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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第6話〔蘇生期間は 蘇生期間です〕⑥

 迎えの馬車を後ろで待たせ、門前まで見送りに来てくれた二人に一礼する。


「すみません、わざわざ見送りまでしてもらって」


「いいえ、客人を見送るのは当然の振る舞いです。――あと、こちらを」


 言って、相手がメイド服のポケットから束になった券のような物を取り出す。


「それは?」


「クラル様から皆様に。本日の感謝の気持ちをこちらで、お返ししたいそうです。ただ急な申し入れであった為、むき出しのまま、失礼とは思いますが」


 ム。


 とメイド長の隣に立っている男児を見る。


「ゼッタイまた来てね」


「ありがとう。また」


「うんっ」


「――ん。わたしは?」


 意外と、そういうの気にするんだな。


「モチロン、キレイなお姉ちゃんもまた来てねっ」


「わたしを口説きたいなら、十年は早いわよ」


 ちょっ。


「あのぉワタシは……?」


 不安そうに自身を指差して短髪の騎士が聞く。


「きしのお姉ちゃん、お腹は大丈夫?」


「このくらいはしょっちゅうなので平気です」


「そっか、よかったっ」


 で心配されて嬉しそうにするのはいいけれど。肝心の答えがなかったことに、できれば気づいてほしい。


「それでは、こちらを」


 そう言って差し出された物を――受け取る。と――。


「え。これは、もしやっ」


 ――受け取った物を右側から覗き込むようにして、短髪の騎士が声を上げる。


「知ってるんですか?」


「ええっと、――これってエーヴィゲで有名な、あの……?」


「はい、エーヴィゲでベルリーナーを出す店の優待(ゆうたい)券です」


「どっどうして、そんな凄い物を持っているのですかっ?」


「当主のクーア・アルツト様が、店の経営者なので」


「クーアさまがっ――凄いッ」


 全く話についていけない。


「ちょっと。わたしたちにも分かるように説明しなさいよ、ダメ騎士」


「説明もナニも、パラディースという名の店は知っていますよね?」


「知ってるわけないでしょ」


 あ。――と、思わず口からも出る。


「ん――水内さん、知ってるの?」


 今回は横に並ぶ右端で立っている少女が、珍しそうに聞いてくる。


「雑誌で、よく取り上げられている店の名前だった気がします。確か連日長蛇の列で、入るだけでも平均二時間待ち……――ですよね?」


「はい、そうですッそれですっ」


「ふーん。意外ね、水内さんて、そういう本を読むんだ?」


「読むというかは、何かと、その手の雑誌をすすめられたので」


 まあおかげで、こっちの物価は多少なりとも知る事ができたけど。


「――そういう事でしたら、下手な説明は不要ですね」


 主の店が話題になっているからか、やや嬉しそうにメイド長が言う。


「けど、それならこの券をもらうのは悪い気が……」


 こっちは仕事で来た訳だし。


「ナニ血迷ったコトを言おうとしているのですかヨウジどのっ。こんな素晴らしい物をお断りするなんてッワタシ、許しませんよっ。ていうか断るのならジブンにくださいッ」


 もの凄い食い付き様だな。


「……――こちらの騎士様もこう(おっしゃ)っています。ので、どうかクラル様のお気持ちをお受け取りください」


「うん。ゼッタイにもらって、お兄ちゃん」


 ム。


「――分かりました。では、お言葉に甘えて」


 と言った途端に短髪の騎士が――。


「ヨウジどのっその券ッ見せてください!」


 ――はいと差し出す券を、(なか)ば奪い取る様にして――。


「救世主さま一緒に見ましょう」


「え。わたし見たって、分からないんだけど」


「ジブンが店の事も含めて、ちゃんとご説明しますからっ」


 ――持って行く。そして、肩を浮き浮きさせながら少女の背を押し、少し離れた場所で二人の輪をつくる。


「……救世主」


 行った二人の方へ顔を向けて呟き。次いで、メイド長がこっちを見る。


「今頃になって、まこと失礼ですが。名をお聞きしても、宜しいでしょうか?」


 あ。――そういえば、ちゃんと言ってなかった。


「名前は水内、洋治です」


「それはまた変わった名ですね。まさかとは思いますが、異世界人でしょうか?」


 相手が口にした異世界という単語に、男児だけが驚く素振りを見せる。


「そうですね。多分、合ってると思います」


「では、あちらのお嬢様は?」


「同じです。というか、自分はおまけです」


「では救世主というのは、あちらの?」


「はい、鈴木さんのことです。――ちなみに何故、異世界の事を?」


随分(ずいぶん)と前ですが、旦那様から異世界の話を伺った事があります」


 つまりクーアって人は異世界の事を知っているのか。


「もし、(まこと)の異世界人であれば、一つ気掛かりな事がございます」


「気掛かりですか?」


「はい。旦那様の話では、異世界人は女神の加護を受けられないと。しかし詳しくは分かりませんので、可能であれば、お調べになった方が宜しいかもしれません。何かが起こってからでは悔やむ事となるやもしれませんし」


