表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/293

第22話〔女神杯って なんですか?〕⑤

「今一度、確認しておきますが。こちらの座敷(ざしき)は通常とは別に料金をいただくコトで、ご提供をさせていただく形となっております。本当に、宜しいのでしょうか?」


 部屋の出入り口となる(ふすま)の前で、きりりと正座して相手が聞いてくる。――頭頂には、例の。


「ていうか。ちゃんと語尾に、にゃん、をつけなさいよ。知り合いでも、客は客よ?」


 含みのある顔で少女が、猫耳ゆるふわパーマを相手に、言う。


「も、申し訳、ござい、ま、せん……にゃん」


「聞こえないわよ」


「もも、もうし」


 なんだ、この特殊な公開処刑わ。


「鈴木さん、そのへんで」


「――ん。分かってる。アンタ、命拾いしたわね」


「にゃ、にゃん……」


 いやなんで。


「それで、ユーリア。私にも分かるように説明をしてください。貴方は、外交の任に()いていると日頃言っていたではありませんか」


 向かいの席で少女の隣に座る異世界用の服を着ている騎士が、座ったまま、話す相手に体の正面を見せて聞く。


「は、はい。仰るとおり、ワタシはフェッタ様に命じられて異世界の文化を学びつつ、それをメェイデンの文化に取り入れる任に、就いております」


「最後を、店の方針で言ってみて」


「就いておりますにゃんッ。――あっ」


「鈴木さん」


 注意した相手が、知らん顔で壁の方を向く。


「なるほど。事情は分かりました。ですが――その、今の恰好との、つながりは……」


 本題となりえる質問を受けた相手が明らかにツラそうな顔をする。


「これには、いろいろ、と訳が……」


「――もしかして。タルナートさん、金銭的に何か困り事でも?」


「え。あ、いえ今は、それほど」


「今は?」


「ま。おおかた、おカネに困って仕事探したのはいいけど。雇ってもらえるところが、こういう傾向(けいこう)の店しか、なかったんでしょ」


 なるほど。


「仰るとおりです……」


「けど、今は困ってないんですよね?」


「はい。異世界で五年ほど暮らし、生活は金銭に支障のない程度まで落ち着きました」


 五年も居るのか。


「ならどうして仕事をかえないんですか」


「……それは」


「毒されたんでしょ」


 ――相手の反応からして、当たりのようだ。


「だいたい。その名札に書いてるハタチって。どう見ても、アンタ二十歳(ハタチ)じゃないでしょ」


「へ。あっ、いや! これはっ」


「二十? ユーリア、貴方は私の六つ上で」


「うわあああアリエル様ああ落ち着いてぇええ」


 落ち着いてッ。






「それでは、次のお料理をお運びしますにゃん」


 部屋を出た相手が、そう言って襖を閉める。


「に、しても。最近キャラが濃いの、ばっかと会うわね」


 自らを差し置く少女が、(はし)で揚げ出し豆腐を食べながら言う。


「で。ついでだし聞くけど。騎士さまって、いくつよ」


「私ですか」


 運ばれてきた品々を前に困った顔をしていた相手が、質問した少女の方に顔を向ける。


 ム。


 気になって隣を見ると、妹の方も困った顔をしていた。


 ああそうか。


「私は二十四です」


 一つ上か。――て待てよ。六つ上ってことは。


「アンタの知り合い、サバ読みすぎね」


「サバ?」


「ま。いいわ。わたしには関係ないから」


「サバ……」


「――ところで。ジャグネスさん、妹さん」


「はい? なにでしょうか」


「箸の使い方、教えますね」






女神杯(めがみはい)って、なんですか? ――あ、妹さん。枝豆は中の豆を食べるので、こうやって箸は使わず手で持って、――出します」


「おお……」


 で、出した豆を食べる。


 次に教えた相手が挑戦するも、古典的な顔当てという結果になった。


「イタっ」


 ム。


 見ると、姉の方も同じ結果になったようだ。


 そして姉妹が人差し指を、こっちへ向けて、同時に立てる。


「「もう一回」見せてください」


 ムム。






「女神杯って、なんですか?」


「女神杯ですか。――あ」


 震えていた箸から落ちた豆腐が皿の上に戻る。


「……すみません」


「いえ……」


「食べづらかったら、口の近くまで、お皿を持っていくといいですよ」


「なるほど」


 というか、あとでレンゲを借りよう。






「女神杯というのは、二年に一度行われる年明け行事です」


「ふーん。で。なにすんの?」


「三大国の、国別対抗戦です」


「何で(きそ)うんですか」


「主に互いの本陣に置かれている(さかずき)を奪う、合戦です」


「え。合戦って――」


「はい、率直に言えば戦闘です」


「真剣で?」


「勿論です」


