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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第26話〔今一度こうなってしまった経緯を〕④

 太鼓(たいこ)の合図で始まった女神杯(めがみはい)。それを自分達の居るテント内に置かれたテーブル上の戦場盤(せんじょうばん)越しに、皆で座って、観戦する。


 いま分かっている女神杯の――。



 予定――。

 期間は一週間。初日を除く、一日を午前と午後の部に分けた計六時間の合戦。


 勝敗は――。

 敵側の(さかずき)を、自分が属している国の本陣に在る専用の台に早く乗せた方の、勝ち。期間内に決まらない場合は、判定での勝負となる。


 そして注意点――。

 参加証を合戦中に体から離す。または破損する、と即時失格となり。その時の合戦から退場しなければならない。



 腕章の数だけ戦場盤にある青い点に、まだ大きな動きはない。


「ね。ぜんぜん、動かないわよ。この板、壊れてんじゃないの?」


 テーブルに片肘を突き、その手で顔を支えている少女が言う。


「初日の今日は双方、様子見、といったところでしょう。仮に動くとすれば後半の、十七時以降でしょうか」


 盤上の様子を窺いながら、預言者が述べる。


 女神杯が始まって一時間程が経過した時点での戦況は、敵味方共に動く気配なし。ただ敵の動きがハッキリと見えている訳ではないので、断言はできない。


 現状、盤に映ってるのは本陣の守りと森を抜けた所の第一線に並ぶ味方を示す青い点。そして、互いの本陣が在る場所に置かれた盃の金が二つと緑が一つ。


「最終日まで、こんな感じだったら。わたし、怒るわよ」


「それは、さすがにないと……」


「フィルマメントが勝つには盃だけでなく。洋治さまも奪取(だっしゅ)しなければなりません。更に過去の対戦経験からして、先に動くのは、あちらでしょう」


「ん。前に、戦ったコトあるの?」


「あると思いますよ。二年に一度、やってる訳ですし」


「そうだっけ? 忘れたわ」


「――ちなみに勝率は?」


「ここ五回の、女神杯、決勝戦での対戦成績はフィルマメントに四勝、リエースに一勝です」


「リエースというのはもう一つの大国ですか?」


「お察しの通りです」


「――決勝というのは」


「はい。女神杯は前回の優勝国に、予選で争い勝った国が、挑む形式となっております」


「つまり相手は、予選で勝った国」


「その通りです」


「ん。じゃ、相手はもう疲れてんの?」


「いえいえ予選は年明け前に、行われます。故に蘇生の期間は十分にございます。付け加えて決勝とは違い規模も小さく、加護の無い馬の被害とて大した事はありません。尚且つ、合戦に参加する人数は試合の前に対戦国の間で規定(きてい)します」


