第4話〔貴方は あのその斬られたい ですか?〕④
「――ハッ。そ、そもそも、その情報が確かなものだという、しょ証拠はあるのですかっ。ただ貴方が言ってるだけでは信憑性に欠けますッ。もも、もしかすれば私を騙そうとしている可能性だって当然否定できないのですからっ」
理不尽だ。
「嘘なら確かめれば分かるんだし。確かめてみては?」
「そ、それは、そうですが……」
「罠だと疑うなら無理強いはしません。けど罠だというなら、いったいイツ罠を仕掛けたというんですか? そんな隙も時間もなかったと思いますけど」
「それは……」
「まあ、この紙に書かれた内容が絶対にそうだとは言いません。ただ、少なくとも、こちらの世界では大抵の人が同じことを言うと思いますよ」
――こちらの世界、完全に相手が異世界人だと認める発言を――ま、気にしないでおこう。
「わ分かりました。では真意を確かめてきます。仮にもし、罠だとしても、掻い潜ればいいだけの話です」
そう言って、相手が席から立ち上がる。
「その恰好で行くんですか?」
「それがなにか」
いやマズいだろ。
「他の服は――というか、剣は持って行かないほうが」
「何故でしょう? ――ハッ、やはり罠なのですねっ」
「……そうじゃなくて、ええと。その、そういう恰好は普通しないので、変に思われるというか、いずれにせよ刃物は相手が怖がります……」
うーん、どう説明すれば。
と悩む自分と同じ様に、相手が考える仕草を見せ。そして――。
「――分かりました。確かに異世界とはいえ、初対面の相手に武器を携えたまま、会いに行くのは失礼ですね。よって剣は、収納しておきましょう」
すると女騎士が自身の右手を胸の高さまで持ってくるやいなや、その手首につけていた腕輪に、差していた剣が淡い光を放つ小さな球となって吸い込まれるようにして消えていった。
――ハ? えっ。なに、いまの。
「て、手品……?」
「テジナ? なにですか、それは」
「いや、だってイマ、剣が光って、消え……」
「はい。貴方がしまえと言ったので、しまったのです」
「どうやって」
「どうと言われましても、普通に」
もしかして異世界から来たって話は、……本当?
「なにやら困惑しているみたいですが、私は使命を果たさなければなりません。のでさっそく、隣の部屋に住まう者のもとへ」
「え、剣だけ? 鎧は?」
「非戦闘服が必要だとは思わなかったもので、あいにく持ち合わせてはおりません。なので、このまま向かいます」
ム。
仮に着替えたとしても、問題は他にもある。そして貸せる服もない。無論、下手に追及して疑惑の眼を向けられるのは絶対に避けたい。
「分かりました。なら――」
「なぜ立つのですか? ついて来る必要はありませんよ」
「一言で言えば、不安なので」
余計な騒ぎを起こされたらたまったもんじゃない。――それに、単純に扉が心配だ。
「私をみくびらないでください。この程度のコトで他者に手を借りる必要など、これっぽっちもありません」
「それなら別について行ったって問題ないんじゃないですか? 自分は見てるだけで、口は出しませんよ。それに異世界の作法を知っておいて損はないと思います」
まだ異世界の存在を認めた訳ではないが、こういう時は方便だ。
「……なるほど。確かに、異世界とはいえ礼を失するのはよくありませんね。――仕方ありません。同伴することを容認しましょう。但し出来る限り遠くから目視のみ、許します」
「十分です。それじゃあ隣の部屋が見える場所まで案内しますので、ついて来てください」
「宜しくお願いします」
玄関扉の隙間から、教えた通りにチャイムを押して相手が出てくるのを待っている女騎士の様子を、窺う。
いまのところ恰好以外に問題はないが。さて、どうなることやら。
遠くといっても壁越しに注意ができる程度の距離。ただ構造上、隣人の玄関扉とはやや距離があるので、傍で見てる分には助かる。
しかしまさか休みの日に、こんな事になるとは……。
そうこうしている内に隣人宅の扉が開き、女騎士がその陰に隠れる。そして直ぐに聞こえてくる話し声は、内容までは聞き取れず。また一方の声ばかりが目立つ。
――で、扉は閉まり。陰から女騎士が出てくる。
まあ、そうなるか。
そして何故か、こちらへ戻って来るのだった。
「それで、なんと?」
再びテーブルの席に着き、女騎士に問う。
「意味はよく分からないのですが……――一通り説明したあと、間に合ってます、とだけ言われて扉を閉められました」
ナゼに新聞の勧誘と間違えられる……。