「……――分かりました。できるだけ、早いうちに調べておきます。それと、帰り際なのに気を遣わせてしまって、申し訳ないです」


「いえ、そのような事は。――是非またお越しください」


「ゼッタイだよっ」


 男児のそれに、隣に居る魔導少女が小さく返事をする。






「なるほど、お二人は異世界人だったのですか。――して救世主さまは、エーヴィゲにはいつ頃に行きますか?」


 小刻みに揺れる馬車の中で、短髪の騎士が話し相手の少女にそう聞く。


「アンタね、分かりやすすぎるわよ。もう少し、気を使いなさいよ」


「……すみません。――して、いつ頃に?」


 完全に興味がそっちへ持っていかれてるな。と、帰りは最初から避難し、馬車の後方で外を眺めながら思う。


「そんなの聞かれたって、行き方とか知らないし。わたし一人じゃ、行けないわよ」


「それなら一緒にッ行きましょう。ジブン明日は休みなのでっ」


「あ、ムリ」


「ガガーン――……どうして?」


「なんでアンタと行かなきゃイケないのよ。水内さんも来るってんなら話は別だけど」


「それならヨウジどのをお誘いしますっから、したと仮定してッ先に明日の予定を決めましょう!」


 いや、なんでっ。


「ならいいけど。水内さんが来なかったら、ただじゃおかないわよ?」


「はいッ」


 その、説得する可能性がある相手に聞こえまくってますが。


 と思うところで、後々ややこしくなりそうなので今の内にと自分達の方に意識を向ける。


「――夕焼け、綺麗(キレイ)ですね」


 で隣に居る魔導少女からの反応は無し。


「行きよりも、少し涼しいですね」


 で――無し。


 ム。


「加護の話、気になりますか?」


 で――うんと頷く反応が返る。


「下手に心配させたくないので、ちゃんと分かるまでは黙っておきませんか」


「うん。分かった」


「――ところで、嫌いなのに何故いつも帽子を持ってるんですか?」


「お姉ちゃんに貰ったから」


 なるほど。


 ――そうして馬車は、夕焼けを背後に草原の道を行く。






「本当に、いいのですか?」


 馬車を降りて直ぐ、通算で三度目となる問いを短髪の騎士から受ける。


「はい、自分のところは三枚で足りますから」


「わたしも、フェッタの分とで二枚あればいいわよ」


 という事で、残った券を全て持っている短髪の騎士の手が小刻みに震えていた。


「感謝しますっ。では、さっそく九番隊の皆に自慢してきます!」


「ご自由にどうぞ……」


 はいっ。と相手が騎士らしい敬礼をする。


「あっ。――ヨウジどの、明日は朝の七時にエーヴィゲ方面へ行く馬車乗り場で、集合ですから絶対に寝坊とかしないでくださいよっ」


「分かりました」


 どちらかといえば、しそうなのは向こうなのだが。


「それでは、お疲れさまでした!」


 言って、城内の中に駆け足で消える短髪の騎士。


「――鈴木さんは、どうしますか?」


「わたしは部屋に帰って、明日の準備でもするわ。もしかするとフェッタが来るかもしれないけど。その時は、ヨロシクね」


「分かりました」


「ん。――じゃ、ね。今日は楽しかったわ。明日も、ヨロシクね」


「はい。こちらこそ、よろしくです」


 で相手が去り。残った少女と二人になる。


「妹さんは、どうしますか?」


(うち)に帰る」


「なら一緒に帰りましょう。仕事が終わった頃に、お姉さんとも家へ向かう馬車乗り場で待ち合わせをしているので」


「分かった。――これからは一緒に帰れる、ね」


「はい、そうですね」


 ――ん? まぁ、いいか。






 自分達が着くと既に相手は待っていて、心なし後ろ姿がそわそわしている様に見えた。


「お待たせしました」


「ヨウっ――ぇ、どうしてエリアルがここに……?」


「妹さんも家に帰るそうなので、三人で一緒に帰ろうかと」


「――帰ろ」


「なるほど。私は一向に構いま……――ヨ、ヨウっ」


「はい、なんですか?」


「どういう事か、ちゃんと説明してくださいっ。ヨウは、私と、交際していますよね?」


 すれ違った時の事だと思うものの、何故それを確認されているのかが分からない。


「ええと……、説明というのは――あ、そうだ。ジャグネスさん」


「な、何でしょう……?」


「パラディースというお店を知っていますか?」


「ぇ? それは、エーヴィゲに()るベルリーナーを出す店の事でしょうか?」


「その店です。よければ明日、そこに行きませんか?」


「えっ。――で、ですが、店は連日長蛇の」


 其処(そこ)で割り込むようにして、券の端と端を持ち、相手に見せる。


「それは……?」


「今日の仕事で帰りに貰いました。いま言ったお店の、優待券らしいです」


「なっ、なな、な、なん、と――」


「あ、明日は都合が悪いですか?」


「――その様な事はありえませぇえんッッ!」


 叫びに驚いた近くの視線が一斉に自分達を見――そして、早々に散って行く。


「……――ス、スミマセン……」


「だ、大丈夫です。――気に入って、もらえましたか?」


「はいっ。その、とっても、……嬉しいですっ」


 相手が腕をもじもじさせながら恥ずかしそうに言う。


「ちなみに、申し訳ないんですが」


「はい、何でしょう?」


「明日は一緒に妹さん、ゃ」


「エリアルも一緒にですか、私は構いませんよ。と言うより、緊張も和らぐので、その方が助かります」


 そう言って、相手が微笑む。


「いえ、他に」


「そうと決まれば――エリアル、帰宅後は(ただ)ちに明日の準備に取り掛かりますよ」


「分かった」


 ム、ムム。うーん。――まぁ、いいか。






 翌朝の七時、馬車乗り場で何故か鬼気(きき)迫る感じに女騎士が――。


「まさか貴方の方から私の所にやって来るとは、――いい度胸です」


 ――と剣先を相手の眼前で揺らし、言う。


「ひィィ」


 差し当たり、剣はしまおう。

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