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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】
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第14話〔私 以前に言ったと思うのですが〕⑧

「危ないところでしたが。ご無事で何よりです」


 トロールが光の粒子となって消えてゆくのを確認してから、歩み寄ってきた相手が言う。


「助かりました。――それにジャグネスさん達も無事でよかったです。心配していたので」


 相手側で立つ騎士の妹を見る。直ぐに気づいた魔導少女が、自分にピースサインをした。その手には、指なし手袋の様な皮革(ひかく)製のグローブが。


「そうなのですか……」


 心配をされて嬉しかったのか。相手が恥ずかしそうに照れる。


「えっと。自警団の人達は、ホリーさんがトロールを引き付けてくれたので。森の方へ」


 やや放心状態で消えたトロールの居た場所を見続けている短髪の騎士を、見る。


「ホリーさん……?」


「――え。なにですか?」


「どうかしたんですか」


「いえ……。あのトロールを……一瞬で倒したジャグネス騎士団長の強さに、感銘を」


「私一人の力ではありません。エリアルの魔力弾があってこその勝利です」


 あ。なるほど。最初に飛んできたのは、妹さんの。


「えっ。さっきの、魔力弾だったのですか。トロールが魔力弾でよろめいたの、ワタシはじめて見ました」


「普通は、効果ないんですか?」


「目くらましになればいい方です」


 なれば、か。


「妹さん凄いんですね」


「まぁまぁ」


 普段の調子で(おもむろ)に魔導少女が答える。


「わ私も、頑張ったのですけど……」


 ム。


「すみません、ジャグネスさんの活躍をないがしろにした訳では。実際に倒したのはジャグネスさんですし。ジャグネスさんが来なかったら、今頃は――」


「間違いなく。ジブンはヨウジどののあとに、殺されてましたね」


「なに、冷静に言ってんのよ。水内さんより先に、アンタが死になさいよ。もしさっきので水内さんが死んでたら。アンタ、仮に生き残ってても、騎士さまに殺されてたわよ」


 短髪の騎士に、少女がそう告げる。


「はっ」


 目の前の騎士が、腰の剣をかちゃりと鳴らした。


「ひぃ、すみませんすみません(しばら)く蘇生期間だけはっ」


 異世界風の、命()いだろうか。


「謝る必要ないですよ。ホリーさんの頑張りがあったから、みんな助かったんです。むしろ命懸けで頑張ってくれて感謝してます」


「ヨウジどのっ」


「――ま。水内さんがそういうなら、しかたないわね。それより。アンタ達は、なにしてたのよ。もっと早く来れなかったの?」


「も、申し訳ありません。帰り際、コボルトの群れに襲われてしまい。自警団の方々には先を急いでもらったのですが。よもやトロールとこちらで遭遇していたとは……」


「ジャグネスさん達はトロールのこと、知らなかったんですか?」


「はい。コボルトを倒し、ここへ戻って来る道中に知りました。そうでなければ……」


「なるほど。じつは自分達もコボルトに襲われたんです」


「え。――その、コボルトは?」


「ホリーさんが倒してくれました」


「た、たったの三体です。トロールを倒されたジャグネス騎士団長に胸を張り言える数では」


「そんなことないですよ。――ちなみに、ジャグネスさん達の方は何体ですか?」


「……ええと」


 相手が自然な流れで、自身の妹を見る。


「三十一」


 え。


「それを、二人で?」


「はい。その場に残ったのは私達だけなので」


「で。倒すのに、どれくらいかかったのよ?」


「ええと……」


「四分三十八秒」


 ホリーさんが三体倒した時より早い気が。


「やっぱりダメ騎士は、ダメ騎士ね」


「うう」


 本気でカワイソウになってきた。


「で。これから。どうすんのよ?」


「話が途中で終わっているので、再度町長と連絡を取ってから。先に行った自警団の方々と合流しましょう」


「ジャグネス騎士団長、大型はどうされるのですか?」


「それは……」


「べつにムリに探す必要ないでしょ。分かってるヤツから、始末(しまつ)すればいいのよ」


 どこの仕事人っ。


「はい、そうですね。ひとまず大型の件は忘れて。自警団の方々を追いましょう」


 言った途端に、見えている場所で騒ぎが起きる。


 ム。


「トロールっ」


 離れた場所の建物を破壊して出てきた相手を見て、短髪の騎士が声を上げ名前を出す。


「いつの間に」


 距離があるとはいえ、今まで気づかなかったのが不思議だ。


「寝てたんじゃないの? ほら。寝起きっぽいし」


