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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】
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第15話〔私 以前に言ったと思うのですが〕⑨

 段差の下に放り出された体が、次いでの風圧で一気に加速し、着地と同時に地面を転がる。


「ブモオォォッッ」


 体の内まで響く大きな唸り声と揺れが、木々にぶつかることなくうつ伏せに止まった自分に届く。


 ――……いまの。


 はっきりとは見えなかった。


 起き上がろうと、動く。途端に左の肩や腕に痛みがはしる。


「っ――」


 それに伴って関節に違和感。確認するまでもない、骨の異常。


 ――なかなか起き上がれない自分に、何かが近づいてくる。


「ヨウジどのっ――大丈、うわっ怪我をしてるではないですかッ」


 ム。


「ホリーさん……? どうして」


 森に入ってから全員一致で、バラバラに逃げたはず。


「そんなことより、どこか安全な場所で手当てをしないとっ」


「トロールは」


「えっ、――と。なにか、夢中になっているみたい、ですね。今なら」


「なにか?」


「ここからでは分かりません。――それよりも。ヨウジどの。肩を。せえので」


 そう言う相手の手が、伏せている自分の体と地面の隙間に入ってくる。


「はい」


「いきますよぉ。――せーのっ」


 ぐッ。


 痛みを食いしばり。上半身を膝がつくところまで、借りた力でもっていく。


 直ぐに取り敢えず前を見る。そして想像していたよりは遠くに、大型の姿を見付ける。


 偶然でも、生きているのが不思議だ。


 さっきまで居た場所との間にある距離や木々を見て、そう思う。


「痛いとは思いますが。急ぎましょうっ」


 隣で自分の肩を支える短髪の騎士が、せかせかと次を始めたそうにしている。


「あ。すみません。お願いします」


「では、いきます。――せーのっ」


 ――っ。よ、よし。


 立った瞬間に、(あし)にも痛みがはしる。ただ折れている感じはない。


 再度、正面を見てみる。がやはり今居る場所からは、肩を支えてくれている相手が言った以上の事は、分からない。そして諦めて下げた視界で、何かが光る。


「ホリーさん、それは」


「え、どれですか?」


「そこで、光ってるやつです」


「あ、そっちですか。――えっと、……首飾り? ですね」


 ム。


「拾ってもらっても、いいですか。こんな状況で、申し訳ないんですが」


「分かりました。では、動きますね」


「はい」






 何度も見直して出した結論は、同じ、だった。


「これでよし、と」


 木に背を預けて座っている自分の手当てをしていた短髪の騎士が、終わりを告げる。


「すみません。助かりました」


 痛みはあるものの、随分と楽になった。


「出血の多かった肩は、()り傷だったので消毒し包帯を巻きました。折れていた左の前腕(ぜんわん)には板も添えておきましたが。気を付けてくださいね」


「分かりました。ありがとうございます」


「いやぁ」


 相手は謙遜(けんそん)して照れているが。実際、助けてもらわなければ今もあそこで倒れていたかもしれない。


「その首飾り。ヨウジどのの、物なのですか? ――あ、もしかして。ジャグネス騎士団長との思い出の品とか、ですか」


 手当てをしてもらっている間や。今も、右手に持っているネックレスを見て、相手が聞いてくる。


「いや、これは」


 ――言おうとして、口を閉ざす。


「これは?」


「たぶん。最初から、あそこに落ちてたんだと思います」


「どうして、それを?」


「鈴木さんの持ち物に、似たのがあったので」


「な、なるほど」


「ところで。鈴木さんを見掛けましたか?」


「わかれたあと、ジブンは見ていません」


「……そうですか」


 きっと、――見間違いだ。けど、――だったら。


「まだ森のどこかに大型は居ると思いますが。いまのところ、大丈夫そうですし。このまま、うまく逃げ切りましょう。――しかしいったい何に気を取られていたのでしょうか。おかげでこっちは助かりましたが」


