手は深く目をつむり。一呼吸を入れた後、ゆっくりと目を開く。


「すみません。よく分からない事を言ってしまって……」


「え。いや、そんなことは」


「でも信じてください。私は、ヨウのコトが好きです。明確(めいかく)な理由が分からなくとも、私の心はヨウを……」


 言い(にく)そうにして一度口を閉じ。再び決意した顔で、相手が真っ直ぐに、こちらを見て。


「――愛しています」


 と告げた。


 ムム。


「ジャグネスさん」


「ハハイっ」


「困ります」


「えっ。ぁ――スミマセンっ。ヨウの気持ちも考えずに」


「そうではないです」


「……え?」


「こういう事に性別は関係ないと思いますが。それは、というか――先に言い過ぎると、いつか俺が言う時に、安っぽく聞こえてしまいます」


「ぇ。ですが昨日は、まだ分からないと……」


「分からないからこそ、俺の分もおいといてください」


「――……はぃ」


 それはそれと、して。


「ところで、お話というのは? まとまりましたか」


「――あれ。そういえば私、何のお話をしようと思ったのでしょうか?」


「知りません……」


「困りました。全く、思い出せません」


「なら思い出した時にでも、また話してください」


「そう、ですね。そうします」


 言って相手が微笑む。


「あ。ヨウ」


「はい、思い出したんですか?」


「いえそうではなくて。一つ、お願いをしてもいいでしょうか……」


「できることなら」


「えと、……私を」


「ジャグネスさんを?」


「抱きしめてください」


「ふぇ?」


「私達は恋人同士ですし、(たま)にでもいいので……、ヨウからも」


 ム。


「したことないので、加減が」


「大丈夫です。私、頑丈ですから」


 そういう意味での心配はしていないのだが。


「なら、ちょっとだけ……」


「はい」


 相手が両手を広げて、笑顔で迎え入れる体勢をつくる。


 なんだろう。この不安は、なんだろう。






 女神杯、三日目の朝。テント内で、隣に座った少女が聞いてくる。


「……どうしたの、水内さん」


「ちょっと寝違えました」

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