「一方が極端に不利な状況には、ならないってコトですね」


「仰る通りです。ただ規定は人の数だけで、馬などの持ち込みには、ほぼ制限がありません」


「だったら。なんかスゴイ兵器でも持ち込めば、いいじゃない」


「そのような代物(しろもの)が存在しようものなら、規則は改めなければイケませんねェ」


「あらゆる事態に対応できる規則なんて、つくれませんよ」


「仰る通りですね」


「――に。しても、暇ね。――ちょっと、ダメ騎士」


「はい……?」


 疲労を露骨(ろこつ)に表しているものの、やや持ち直した短髪の騎士に、少女が顔を向ける。


「アンタ、敵に突っ込んで、なんか切っ掛け、つくりなさいよ」


「今は無理です……」


 後でならいいのか。


「大丈夫よ。爆弾と一緒に、くくりつけてあげるから。馬に」


「イヤです……、馬が、無駄になります」


 そこっ。


「都合よく、爆発するでしょうか」


「そ、ね」


「いいです……、ワタシが背負って、走りますから」


 覚悟を完了してる。


「アンタだけだと心配だから、知り合いも誘ってね」


「なにを……?」


「全員で走れば、誰かは成功するでしょ」


「イヤです……、命どころか友達まで、無くしてしまいます」


「どうせ。友達だと思ってるのは、アンタだけよ」


「ガーン」


 普通にショックを受けてますが。






 それは唐突に現れた。


「ん。フェッタ、なんか赤いの出たわよ」


「おや。本当ですねェ」


 のどかな口調で、預言者が返事をする。


「なんか。これ、浮いてない?」


「――浮いてますね」


「きっと、フィルマメントのペガサス団でしょう」


 なるほど。


「しかし、よっぽど洋治さまを気に入られたのですねェ」


「どういう意味ですか……」


「ペガサス団を(ひき)いているのは、マルセラ様です」


「え。マジ。この赤いのが?」


「いえ、そこまでは断言できません。戦場盤で個人を特定するのは容易ではありませんので」


「そ。つまんないわね」


 本人なら、何を言おうとしたのだろうか。


 などと、話をしているうちに盤の上空に現れたひとつの赤い点が移動を始める。向かう先は、何らかの理由で其処に居るであろう、本隊から少し離れた少数の青い点。


「なに、こいつ。一人でやる気?」


「ただの偵察ではないでしょうか」


「――にしては、目立つところを飛んでますね」


 しかも向かった先に居る青の動きからして、明らかにバレている。


「調子にのってるなら、撃ち落としなさいよ」


 ここで言っても……。


 そして赤が青の上空を旋回し始め。――ひとつ、青い点が、消えた。


「あ。――なに?」


「おやおや。まさか本当に、ご本人とは」


「え、分かるんですか?」


「はい。ペガサス団の主な武器は、槍です。しかし、唯一マルセラ様だけが機械弓と呼ばれる特殊な弓を(もち)いて、攻撃をなさいます」


「ていうか。飛べるなら全員、そうすればいいでしょ」


「救世主様の仰る通りです。ですが、高所から地上に居る動く相手を当てるのは、相当な腕を持って、はじめて可能な名手(めいしゅ)の技なのです」


「だったら、当てやすい位置まで、近づけばいいでしょ」


「――それは、危険です」


「ええ、その通りです。理想は、相手の攻撃が当たり難い場所からの、狙い撃ちです」


「反撃されると、狙いが付けにくくなりますからね」


「じゃ。指をくわえて、見てるわけ?」


 そして、またひとつ、青が消える。ただ、旋回していた赤の動きはそこから一気に激しく飛び回り始め。更に、別の場所に居た青の集団が動き出す。


「ご安心ください。この程度のコトで、メェイデンに一泡を吹かせるコトなど、出来ません」


 そう言った預言者の見る先で空を飛び回る、赤い点。それを地上から攻撃してるであろう少数の青。そして其処(そこ)へ向かう青の集団が――突然現れた赤の一団に進行方向の横から突撃されて、数を――半分近く減らす。


 え。


「なに?」


「なんと……」


 どういう。


「――あの、質問を」


 盤上で飛び上がる赤の一団から転じて、預言者を見る。


「は、はい。どうぞ」


「赤い点が見える、条件はなんですか?」


「そうでした。まだ、そのお話をしていませんでしたね。――敵側の兵員(へいいん)数を示す赤の点は、基本的に腕章をつけている味方の目視によって、位置が反映されます」


「基本的というのは」


「互いの腕章が接近することでも条件を()たすからです」


「距離はどれくらいですか」


「かなり、接近する必要があります。少なくとも、足音は聞こえるでしょう」


 なるほど。


「赤いの、どっか行っちゃうわよ」


 反応して盤を見ると、既に少数を相手取っていた赤は消え。赤の一団も、自軍の方へ向かい空を移動していた。


「位置は目視ができなくなるか一定の距離で、戦場盤から消えます」


 そして盤上から赤い点が消えていく。


「ね。わたし、見てたんだけど」


「なにをですか?」


「いま消えた赤いの、そこから、出てきたわよ」


 少女が指し示す場所は小高い丘で、停滞している青の集団の近くに在った。


「隠れてたんじゃないの?」


 いや。


「この場所だと、隠れる前に、姿を見られる気がします」


 そもそも全体的に平地が広がる地形。相手側に気づかれず、隠れるのは無理が。


「ふわぁぁあああ。――よく、寝ましたっ」


 短髪の騎士が顔を上げ、両手を高くして背筋を伸ばす。


 寝てたのか。


「アンタは、目覚めなくていいわよ」


「ヒドガーン」


 炎上するからヤメて。

【補足】

 作中に出た≪機械弓≫は、クロスボウのことです。m(_ _)m

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