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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第24話〔今一度こうなってしまった経緯を〕②

 初めて女神杯(めがみはい)という単語を耳にしてから二週間と少し。


 午後から始まる戦いの準備が着々と進む野営の本陣で、澄み渡った空に漂う唯一の雲を目で追う。


 ――暇だ。


 待て。と言われたので、座って待ってはいるが。いったい、いつまで待てばいいのだろう。


 空を見るのも、そろそろ飽きてきた。


「お待たせいたしました」


 そして実際、音も無く、現れる。


「い、いつのまに……」


 声がした時には、普通なら気づくはずの距離に居た相手を見る。


「ええちょっと、久しぶりに性能のチェックを」


 ム。


「チェック?」


「おや。適切な言葉遣いではありませんでしたか?」


 白のローブを、ややフードの形を崩した状態で、着ている相手が口のそばに人差し指を当てて首を(かし)げる。


 自分がした質問の意味とは異なるが。気になるので、先に。


根源(こんげん)は、鈴木さんですか?」


「ええ。救世主様には常日頃から、異世界の言葉をご教授(きょうじゅ)していただいております。私、こう見えて結構ミーハーなので。あ、いまのも遣い方として、適切なのでしょうか?」


 斜めにした手の平を小さく打ち合わせて見せる相手の、ソフトなスマイル。


「まぁ間違ってはないですね」


 ただミーハーは死語だけど。そして何故、鈴木さんはそれを知っていた。


「いつ、教えてもらってるんですか?」


「そうですね。救世主様とそういったお話をするのは、大抵が入浴中です」


 なるほど。


「やっぱり浴場は広いんですか?」


「はい。私が設計した、自慢の大浴場です」


「おお。それは、いつか入ってみたいですね」


「おやおや、洋治さまにしては大胆な発想を(おっしゃ)りますね」


「もちろん男湯にですよ……。なければ入りません」


「ふふ。洋治さまなら、アリエル達も呼んで皆一緒に入ればよいのです。何なら私が、お背中を流してさしあげましょう」


 どこの独裁者っ。


「どこの独裁者よ、それ」


「いやぁでも、皆で入るのは楽しそうですねぇ」


 今回も、気づかなかった事で若干驚きつつ、声のした方へ、顔を向ける。


「鈴木さん、ホリーさん、――ってなんで鈴木さんが」


 ホリーさんは騎士だから分かるけど。


「わたしも、特等席で見ようと思って」


「けど始まったら会場内に居るのは危険ですよ」


「景品になった水内さんより、マシでしょ」


 ……景品。


「ほんと、水内さんてメンドウなコトに巻き込まれやすい体質よね」


「あ、分かります。最近ワタシ、ヨウジどのに親近感を持ってます」


 うそん。


「アンタのは、ダメ騎士だからでしょ」


「ガガーン」


「――ですが。そんな面倒事に巻き込まれやすい洋治さまを心配して、救世主様は女神杯に参加をなさったのです」


 え。


「フェッタ。余計なこと言うの、ヤメテ」


「申し訳ございません。洋治さまの性格を考慮して、後になって察するよりかはよいと思い、要らぬ配慮をしてしまいました」


「……どういうことですか」


()に受けないで。一番観戦しやすい席が、参加特典だったってだけよ。いつも言ってるけど。わたし、戦力外だから。今回も、見てるだけ」


 この前は、それで――。


「まって。それ、なし」


 ム。


「誰だって。失敗くらいするわよ」


「……失敗で、済む話では」


「ん。分かった」


「え?」


「このバカバカしい行事が終わったら。二人で、ゆっくり話をしましょ」


「女神杯を、バカバカしい……」


 短髪の騎士が、呟くように言う。


「じっさい、そうでしょ。人をダシに使える(もよお)しなんて。ほんと、バカバカしい」


「おや。もしや救世主様は、洋治さまを褒賞(ほうしょう)にされた事を、怒ってらっしゃるのでしょうか」


「あったりまえでしょ。わたしの許可なく、わたしのモノに手、出してんのよ」


 いつ鈴木さんのモノに。