「……。ホリーさん」


 手に持っていたネックレスをズボンのポケットにしまい。相手を呼ぶ。


「はい? なんですか」


「さっき聞きそびれたのですが。ホリーさんは、どうして俺のところに?」


「いやぁ。大型の狙いは完全にヨウジどのだったので。そういうのって、本来ワタシの役目ではないですか」


「そんな決まりはないんですけど……」


「というのは、冗談で」


 やや冗談で言ってるようには見えなかったのだが。


「ヨウジどのが心配で。戻って来ちゃいました」


 ム。


「ジャグネスさんとの約束ですか? あれは気にしなくても、本人も冗談で」


 言って、ないかも。


「そ、それは、忘れていました……」


 手当てが終わった後、何故か地面に正座して直ぐ側で喋っている相手が後頭部を触りながら言う。


「なので。ワタシが戻って来たのは、純粋にヨウジどのを心配したからです」


「それは嬉しいんですけど。ホリーさんはもっと、自分のコトを優先していいと思いますよ」


「でもワタシ、ダメ騎士なので。これくらいの事はしないと」


 うーん。


「ホリーさんが手当てしてくれたおかげで、随分と腕が楽になりました」


「それはよかったです」


「ホリーさんが肩を貸してくれたおかげで、ここまで逃げてこれました」


「それは、よかったです――?」


「ホリーさんが一緒に居てくれるおかげで、ここからも逃げれそうです」


「あ、あの、ヨウジどの……?」


 次いで相手の肩に、手を置く。


「ホリーさんはダメ騎士なんかじゃないですよ。少なくとも、俺はそう思っています。だから自分の事をもっと大事にしてください。俺からの、お願いです」


「――……ヨ、ヨウジどの。ワタ、ワタシ……――はっ」


 一瞬にして相手が後ろに飛び上がって、立つ。


「うわわ、違いますっ違うんですッ。いまのは、いまのはそういうのではなくてええッ」


 思わず自分の背後に何か居るのかと見てみるが、誰も居ない。そして、何故か相手は頭を抱えながら騎士団長の名を口にし出す。


 相手が立ったので、自分も。


「イタっ」


 立ち上がろうとして、忘れていた脚の痛みに思わず声を出す。


「――え?」


 木を支えに立ち上がった自分のところへ、短髪の騎士が近づいて来る。


「あ。脚ですね。はき物に少し血が滲んでいます。見落としていました。――ちょっと失礼」


 そう言って相手が痛みのある脚の、ズボンの(すそ)(めく)って、様子を見る。


「折れてはなさそうです。血も、殆ど止まってますね。ただ打ったみたいなので、何か巻いて固定をしておきますね」


 見終わった相手が、少し後ろにさがり、腕輪から剣を出す。


 あれ。


「剣、壊れませんでしたか?」


 しかも投げた。


「これは予備の剣です。騎士は皆、二本は持っているのです」


 なるほど。


「ちなみに、なぜ剣を?」


「手持ちの包帯がなくなったので。ちょっと待ってくださいね」






 そして着ている鎧の布を剣で切り取り、包帯の代わりに。


 ムム。


「間に合わせですが」


「新しい鎧だったのに、よかったんですか……?」


「あ。しまったっ」






 出発しようとした矢先に、短髪の騎士が離れた空に赤色の煙を見付けた。


「のろし……?」


「はい。あれは騎士団で使っている発煙筒(はつえんとう)です」


「ということは、何か意味が?」


「あの色は」


 言い掛けたところで、もう一つ、色のついた煙が上がる。


「ええっ」


 新たな煙を見て、短髪の騎士が驚いた声を出す。


「どうしたんですか?」


「……あそこまで、大型を誘導しろ。と」


 ム。


「きつそうですか?」


「無理だと思います。それに、誘導する手段がありません」


「なるほど。けど、あんなふうに煙を上げたら。かえって向こうへ大型が行くのでは?」


「トロールは執着心が強いので。狙った相手を殺すまでは、邪魔でもしない限り関係のないものには目もくれません。今は狙いがジブン達なので。森の奥で狼煙(のろし)を上げないと効果はないですね」


「なら通信で、それを」


「それは、しない方がいいかもしれません」


「ナゼですか?」


「わざわざ煙を上げているということは、何か意味があるのだと思います」


 おお、なるほど。


「何か誘導する方法を、……考えないといけませんね」


「方法なら、ホリーさんがさっき自分で言ったじゃないですか」


「え、ワタシ何か言いましたか?」


「森の奥で、狼煙を上げればいいんですよね? それにホリーさんは騎士ですから、発煙筒も持ってますよね」


「持ってはいます。でも、上げた途端に大型が来るかもしれないので。逃げる時間が……」


「それは地面に穴を掘って、煙が出てくる場所をその辺に落ちている物で覆ったりして調整をすれば、大丈夫です。要は煙が上がるまでに逃げる時間をつくればいい訳ですから」


「なるほどっ」


「――発煙筒は、何本ありますか?」


「色違いで、三本です」


 ム。少ない。


「なら、最短で」



 ***



 大気中に含まれる魔力と体内で生成する魔力。その二つを伝導の効率を上げるグローブを交差し手の平で集中させる少女が、樽を乗せた荷車に手を突き出す。


「エリアル」


 森の木々をなぎ倒し自分達の居る広場へと迫り来る相手を見て、ジャグネスは妹の名を口にする。そして妹のエリアルは、森から広場へ出て直ぐの場所に置かれている目標物と巨大な対象の距離をはかりつつ、不動の一言を返す。


「合図はしません、貴方に任せます」


 そう言い残し、集めた魔力を火と風の属性に変えて混合し圧縮する少女の側を人目では影にしか見えない凄まじい速さで、騎士は荷車を目掛けて離れる。


 来たる時を前に、エリアルの衣服は下から風を受ける様に自身の魔力で(なび)く。


「名付けて――エリアルフォイアー」


 来たる時に放つ力を、少女はそう命名した。



 *



 最短を選択した事で予定よりも早く相手に見付かってしまった現状をひた走る。


「ヨウジどの急いでっ」


 間近に迫る巨大な足音。ただでさえ走りづらい体を酷使して、体勢を崩さないよう必死に脚を動かす。


 目の前には森の終わりが。


 あと少しっ。


「どわ」


 短髪の騎士が()けた。


「なにや――」


 あ。


 森を抜けた先で、本日二回目の宙に放り出される。


「あぐ」


 しかし体は下ではなく上に、と思ったら直ぐ横へ、動く。


「耳を(ふさ)いでください」


「え? あれ、ジャグネスさ――」


 爆音が熱を含んだ爆風と共に横からぶつかってくる。


 あっついッ!

【補足】

 作中に出た≪フォイアー≫は、誤字ではありません。


 悪しからず。m(_ _)m

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