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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】
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第11話〔私 以前に言ったと思うのですが〕⑤

 灰色の壁に覆われた椅子のない部屋で、会議室に置かれる様な長机を皆と一緒に囲み、入って来た町長の動向を目で追う。


「ワタシの話を始める前に、聞きたい事があるんなら、聞いておくよ?」


 そう言って、入って来た扉から最も遠い部屋の一番奥で、机の短辺を前に背の高い町長が足を止めて自分達の方を向く。


「避難は無事に終わったんですか?」


「できる限りの事はしたよ。ただもう犠牲者は出ちまってるからね。無事ってのは、それをよしとするかによるねえ」


 ム……。


「え。カミラさん、町にトロールは入ってませんよね……?」


 恐々(こわごわ)と短い髪の騎士が町長に(たず)ねる。


「――入ってるよ。十三体も、ね」


「ジュ十三ッ?」


 聞いた騎士が声を裏返すほどに驚く。


「――トロール一体は、どれくらいの脅威になるんですか?」


「そりゃあ騎士団が相手をするようなヤツだからねえって、なんでそんな質問をするんだい? トロールくらい知ってるだろ?」


「知りません。ついでに言うと見たこともありません」


「なにィ、ワタシと同じ田舎もんのホリーですら知ってんだよ?」


「……ジブンいちお騎士ですよ」


 いちおうなんだ。


 其処(そこ)で、もう一人の騎士が口を開く。


「町長、ヨウは異世界人です。それ故トロールなど、知らない事は多々あります」


「いッ異世界人っ?」


「――ちなみに、わたしもよ」


 片手で髪をかきあげる様にして、少女が言う。


「嬢ちゃんもかいっ? ――……こりゃぁ驚くね」


「ま。わたしたちから見れば、異世界は、こっちだけどね」


「ほう。なるほどだね」


 顎先を親指と人差し指でつかみ、ふんふんと町長が頷く。


「そんな訳なので、話の邪魔にならなければ……」


「ああいいよ。そういう事情があるなら納得だ。まあ時間に余裕がある訳じゃないからね。少しなら問題ないよ」


「はい。手短で構いません」


「あいよ。て言っても、見た目の話になると(じか)に見るのが一番てっとり早いからねえ。話は、知っといてほしいタチの悪さに重点を置くよ」


「分かりました。お願いします」


「ん、――上で話をしてた時にも少し出たけどね。ほんらいヤツらは群れない。基本は単独さ。複数で目撃される時はたいてい縄張り争いみたいなコトをしてるねえ」


「ということは、一箇所に十三体も集まるのは……」


「普通はありえないね。縄張り争いの件すら年に一、二回、報告される程度だからね」


「――みんなで、好きなメスでも奪い合ってんじゃないの?」


「そりゃあ面白い。でも残念ながらトロールに性別はないからねえ」


「じゃ、どうやって増えんのよ?」


「それを説明する時間は、今はないねえ。騒動が収まった後にでも聞きにおいで」


「なら、い。行くのメンドクサイし」


「そうかい? ウマい菓子を用意して待っておくよ?」


「だったら、考えとく」


「あいよ。――さて、話を戻すよって言っても、時間的な事を考えると、そっちが聞きたい事を質問してくれるほうが助かるんだけどねえ」


「――それなら、トロール一体の脅威を教えてください」


「あいあい。そうだね……――ホリー、なにかイイ例えはあるかい?」


 ふっと呼んだ相手に顔を向けて町長が答えを求める。


「ええっと、――ワタシが十人居ても勝てません」


 そして即座に返る回答。


「どうしてですか?」


「全員が一斉に逃げ出すからです」


 短髪の騎士が真顔で、こっちを向き、返答する。


 そういう話を聞きたい訳ではないのだが。


「……――トロールは、一体につき、王国の一般的な騎士が六名以上で団結し挑みます」


 すかさず女騎士が口を挟む。


 さすがは騎士団長。


「――で。アンタは、その一般的な騎士なわけ?」


 話し掛けた相手に少女が顔を向けて聞く。すると聞かれた騎士が――そんなまさか。と、気恥ずかしそうに後頭部を掻き、返す。


「けど、勝手になれる訳ではないですよね……?」


 騎士の団長を見て、尋ねる。


「はい。騎士になる為には通常、入団試験に合格しなければなりません」


「――じゃ。アンタは、その試験に合格したわけ?」


「はい、しちゃいました」


 はじめました。みたいなノリで言わないで。