「それなら、ジャグネス騎士団長は……?」


「騎士さまはズルしてないでしょ」


「ワタシからすれば、あの強さが既にズルいです」


「おやおや。御二方共、悩みの多き春の到来ですねェ」


 どういう意味だ。


「なに、一人だけ無関係よそおってんのよ。わたし、分かってんのよ。アンタ、何気に水内さんのコト、狙ってるでしょ」


「バレてましたか」


「え。預言者さまも?」


 も? ――というか、そろそろ冗談抜きで。今の状況に合った話をしたい。






「女神杯の初日は、昼間に各国で陣を築き。夕方の十五時から十八時の間に行われる午後の部のみが行われます」


 椅子から立って、つくった話の輪で。待ち望んだ話が始まる。


「たしか女神杯は一週間かけて行われるんですよね?」


「はい。正確にいうと、その期間内に相手の陣営から(さかずき)を奪わなければなりません」


「できなかった場合はどうなるんですか?」


「両陣営の実害(じつがい)で、勝敗を決定します」


「ようするに、判定勝負でしょ」


「仰る通りです」


「けど。それだと戦力の増強ができる、会場から近い国が有利なのでは」


 今回の場合は領地である、こちらが有利。


「そうでした。後で、お渡ししなければ」


「なにをですか?」


「参加証となる、腕章(わんしょう)です」


「あ。ワタシも貰ってません」


「はて。貴方は、女神杯の間は転属前の九番隊と行動を共にするよう、手続きをしたはずなのですが」


「はい。救世主さまに会う前は、九番隊と居ました」


「ん。アンタ、もしかしてサボってんの?」


「サボ? なんですかそれ」


「……――ホリーさん。早く九番隊に戻らないと、怒られませんか?」


「大丈夫だと思います」


「なぜ」


「ワタシ、いま隊長の指示に従っていますから」


「なんて指示されたんですか?」


「本陣の守備です」


「一人で、ですか……?」


「九番隊だと、指示を受けたのはワタシだけですね」


「ということは本陣を守る他の人達と合流する途中、ってコトですか」


「いえ、そのような指示も受けてません。隊長に言われたのは、残って本陣を守れ。です」


「具体的に、どこへ行けとかは」


「なかったです」


 うそん。


「……アンタ、いじめられてるの?」


「え。そんなふうに思ったコトはないですけど」


「では、腕章は。本来ならば各隊長から隊員に渡す、手筈となっておりますが」


「隊長からは貰ってないです。きっと、忙しそうにしていたので。忘れたのかもしれません」


「アンタ……、ほんと変に、根性あるわね」


「なにですか?」


「べつに。気にしなくていいわよ」


 短髪の騎士が、よく分からないという感じの顔をする。


 うーん。


「預言者様、ホリーさんの腕章って用意してもらえるんですか?」


「ええ。特に問題はありません」


「――ありがとうございますっ」


「まァ無いと矢除(やよ)けにもなりませんからね」


「預言者さま……」


「無いと、どうして駄目なんですか?」


「ヨウジどのまでッ?」


「あ、いや。そういう意味では」


「参加証を失うと、その時の戦闘に復帰する事が出来なくなるのです。同様に、腕章がなければ始まった瞬間に失格となります」


「なるほど」


「ですが洋治さまだけは、腕章の有る無し関係なく。失格にも、なりません」


「俺は、つけなくていいってコトですか?」


「いえ。そうでもありません。それについては、腕章をこれから取りに行ってくるので。その後にでも」


「分かりました」


「して。お暇だというコトでホリー、一緒について来てもらってもよいですか? 少々物運びを頼みたいのですが」


「え。預言者さま、ジブンの名前を?」


「もちろん知っていますよ」


「感動ッ。――喜んで、ついて行きますっ」


「それは助かります……」


「ま。ダメ騎士なんて、雑用か人間爆弾にしか使えないからね」


「名前だけ聞くと、凄そうですね」


「祝砲がわりよ」


「なんだかステキです」


 祝いの席が一つ、空席になりますよ。

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