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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第28話〔ちょっと寝違えました:二日目〕①

 女神杯(めがみはい)、二日目の朝。預言者と共に来た魔導少女の所属する王国(おうこく)魔導団(まどうだん)で、導師(どうし)と呼ばれるパープルヘアのおかっぱ少女と、とんがり帽子の年老いた魔法使いを紹介された。


「あたし、魔導団で火の導師をやってる、リャマでっす。よろしくネ」


 鬱陶(うっとう)しそうにする魔導少女に、抱き付こうとして、手の平で押し止められている、おかっぱ少女が言う。


「こちらはメェイデン王国の魔導団で魔導団長(まどうだんちょう)を務める、大導師(だいどうし)フィロ様です」


 手を添えて、預言者が年老いた魔法使いを紹介する。


「ほっほっほッ、ゲホゴホ」


 むせた。






「女神杯が始まる前に、お話ししたい事がございます」


 戦場盤(せんじょうばん)の置かれたテーブルを囲む椅子に座る預言者が、各自が着席したのを見て、口を開く。


「本日は初日に起きた奇襲を考慮して。魔導団を、本陣の守りにつかせております」


 なるほど。だから妹さん達がいるのか。


「昨日は超々コワかったネ、エリアルちゅわん」


「べつに」


「いやん()()ない」


 けど嬉しそうだ――て。


「コワかった……?」


 と言った自分に、顔を向けて預言者が答える。


「奇襲を受けたのは、エリアル達が居た集団です」


「え。大丈――」


 いや。大丈夫だったから、いま目の前に居るのか。


「あたしのすぐ後ろをっ、ペガサスが飛び去って行ったんですヨ」


「そこまで近くはなかった」


「ひどぃ、もっと大げさに言いたいのにっ」


「……――ご無事で何よりです」


「守りね。ようするに、ビビって出せないんでしょ」


 預言者の方を見て、少女が言い放つ。


「否定はできません。飛んでいる相手に最も有効な魔導団をさげるのですから」


「逃げ腰じゃ、勝てないわよ」


「仰る通りです」


「――どうやって奇襲されたかは、分かってるんですか?」


「いえ何も」


「何もですか」


「やっぱ。信用できないわね。さっさと水内さんに指揮権わたしたほうがいいんじゃないの」


 なんでっ。


「それは素晴らしい案ですね」


「でしょ」


「いや、絶対にないです……」


「なんで?」


「なんでって。素人に指示させて、勝てる訳ないですよ」


「そ? わたし、水内さんならイケると思うわよ」


「私も同感です」


「あ。ワタシも」


 新しく追加した椅子の一つに座る短髪の騎士が、テーブルの周りに空間が無いのを理由に、少し離れた場所で小さく手を上げて賛同する。


「アンタ、なに便乗(びんじょう)してんのよ」


 したら駄目な理由が。


「……スミマセン」


 ナゼ謝る。


「――ともかく。ないです」


 命のやり取りは、遊びではない。例え、生き返るとしても。


「ま。いわ。でも水内さん」


「はい」


「べつに、わたしたちのあいだで、どうこう話すのは、自由じゃない?」


「それはまあ」


「だったら。暇つぶしにもなるし。水内さんの考えを、聞かせてよ」


「おや、それは面白そうですね」


 ……考え――。


「まだ一回しか戦っていないので、何も思い浮かばないですね。それより、質問が」


「はい。どうぞ」


「魔導団をさげても、対抗する手段はあるんですか?」


「単純に、飛んでいる相手には、弓です」


「他には?」


「ありません。とはいえ基本的に攻撃する時は相手からも接近してくる訳ですから」


「豆でもまいて、カゴと棒で、捕まえられないの?」


 ちょっと見てみたい。


「けど、さすがに多少は有効な手段を残しておいたほうが」


「女神杯に参加している魔導団員は、極めて少数なのです。むやみに数を減らすのは避けたいのでしょう」


「どういうことですか?」


「騎士団とは違い。魔導団からの参加は毎回、任意なのです。ですからエリアルのように毎度参加する魔導員は(まれ)です」


 そういうコトだったのか。


「わしも毎度、参加はしとるよ」


 自分から一番遠い席に座る年老いた魔法使いが自身の顔を指して言う。


「フィロ様は私と同じで、毎回、見ているだけではありませんか」


(とし)を重ねるとの、若いもんとは一緒に遊べんよ」


「なら、どうして参加してるんですか?」


「世間体は大事じゃよ。ほっほっほ」


 なるほど……。


「はぁい。あたしは、エリアルちゅわんにお願いされたからでーす」