「こんなのを合格させて、大丈夫なの?」


 少女が女騎士の方を見て、問う。


「私が審査した訳ではありませんので……」


「だったら、もっと厳しくするように言っておきなさいよ」


「はい、上申(じょうしん)してみます」


「ガガーン……」


 ある意味パワハラだな。


「――さて。話をまとめると、そんなのが十三体も町で暴れてるって話さ」


 全く(もっ)て、どんなのか分からなかったのだが。


「町の自警団はどうしたのですか……?」


 不安げな表情で短髪の騎士が質問する。


「生き残った連中は、各避難所でワタシの指示を持ってるよ。――ただね、今回の事態を招いたのは数だけの問題じゃないんだ。それを、今から説明させてもらうよ」


「つまり本題ですね」


「そういうコト。――順を追って説明すると、上で話してる時に起きた最初の爆発は北門の砲弾庫周辺が爆破された音で間違いなさそうだね」


「誰が爆破したのかは分かってるんですか?」


「今のところハッキリとは分かってない。目星は付いてるけどね。――で二回目の振動は、トロールの投げた岩が原因だね」


「――投げられる前に、どうにかできなかったの?」


「普通はそんなの、撃って(しま)いなんだけどねえ」


「なら、なんで投げられてんのよ」


「こっちの弾が届かない距離から相手が投げてきたからさ」


「なに、高校球児でもまざってたの?」


「コウコ……なんだいそりゃあ?」


「――気にしないでください」


「ふむ? まあその、岩を投げたのが、いま噂になってる大型のトロールって訳さ」


「三倍……」


 誰に言うでもなく、青ざめる感じで短髪の騎士が呟く。


「そういうコト。ちなみに避難誘導中に起きてた揺れもそいつのしわざ。おかげで、北門は見る影もなくなっちまったよ」


「そこから町にトロールが入ったってコトですか?」


「大型込みの十三体が、ね」


 そして黙り込む。


「――町長、先に今のお考えをお聞かせください」


 次いで女騎士が真剣な口調と眼差しを向けて言う。


「ある程度は察してるだろうけどね。――ちっとばっか、アリエル達にお願いしたいコトがあるんだよ」


 まあそうなるか。


「その内容を、お聞かせください」


「当然教えるよ。まあ単純なお願いさ。ちょっくら人を、呼んできてほしいんだ」


「加勢の要請ですね、王国騎士団に」


「そういうコトだね」


「え。――それって、トロールが居る町を抜けてってコトですよね?」


 と(まと)まりそうになった雰囲気を割って、短髪の騎士が発言する。


「まあそうなるね」


「ムチャですっ、途中で死んでしまいますよ!」


「普通はそうなるね」


「カ、カミラさん……?」


「――問題はありません。行くのは私、一人です」


「え。――ジャグネス騎士団長が、お一人で?」


 いや、それはさすがに――。


「水内さん。ダメよ」


 ――ム。


「ご心配には及びません。私一人の方が、かえって安全です」


「……それは、まぁ――」


 ――そうかもしれない、けど。


「アタシも行く」


「え。――エリアル導師もですか?」


「賛成だね。アリエルとエリアルの二人なら、間違いなく町は抜けられる」


「ジ、ジブンは残ります。行っても足手まといになるのは確実ですから」


「それも賛成だね」


「ちょっとガーン」


 新たなっ。


「――ていうか。電話はないの?」


 あ。


「なんだいそれは?」


「遠くの相手と、連絡する手段よ」


「そんなの、あったらとっくに使ってるよ。でも残念ながら。遠くに居る相手と直ぐ連絡できる手段なんてのは、世界中どこ探したって見つかりゃしないよ」


「あります」


「なに――、――ど、どういうことだい?」


「説明するよりも、実際に今から連絡を取ります」


 言って、襟のブローチに手を伸ばす。と二名ほど、反応を示した。






『それではのちほど』


 石を通して行う交信が終わる。


「いや、助かったよ。こりゃ便利だ」


 背高の町長が感嘆(かんたん)した声で、テーブルに置いたブローチを見て、言う。


「早速で申し訳ないのですが、預言者様の話をまとめましょう」


「ああ、そうだね」


 折っていた腰を戻し、町長が話をする姿勢をつくる。


「要するに城から救援が来る明日の早朝までに、フェッタさまの言ってた事をやっておけばいいんだね?」


「はい、仰るとおりです」


「侵入したトロールの位置は、町に詳しい自警団の方であらかた対処するよ。トロールが寝ちまう夜の内に、人を各所に配置しておけば問題もないだろうからね。そんで来た情報はワタシのところで管理して伝える。で、いいかい?」


