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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
二章【異世界から来た女騎士と婚約する約束を交わした】

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第4話〔蘇生期間は 蘇生期間です〕④

「ヨウジどのはいったい何者ですか?」


 小刻みに揺れる馬車の中で、髪の短い騎士が聞いてくる。


「……質問の意味が、分かりません」


「どうして――エリアル導師と仲良くできて、ジャグネス騎士団長とはお付き合いをしていて、更に預言者さまともお知り合いでっ。しかもその上っ救世主さまに面識があるって、何がどうなったらそうなるのですかっ?」


「……――また、えらくメンドクサイのに(から)まれてるわね、水内さん」


 隣で腰を下ろしている少女が、普段の調子で、言い放つ。


 ややこしいという意味では鈴木さんも負けてないのだが。


「メ、メン、メンドガーン」


 また新しいのが――。


「――ええと。成り行き上です」


「なりゆき……」


「ところで、どうしてホリーさんは鈴木さんのことを知ってたんですか?」


「祈りの儀式にはジブンも参列していましたので」


「じゃ、わたしのこと見たの?」


「はい。こんなに美しい人が世の中に居るんだなと、感動を覚えました」


 ム。


「ちょ、ヤメテっ」


 頬を(ほの)かに染めて少女が恥ずかしそうにする。


「でも儀式の際に告げられた名のように、まるで花――」


「それ以上言ったら馬車から叩き落すわよ」


「――はいッ」


 そうした理由は定かではないが、小柄な少女が眼力(めぢから)だけで現職の騎士を(ひる)ませた。


 鈴木さんの名前……――そういえば知らないな。


「名前って、聞いたらマズいですか?」


「ん。――わたしと結婚したら、水内さんには教えてあげる」


 しても、教えてもらえない場合が……?


「え、救世主さまと結婚……? でもヨウジどのにはジャグネス騎士団長が……?」


「ああ。わたしには関係ないわよ? いちお知ってるけど」


 何故に。


「え、どういうことですか?」


「仮に結婚しても。わたしはわたし、騎士さまは騎士さま、より気に入られた方の勝ちよ。一夫多妻制って、そういうもんでしょ?」


 うそん。


「でも相手は、あのジャグネス騎士団長ですよ?」


「べつに、殴りあうワケじゃないでしょ。なんなら、アンタも水内さん争奪戦に、参加してみる?」


 ちょ。


「ジジ、ジブンにはッそんな恐ろしい真似っ死んでも出来ませんッ」


「騎士さまなら、わたしがヒトコト言えば身の安全くらいは、なんとかなるカモしれないわよ」


「カモッ?」


 と――なにやら話の路線が怪しくなってきたので、被害をこうむる前に、馬車内の後方で外を眺めている魔導少女の所へ、二人が話に夢中になっている隙に避難する。


「いい景色ですね。風も気持ちいいですし」


 そして相手が自分の顔を見てから、横にずれる。


 座ってイイということだろうか。と、相手の反応を窺いつつ、空いた場所に腰を下ろす。


 ――どうやら、問題はなさそうだ。


「今日は眠たくないんですか?」


「眠い」


「そうですか。なら、寝たくなったら言ってくださいね」


「うん」


「ところで、帽子、好きなんですか?」


「嫌い」


 なら何故、いつも持っているのだろうか。


 ――そうして小刻みに揺れる馬車は、暖かい日が差す草原の道を行く。






「またあとで」


 と御者(ぎょしゃ)が告げてから来た道へと馬車を走らせ、遠ざかっていく。


 いつもの、いい声の人ではなかった。


「――定時に帰れるよう、手配をしておきました」


 去り際、御者と話をしていた短髪の騎士が自分達の所に来て言う。


「アンタ、雑用としては優秀そうね」


「いやぁ、そんなことはありませんよ」


 あからさまに嬉しそうだな。


「……――で、なにすんの?」


「なにというのは?」


 相手の質問に対し即時質問で騎士が返す。


「物分かりが悪いわね。さっき言った優秀ての、やっぱ撤回するわ」


「ガガビーン」


 新手だ――。


「――実を言うと、急いで来たのもあって、なにをするか自分達も知らないんです」


「なに、それ。胡散(うさん)臭いわね」


「まぁ相手はお医者さんですし。それに、預言者様から(たく)された依頼なので間違いはないかと」


「医者ね。捕まって改造手術とか、されないでしょうね」


 鈴木さんて、そういうの好きなんだろうか。


「とりあえずは約束の時間が迫ってると思うので、行きましょう」


「でも、門が閉まってるわよ。どうやって入るの?」


 ム。


 馬車を降りた直後から分かってはいたが。眼前で、絵に描いた様な屋敷の門は固く閉じられていて他に入れそうな場所も見当たらない。更にいえば、どう入るかの前に――。


「――敷地が、広いですね……」


 いま居る場所から建物は見えているものの、叫んでも届く距離ではない。


「どっか、チャイムとかないの?」


 そうか。と門の周辺を見てみる、が目的のモノは見つからなかった。


「――ホリーさん、どうやって入るか分かりますか?」


「モチロン知りません」


「使えないわね」


「ガガーン」


 のやりとりを無視して、再び門に目を向ける。と、いつの間にか身の丈に近い棒状の物を持った魔導少女が門前に立っていて、次の瞬間、それで門扉(もんぴ)を打つ。


 うおーいっ。


「――い妹さんッ?」


 焦って呼び掛けた矢先に――。


『はい。どちら様でしょうか?』


 ――門からインターホン越しに話す感じの声が発せられた。


「客」


 魔導少女が平然と門に告げる。






「こちらでお待ちください。(じき)にクラル様とメイド長がおいでになります」


 そう言い残し、メイド服を着た女性が屋敷の中へと入って行く。


 あれ、確か当主の名はクーアでは?