「ほっほ。エリアルが誰かにお願いをするとはの、珍しい事じゃの」


 本人が否定しないということは、事実か。


「なーのになのに。今日こそは一緒に行こって約束を、やぶるんだもん」


「約束はしてない」


「エリアルちゅわん、ひどぃ」


「……――導師ってことは、二人は同じなんですよね?」


「そうでっす。あたしは火で、エリアルちゅわんは風の、導師でーす」


「なに、その火とか風って。子供っぽいわね」


「リャマは子供じゃないですっ。二十三歳の、大人の女ですッ」


「マジ?」


「嘘じゃないですっ」


 うん。話が一向に進まない。






 そして、女神杯の二日目が始まった。


 九時から始まり、十二時に終わる、午前の部は、初日の静けさが嘘のように初っ端から互いの兵力が中央の平地で争う展開となった。対する相手側の主力はこちらと同じ歩兵や騎兵で、時折飛んでくるペガサスに翻弄(ほんろう)されながら奇襲を警戒(けいかい)する一進一退(いっしんいったい)の攻防となる。


 ただ確かな事は、純粋な戦いではメェイデンの方がフィルマメントに(まさ)っているという事だ。その差は、横槍さえなければ二日目にして、結果が見える程のものだった。






 ――午前の部が特に問題もなく、終わり。休憩と昼食を兼ねテントの外へ出ると真っ先に一頭の馬が目に入った。


「へぇ。はじめて生で見たけど。けっこう大きいのね」


 やや馬から距離を空けて立つ少女が、感想を述べる。


「ですね。俺も、はじめて見ました」


 そして周りを見るが、他に馬は見当たらない。


「誰の馬なんでしょうね」


「あ。ワタシの馬です」


 テントから出てきた短髪の騎士が、そう言って馬に近づく。


「え。アンタ、馬もってんの?」


「もちろん持ち馬ではなくて騎士団の、ですよ」


 朝、一番に自分がテントに入った時は見なかった。


「ホリーさんが乗って来たんですか?」


「はい、そうです」


「じぶんから用意するなんて、感心ね」


「駄目ですよっ、その場合はワタシが背負って」


「走らなくていいです。――それより、どうして馬に乗ってきたんですか?」


「……ヨウジどの。――はい、暇な時間を使って練習しようと思いまして」


「練習?」


「ワタシ、他の騎士と比べて馬術があまり上手ではないので」


「なるほど」


「ダメ騎士は、なにやってもダメってコトね」


「いやぁ」


「ほめてないわよ」


「――まぁ。乗れない自分からすれば、普通に乗ってるだけでも凄いですよ」


「え、そうなのですか。でも馬に乗ったコトくらいはありますよね?」


「ないですね。乗ったコトも」


「なんと。――それなら、乗ってみますか……?」


「いや、乗り方が分からないので……」


「ワタシ、教えますよ」


 ム。


「あ、でも。難しいことは、教えられませんけど……」


「教えてもらっても、出来る気がしないので、それは大丈夫です。ただ単純に興味があるので、ホリーさんが暇な時にでも」


「――あっ。エリアルちゅわん見て見て、このお馬さん(オス)だよぉ」


 コラ。






 女神杯の二日目、午後の部も残すところ後一時間で形勢は変わらず一進一退。しかし前半で感じた不安を持ったまま、新たな懸念(けねん)を抱いて盤を眺めていた。


「ね。昼前も見てて思ったけど。そこの青だけ、やたら強くない?」


 少女の言う青は、ひとつの点、ではなく。指差す先の、青の集団だと直ぐに理解する。


「確かに」


 同じく午前で気づいてはいたが、明らかに他の青よりも赤を減らすのが速い。


「間違いなく。アリエルの居る部隊でしょう」


 納得した。


「あ。また赤いのが出たわよ」


 少女の言う赤は、盤の空に現れて三角の点となって飛行する。向かう先は――。



 ***



「騎士団長っ」


 来た騎士に呼ばれ、馬上から自分の周囲に居た歩兵を一息でなぎ払ったジャグネスは声のした方を見て、相手を視界に入れる。


「どうかしましたか?」


「フィルマメントのペガサスですっ」


 そう言って相手が指で示す方向を見たジャグネスは目に映った記憶としては最近で新しい、(タル)、を視認して、咄嗟(とっさ)の判断で大きく声を出す。


「総員ッ(ただ)ちに散開ッ、固まらずッこの場を離れてくださいっ!」



 *



 青の集団と戦っていた赤が突然に撤収(てっしゅう)した後、次いで青が四方八方(しほうはっぽう)へ散り始める。そして、先ほど現れた赤の三角が最も青の密集している上空を通過した――と思った瞬間、青の集まりに、ぽっかり、穴が空いた。


 え……。

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