 少女の言葉通り。体にそぐった大きな欠伸(あくび)をしているのが、ここからでも見える。


「そういえば町長さんがこっち側に大型抜きで残りの二体がいるかもしれないって、言ってましたね」


「なるほど。ではあのトロールを倒せば、この辺りの安全が確保できるのですね」


「たぶん、ですけど」


「分かりました。エリアル、行きましょう」


 騎士が正面に相手を据えて、腰の剣を取り、言う。


「うん」


「皆さんはここに」


 そして、トロールが現れた場所へと姉妹が走って行く。


「お二人なら、必ずトロールを倒し、無事に戻って来れますね」


 温かい眼差しで二人を見送る短髪の騎士を、少女があの眼で見る。


「アンタ、騎士としてのプライドないわけ?」


「はいッ」


 ないんだ。






 予期せぬ事態が、起きる。


「冗談でしょ」


 想像を絶した衝撃に、引きつった顔で、少女が声を出す。


「……夢?」


 短髪の騎士が空を見上げるように、現れた相手を見て、そう呟く。


 これは――。


 起きて立ち上がった、不機嫌な表情をした相手が顔を自分達の方へ向ける。


 ――……寝起き?


「ホリーさん。トロールって、寝起きは」


「悪いです。ついでに言うと起こされた時は、最悪です」


 緑色で森の中。――見付からない訳だ。


 巨大な足が森の木々をバキバキとなぎ倒し、こちらへと体を向ける。


 三倍どころの騒ぎではない。


「逃げましょう」


 今回は真っ先に自分の口から、それが出た。


「無理です。走っても、すぐに追い付かれちゃいますよ」


「わたし、そもそも走るの苦手だし」


 ムム。――……あ。


「森へ」



 ***



「お姉ちゃん」


 跳躍して振るうジャグネスの斬撃がトロールの体を真っ二つに、縦に裂く。斬った相手が倒れるよりも先に着地した騎士は、顔を妹に向けた。


「なっ」


 直ぐに体も動かし、ジャグネスは起きている事態を確りと正面で受け止める。


「お姉ちゃん」


 再度自分を呼ぶ声に反応した騎士は、身の毛のよだつ思いを生まれて初めて経験した。


「ヨウ――」


 口に出した相手を、今居る場所からジャグネスは探す。――が見付からない。先ほどまで疑う事なく、居ると信じていた所やその周辺には、人影すら見当たらない。


「エリアル」


 相手の返事を待たずに走り出そうとした騎士は、通信の受信音を聞いて、足を止めた。


「いまは」


『――悠長(ゆうちょう)な挨拶は抜きだ。そっちの現状を報告しておくれ』


 ジャグネスの気持ちとは裏腹に、妹の手で始まった交信の相手が大体を察した様子で、答えを催促してくる。


「お姉ちゃん」


 三度目の呼び掛けは冷静さを失いつつある自分に対しての注意だと、ジャグネスは感じた。


「はい。たった今、大型を確認しました」


『らしいね。こっちからも見えてるそうだよ。他に、情報はあるかい?』


「おそらく」


 一瞬、その先を言うのを躊躇(ためら)う。言えば認めてしまう、と思うが故に。しかし騎士としての自分が思いを断ち切る。


「大型は森の奥へと進行しています。おそらく、私の仲間を標的にして」


『なに――、――確証はあるのかい?』


「確認はまだ。すぐに連絡を取って」


『まった。もし追われてるのなら、通信は音が鳴る。音は小さいが、しない方が無難だよ』


「でしたら後を追います」


『勝算があるのかい?』


「策は、何も考えていません」


『そりゃさすがに駄目だろ。どうにか作戦通りに事を運べないかい。こっちから合図でもしてやれば問題ないだろ。単純に、狼煙(のろし)でもあげるかい?』


 直ぐに騎士は思い付く。ただ問題があった。


「騎士団で使っている物があります。それなら……」


『ホリーか。問題は、まだ生きてるか、だね。ワタシはいいよ。それで、いくかい?』


 ジャグネスは悩んだ。当てが外れて一緒に居た騎士が既に死んでいたら。それ以前に誘導の危険性を。悩む、この時間が――惜しい、と。


「これからエリアルと一緒に予定の場所へ急ぎ向かいます。自警団の方々に、出来るだけ早く準備を完了するよう指示してください」


『あいよ。必ず間に合わせるから、全速で来な』


「はい、お願いします」


 そして交信が終わる。


「エリアル、付いて来れないなら置いて行きます。ただし魔力解放はなしです」


「分かった」


「では参ります」


 魔力によって身体を強化し、ジャグネスは走り出す。



 *



 高めの段差を前にして立ち止まった自分の周りが突然に暗くなった。咄嗟に振り返ると頭上に迫る大きな塊が。そして、やって来た誰かに突き飛ばされ、体が宙に放り出される。


 え、鈴木さ――?


 下に落ちる視界の上半分に、紅いものが飛び散った。

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