「はい」


「いちお確認するけど。騎士団とのやりとりにはこのブローチを借りていいんだね?」


「はい、お使いください」


「貸すのは水内さんのじゃなくて。ダメ騎士のだからね」


 親指で短髪の騎士を指しながら少女が交信中に言った事を念押す。


「ワタシは誰のでも構いやしないよ」


「絶対、なくさないでくださいね……」


「努力はするよ」


「ええ」


「――それよりも、問題は大型を倒す方法を考えるってやつだね。誰か、いい案はあるかい?」


 すかさず少女が挙手(きょしゅ)をする。


「ダメ騎士を生贄(いけにえ)にすれば?」


「イヤですよッそもそもトロールに供物(くもつ)を渡す意味がないですっ」


「アンタが頭から食われてる間に、皆で殴ればいいでしょ?」


「頭からっ」


 おお神よ。


「悪くない案だけど。食われてる間に倒せる火力が、必要だね」


 ム。


「火力ならエリアル導師がいますよ……」


 若干食われる事を容認してる。


「どうだいエリアル、自信はあるのかい?」


 相手が目線を下げて、魔導少女の方を向く。


「そんなの分からない」


「そりゃそうだ。相手は普通のトロールじゃないからね。――他に案は?」


 このままでは本当に生贄の案が成立しそうなので。挙手する。


「ほう。いい案があるのかい?」


「案というか。単純に、火力を出すってのはどうですか?」


「具体的には」


「火薬を使います。大砲があるのなら、火薬もあるはずです」


「悪くないね。火薬は製造してるから沢山あるよ」


「でも町で爆発させちゃっていいのですか? カミラさん」


「そりゃできれば避けたいけどね。優先すべき事が他にあるんだよ」


「たぶん大丈夫ですよ」


「どういうことだい?」


「火薬を製造してるなら、実験する広い場所が()りますよね?」


「なるほど、ね。狙いが分かったよ。いい案じゃないか。こりゃあヨウジの案で決まりだね」


「ただ具体的にどうするかは、少し時間がほしいです」


「ああ構わないよ。こっちも色々準備しなきゃイケないからね」


「ところで」


「なんだい?」


「やる時は、俺も参加していいですか?」


「そりゃあ」


「駄目ですっ」


 話を聞いていた騎士が急に大きく声を出して割り込む。


 ム。


「いやでもジャグネスさん」


 と言ってる内に、相手が顔をぶつける勢いで迫ってくる。


「駄目です」


 近っ。


「邪魔にならないよう後ろに」


「それでも駄目です、危険です。行こうものなら見張りも立てます」


 ムム。


「あ。ではワタシがその見張りになります」


「アンタは生贄でしょ」


「ヨウジどのの案はっ」


「代案は常にもっておくもんよ」


 そして自分でも何故そうしたのか分からないが、少女に助けを乞う視線を送っていた。


「ワタシはお願いする立場だからねぇ。その辺の事は、そっちで決めておくれ。てな訳で色々とやる事もあるし、先においとまするよぉ」


 言って、町長がそそくさと部屋を出て行く。


「……分かってください」


 目の前の相手が、自分にだけ聞こえる声で、そう言う。


「ま。水内さん、わたしたちは安全な場所で大人しく待ってましょ。ふたりで」


 やけに二人を強調する少女の言葉に、眼前の相手がぴくりと反応する。


「外は危険よぉ。トロールとかいう、わけ分かんないのがわんさかといて。それに、いつここへ来るかも分からないし。できるだけ密着して、離れないようにしておかないと」


 すると突如として目の前の相手が、すっと体を引き。背筋を伸ばして。自身の顔の近くに拳を持ってくる。そして。


「ヨウが言うように、最も安全な場所は私のそばです」


 言ってません。

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