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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第7話〔私 以前に言ったと思うのですが〕①

「ヨウジどのはいったい何ですか?」


 揺れる、広く大きな馬車の中で顔を曇らせて髪の短い騎士が聞いてくる。


「……質問の意味が分かりません」


 そして恒例(こうれい)になりつつある、と内心で思う。


「ヨウジどのと会ってから、ジブン、いつも以上に不運続きなのですが……」


 なるほど、自覚はあるのか。


「――水内さんは、なにも悪くないでしょ」


「はいッ」


 見事に根付いたな。


「まぁジャグネスさんの誤解は()けましたし、気を取り直しましょう」


「はい……」


 休みという事で、私服姿の短髪の騎士が俯き気味に頷く。


「私はただ、真意を確かめたかっただけでっ」


 同じく休みで、自らが所有する服を着る女騎士がバツ悪そうに弁明する。


「ふーん。真意ってのを確かめるのに、剣を突き立てる必要、あんの?」


 黒を主な色にしたゴシック風のドレスを着ている少女が、人形の様に整った顔で、聞く。


「救世主様っ、私はまだ、突き立ててなどおりませんっ」


「まだッ?」


 と困惑(こんわく)した表情で言う短髪の騎士を尻目に、隣の――今回は最初から皆と一緒に居る普段と同じ服装の魔導少女に顔を向ける。


「朝早くで、眠たくないですか?」


 しかし反応はなく。代わりに、規則正しい(かす)かな呼吸音が聞こえてくる。


 目を開けたままでっ。






 馬車に揺られて四時間。城の敷地から出た事での感想は特になく。騒がしくも平和な旅路の末、到着した街の様子を見て、始めて心が()く。


 おお……。


 ――ファンタジーな世界ではありがちな中世の雰囲気は感じるものの、全体はそれより後の近代。しかし建造物に関していえば高層な物もあり、使われている材質も一辺倒(いっぺんとう)ではなく、建物のデザインは現代でも通用する完成度。


 それ故、異世界に来てからというもの度々定義できない文明の水準には驚かされてばかりいる。ただ、オカシナ話ではないけれど。


「なんか。こっちに来て、はじめて、それっぽいって思ったかも」


 隣で、同じ様に街並みを見ていた少女がため息まじりに述べる。


「けど城とか、騎士も、それっぽくないですか?」


「城は向こうにもあるし。騎士とかは、コスプレを見てる感覚ね」


「なら昨日見た、魔法的なモノは……?」


「ん、そね。――特撮?」


 ここに来て、相手の知らない一面を垣間(かいま)見た気がする。


「……――エリアル、念の為、もう少し目に薬をさしておきましょう」


 後ろで、姉が妹の乾いた目を心配して言う。


「うん、分かった」


 ここに来る道中に何度も瞼を閉じさせようと試みてはみたが、直ぐに開くので、大した処置にはならなかったようだ。


「皆さーん、帰りの手配が終わりました。ので、さっそく出発しましょーぉ」


 と、自分達が居る所から少し離れた乗り場の受け付けで手続きをしていた短髪の騎士が、手を振りながら声を上げて、こっちに駆け足で向かって来る。


「――ジャグネスさん、妹さんは大丈夫そうですか?」


「はい。手持ちの薬で、なんとかなりそうです」


「分かりました。けど、もし悪化しそうなら直ぐに言ってくださいね」


「はい。ご心配をおかけして、スミマセン」


 言いつつ、姉が小さく礼をする。


「……大丈夫」


 そして、目を(まばた)きながら、妹が言う。


 うーん。――けっこう揺すったんだけどなぁ。






 街中の石畳を進む先導の短い髪の騎士に遅れないよう行き交う人々や街の風景を並行して楽しみ。縦三列の真ん中で、先頭の後を付いて行く。


 こっちに来てから城と家を往復するばかりで、異世界の人々の暮らしを目の当たりにしたのは初めてだ。――にしても。


「しかし、やっぱり女の人が多いですね」


「そ? 向こうでも、平日の商店街とかはこんなもんよ」


 横を歩く少女が、顔を前へ向けたまま、そう述べる。


「鈴木さんて、商店街とかに行くんですか……?」


「わたし、顔なじみよ。ど、家庭的でしょ?」


 普通なら、そう思うのかもしれないが。服装とか色々あって直ぐには評価を付けづらい。


「……――あ。ところで、預言者様は結局来れなかったんですか?」


「そ、なんか忙しいみたい。その代わり、わたしのチョイスで持ち帰りを頼まれたわ」


「え。――たしかパラディースのベルリーナーはお持ち帰りできなかったような……」


 と先頭を一人歩く私服姿の短髪の騎士が顔を横に向け、心配げな表情で言う。


「なんか、優待券があると特別に持って帰って、いいそうよ」


「えっ。……そうなのですか?」


「フェッタは、そう言ってたわよ」


「し……知らなかった」


 と言う相手が落胆する素振りを見せる。


 何故ガックシなんだろう。驚くなら分かるけど。


「しかし、どうして預言者さまはそんな事を知っていたのでしょうか?」


「そんなの、本人に直接、聞きなさ……――」


「預言者さまに直接なんて無理ですよぉ」


 まぁ大方、趣味がこうじて知った情報だと……――。


「――よめたわ」


「――ですね」


 なるほど。だから、あんなオカシナ依頼を。


「お二人とも、どうしたのですか? 急に」


「どうりで、胡散(うさん)臭いわけよ」


「あのぉ……?」


「なんかムカついたから、持って帰るの、ヤメヨっかな」


「それはさすがに、かわいそうですよ……」


「ま、そね。結果的に、水内さんと出かける口実には、なったわけだし。今回は大目に見るわ」


「……あの、できればジブンにも分かるように」


「ていうか、まだ着かないの? わたし、そろそろ疲れたから休憩したいんだけど」


「あ、はい。もう少しです」


 いいように使われた腹いせか。――けど、本人が勝手に付いてきた気も。






「ご注文の内容がお決まりになりましたら、そちらにある呼び鈴をお使いください」


 そして、失礼します。と言って従業員が皆と囲むテーブルから店の奥へ離れて行く。


「……――ここまで来て、言うのはなんですけど。なんだか悪い気がしますね」


 自分達以外に利用する客の居ない屋上の様子を見て、思ったことを口にする。


「なにがですか?」


 五角形のテーブルで向かいに座っている短い髪の騎士が聞いてくる。


「下で並んでる人達に、申し訳ないと」


「――ほんと、水内さんて人が好いわね」


 右隣の席に座る少女が独り(ごと)の様に言う。


「たしかにヨウジどのは、初めて会った時からワタシにも優しく接してくれます」


 道中に疫病神呼ばわりしていた気も。


「イダイッ!」


 と突然声を上げて、短髪の騎士がテーブルの下を覗き込む。


「なによ、急に……」


「――はて、……いまのはいったい」


 そう言いながら下を覗いていた騎士が椅子に座り直す。


「どうしたのよ?」


「突然、(あし)にチクリと痛みが……」


「虫にでも刺されたんじゃないの?」


「それにしては鋭い痛みが……」


 どうしよう――。


「目の方はもう大丈夫そうですね、エリアル」


「うん、大丈夫」


 ――不自然に右手をテーブルの下に垂らしている人物から一瞬、小さな光が見えた。

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