「死人は、出ないんですか……」


「毎回普通に出ますよ」


「……――ジャグネスさんは、もちろん出るんですよね?」


「はい。騎士団長ですから」


 ムム。


「ぁ――。し、心配には及びません。私は、誰にも負けませんからっ」


「勝ち負けじゃなくて。死ぬかどうかでしょ。ま。死んでも、生き返るけどね」


 それは、そうなのだが。


「行事じゃ、仕方ないわよ。水内さん」


 うーん。


「……そうですね。こればっかりは仕方ないです。けど、できるだけ危険なことはしないでください」


「はい」


 相手が、微笑む。


「ちなみに妹さんは?」


「エリアルは毎回、出てくれてます」


 ム?


「サバ読みも、出るの?」


「勿論です。聖騎士団は対抗戦の(かなめ)です」


「へぇ。――観戦は、できるんでしょ?」


「一般の公開は一日遅れですが。救世主様なら、きっと大丈夫です」


「だったら。水内さんも、特等席で見れるわね」


 そうだったら、ありがたい。


 と思った途端に、隣の魔導少女が寄り掛かってくる。


「エリアル?」


 微かに聞こえてくる呼吸。


 ――なるほど。






「よかったら、職場の皆さんで」


 すっかり夜になった店の外へ出た後、自分が差し出した土産の一つを相手が受け取る。


「あ、ありがとうございます」


「言ってみて」


「ありがとにゃんッ。――あっ」


「鈴木さん」


「気にしないでください……、仕事ですから」


「――あ。仕事といえば、込み入った事情があるって言ってましたけど。今週も帰れそうにないのなら、預言者様に言付(ことづ)けでも?」


「いえ。込み入った事情というのは、新しいメニューを考えるというものなので。そこまでしていただく必要はありません」


「なるほど。……もしかして、はじめて会った時、それを考えてましたか?」


「仰るとおりです。なぜ分かったんですか?」


「フェッタ様の名前を出しても、気づかなかったからです」


「え。そうでした?」


「はい」


「記憶にございません」


 政治家か。


「何か思い付くといいですね」


「いえ、今回は思い付きそうもないので。諦めます」


 ム。


「――なら。豆腐は、どうですか?」


「もうありますよ」


「いろんな豆腐を仕入れて、食べ比べるとか」


「なるほど、食べ比べ。いい案ですね。――その案、いただいても?」


「自分のモノではないので、お好きに」


「なるほど。――うん、なるほど」


 気に入ってくれたみたいで、よかった。






 異世界へ戻り。家の玄関を入って直ぐ、妹を背おう姉が自分に言う。


「エリアルをベッドに寝かしてきますので。先に部屋で、くつろいでいてください」


「分かりました」


 そして相手が二階へ上がって行く。


 あ、そうだ。






 二階から下りてきた相手が、待っていた自分を見て、口を開く。


「あれ、待っていてくれたのですか?」


「はい」


「何故でしょう?」


「ジャグネスさん、カチューシャって知ってますか」


「はい。髪を留めるのに使う、物ですよね?」


「そうです。――もしよかったら」


 色のついている物よりはと思い、買った白のカチューシャを相手に渡すつもりで見せる。


「それは……?」


「ジャグネスさんに、お土産です」


「私、に?」


「はい。ジャグネスさん仕事中、前髪を」


 喋っている最中(さいちゅう)に近づいてきた相手が、自分の肩に下から両手をまわして顔を首元に(うず)める。


「ふぇ?」


「……嬉しいです」


 ムム。


「――けど、ただのカチューシャ……」


「贈り物が嬉しいのではありません。ヨウの、気持ちが嬉しいのです」


「……そういうものですか」


「そういうものです。もちろんカチューシャも、大事にします」


「気に入ってもらえたのなら、よかったです。――けど」


「はい」


「カチューシャを大事にしてくれるのは嬉しいですが。それを理由に、ジャグネスさんが危ない目に遭わないでくださいね。本当に大事なのは、ジャグネスさん自身ですから」


「……はい。――ヨウ」


「なんですか?」


「大好きです」


 ム。


「――ええと、俺は……」


「気にしないでください。私が言いたくて言ったことなので。ヨウのは、いずれ」


「分かり、ました」


 後ろにまわされている腕が、増して自分の体を抱く。


 やや痛い。


「ところで」


「はい?」


「妹さんが気にしてたんですけど。ジャグネスさん、怒ってますか?」


「……――(うらや)ましいとは思いました。ですが、エリアルなので、我慢します」


「妹さん以外だったら」


「聞きたいですか?」


「――……やめときます」


 死人が出そうで、怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