第6話〔貴方は あのその斬られたい ですか?〕⑥“イラスト:鈴木”
そんな訳で、救世主様を説得する為の話し合いを行なおうとした矢先に自宅のチャイム音が鳴り響いた。
宅配かな。
「誰か来たみたいなんで、ちょっと見てきますね」
「私はここで?」
「はい。すぐに戻ってきますんで、たぶん受け取りが必要な荷物でも届いたんだと思います」
「なるほど。飛脚ですね」
昔の人は偉大だ。
「えっ。え、え? え?」
「どうぞ」
さっきまで自分が座っていた席に相手を誘導して、女騎士とテーブルを挟んで対面する形にしたあと、適当な所で立つ。
「ええと、ご紹介します。こちらはジャグネスさんの尋ね人の、隣人、鈴木さんです」
状況が飲み込めず、女騎士がおろおろとする。
「どうも鈴木です」
「ぇ? ぁ、こっ、こち、こちらこそっ。ど、どど、どうもっもも」
女騎士が、救済を望む眼差しで、こちらを見る。
「どういう経緯で、こうなったのか説明しますね」
そして、今しがたのやり取りを思い浮かべながら、口を開く。
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玄関扉を開けると宅配業者はおらず。代わりに居たのは長い黒の髪を垂らす少女だった。
「はじめまして。隣の鈴木です。こちらに、鎧みたいなモノを着た女性が、入っていったと思うのですが」
取っ手を握ったままで半開きにした扉から見える相手の目は、まるで暗がりを見ているかのように生気が無く、怖い。
「はい、居てますけど……」
あれ。確か隣の人って、……救世主?
しかし見た目は若干井戸から這い出てくる呪い。幾分、健康的ではあるけど。
ぐいっと扉を押して開き。少し前に出て、互いの全身が見えるように動く。すると、何故か相手は下がって自分と距離を空けた。
「……ご用件は?」
「さっき、意味の分からない話をされたのですが。気になったので。もう少し、聞かせてもらおうかと、思って」
表情が無い。その上、綺麗な顔立ちだから人形が喋ってるみたいだ。幾分、人間的ではあるけど。
というか、これって。
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「という、流れです」
話しを終え。多少落ち着きを取り戻した女騎士と隣人を交互に見て、状況を見守る。
「理解しました。きゅ救世主様の、御名前は、鈴木様と、仰るのですね」
「それがナニか? ちなみに救世主、て話はよく分かりません」
「い、いえ、とても気品のある、個性的な御名前だと思いましてっ」
「ドメジャーな、二番目に多い苗字ですけど」
「ドメジャ……?」
「……――それで。さっきの話、もう少し詳しく聞かせてください」
「ハ、ハイっ。何を御話すれば、宜しいのでしょうか……?」
あがってるな。こういう時に緊張するタイプか。
「世界が、どうとかって話と、救世主がわたしだって話の、根拠とか、です」
まぁそうなる。
「ハイ。私の住む世界は、ベィビアという名で、その世界を救う為に、救世主様を異世界から御連れするのが、私の使命です」
「それは、さっきも聞きました。その世界が存在する、証拠を見せてください」
「……証拠ですか? 具体的に、どうすればいいのでしょうか」
「それを、わたしに聞いて、どうするんですか。いい加減な話なら、わたし、予定があるので、帰りますが」
「おおお待ちくださいっ。えっと、ええと――」
女騎士がこっちを見る。
協力すると約束した手前、見捨てる訳にはいかないか。
「それでは、このへんで」
「ちょっと待ってください」
席を立とうとした隣人の、気持ち浮いた腰が下がる。
「なに? そちらも、異世界がどうとかって話を、信じてる口ですか」
それを言うなら、ここに来た時点で似たようなもんだが。
「異世界の話は、自分も半信半疑です。ただ、見てほしいものがあります」
そして女騎士を見る。
「え。私……?」
「剣を出してください」
「剣を? 何故でしょう」
「いいから出してください」
「しかし救世主様の前で武器を出すのは失礼かと」
そんなことを言ってる場合では。
「大丈夫です。心配しないで、出してください」
「しかし……」
「信じてもらえませんか? 約束した事を」
そう言う自分を、女騎士が見据える。
「分かりました。貴方を信じます。――救世主様、私の剣を、ご覧になってください」
相手からは特に反応はなく。じっと様子を窺っている。
「では」
女騎士が座ったまま、体の向きを変えて、上げた右手を胸の先で止める。そして初めて見た時と同様の光が腕輪から飛び出し、右の手の中に入っていく。と途端に、光が内側から広がり、一本の剣となって騎士の手に握られていた。
おおっ凄い。これを見ればきっと。
「手品ですか?」
ですかぁ。