 と思いつつ、邸宅(ていたく)を目の前に庭らしき場所で横並びになって状況が変わるのを待つ。


「ね。なんで、中に通してもらえないわけ。失礼じゃない?」


 待機し始めてからものの数十秒で、右に居る少女が不満を口にする。


「当主のクーアさまはとても礼儀正しい人なので、おかしいですね」


 右端に居る短髪の騎士が小首を(かし)げて言う。


「けど、さっきの人はクラル様って言ってましたよ」


「はて誰のことでしょうか?」


 こっちに聞かれても……。


「誰でもいいわよ。来たら、文句を言うから」


 ヤメて。


 ――などと、やっているうちに、先のメイドが入って行った扉から――。


「お待たせいたしました。――ぇ」


「こんにちは」


 ――出てきた二人が自分達の前に来て、一人は挨拶をしたのちに魔導少女を見て驚き、もう一人は年端もいかない男児だった。


「はじめまして」


「え、こども……?」


「クーアさまは……?」


「コンニチワ」


 二名ほど挨拶そっちのけなのだが。


「イライを出したのはパパじゃなくて、僕だよ」


 服装からしてにじみ出ている育ちのよさそうな男児が、自身に手を当て、言う。


「え、いたずら……?」


 相手の正体を知ったからか、やや遠慮気味に少女が聞く。


「イタズラじゃないよっ。ちゃんと――」


 ――声を上げる男児の前に、一緒に来たメイド服の女性が割って入る。


「クラル様、この方達へのご説明は私が代わりにしても――よろしいでしょうか?」


「う、うん。お願いできる? ララ」


「はい、もとより」


 それを聞いて男児が一歩後ろに下がる。


「――驚かせてしまい、申し訳ありませんでした。私は、アルツト家のメイド長を務めるララと申します。当主様のご子息クラル様を代弁し、お話をさせていただいても、よいでしょうか?」


 なるほど、息子さんか。


 そして何故か全員が自分に注目し、返事待ちとなる。


「お、お願いします」


「――良心的な応対(おうたい)、感謝いたします。この度、皆様がお越しいただいた理由はクラル様の依頼で、お間違いないでしょうか?」


「そうと言いたいところなんですが。依頼書には今日の十五時に、ここへ来るようにとしか書かれていなかったので、依頼主が誰なのか、自分達は知りません」


「なんと。それで、わざわざ……?」


「はい。そういう依頼だったので」


「それは(まこと)に……恐縮であります」


「念の為に聞くんですが、依頼書の件は間違いでは?」


「いえ、依頼を出したのは間違いではありません。ただ確かな物を送ったはずなのですが。どうやら、手違いが生じたようですね」


「――……ララ、ごめん」


 と男児が急に謝ったことでメイド服の女性が後ろを見る。


「イライを送るちょくぜんに、僕がすりかえたんだ」


「どうして、そのような……?」


「――……僕が書いたのを送りたかったんだ」


「それは……――今回は見送ると、約束したではありませんか」


「ごめんなさい」


 ムム。


「――ええと。依頼の内容を説明してもらえれば、それでいいですよ」


「しかしこちらの不手際で……」


「かもしれませんが特に問題はありませんし。それより、()ずは内容を聞かせてもらえませんか?」


「はい……。――依頼内容は、クラル様の魔導訓練にご協力していただきたいのです」


「まどう訓練……?」


「わたくしどもとしては、一般的な城の道士(どうし)にお越しいただければそれでよかったのですが。まさか導師に来ていただけるとは……」


 だから妹さんを見て、驚いていたのか。


「アタシはいいよ」


 左に居た魔導少女が(おもむろ)に口を開き、言う。


「しかし貴重な導師様のお時間を()いて、よいのでしょうか?」


「うん。早くしよう」


「――本当にいいのっ?」


 これまでメイド長の後ろに居た男児が、勢いよく魔導少女の前に飛び出して聞く。


「うん、いいよ」


「どうし様が教えてくれるなんて、僕カンゲキだよッ」


 うーん和むなぁ。


「ク、クラル様っ」


 見兼(みか)ねたのか、メイド長が止めに入る態度で男児の名を口にする。


「本人がいいと言ってますし、大丈夫ですよ」


「しかし……――本当に……」


 と悩むメイド長を余所(よそ)に。


「なにをすればいいの?」


「魔法は使える?」


「ううん、まだ使えない」


「なら魔力弾(まりょくだん)は?」


「それならできるよっ」


 え。――聞くからに攻撃的な単語なんですが。


「アレに撃って」


「えっ?」


 魔導少女が指す先に居た短髪の騎士が驚いた顔で声を出す。


「あの、どうしてワタシに……?」


「他は危ない」


「ワタシは……?」


「騎士なら頑丈」


「で、でも魔力弾ですよ……?」


「威力を見る」


「え、えっ、え」


「先に申し上げておきます。最近のクラル様は目に見えて上達をなされ、幼いとはいえ魔力弾の威力は(あなど)れませんよ」


 いや、医学的な方面で上達してっ。


「――だって」


「止めないのですかッ?」


「死んでも、大した損害はない」


「ガガーン」


 これはヒドイ。

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