第2話〔蘇生期間は 蘇生期間です〕②“イラスト:ホリ”
「ええと――」
――ここを曲がって、正面、突き当たりの部屋かな。
と手に持っている城内の地図と現状を照らし合わせ、角を曲がる。
ム。
すると曲がった先に、上部がアーチ状になった両開きの木製扉が。そしてその扉を見ながら困った感じの素振りでうんうんと悩ましげな声を出している人の、後ろに近づく。
「あの」
「ぇ――わッ。――ビ、ビックリしたっ……」
相手の反応を見て、何故か不安を感じる。
「なにかしていたんですか?」
「ジ、ジブンは――……して、アナタは?」
「自分は間違ってなければ、この部屋に用があって」
「ふむふむ」
と頷く相手は、城内で二番目によく見かける騎士の恰好をしていた。ただ他とは違い、全体的に着ている鎧に汚れや傷が目立っている。
「ちなみにそちらは……?」
「え? あ、失礼しましたっ。ワタシは王国騎士団の九番隊より本日から新設された部隊に転属するコトとなりました、ホリ・ホックという者で、普段はホリーと呼ばれておりますっ」
と、はきはきした話し方で短い髪の騎士が自己紹介をする。その見た目から少年っぽさは感じるものの、女性であるコトは声などからも十分に認識が出来た。
「ええと。自分は水内、洋治です」
「ミナウチ……? 変わった名前ですね」
「名は洋治のほうです」
「なるほど。それでも変わっていますね」
「こっちではそうかもしれません」
「こっち? ヨウジどのは他国の出身者なのですか?」
「そうなると思います」
「なるほど、納得しました。だから装いもどことなく雰囲気が違うのですね」
「だと思います」
「――して、そんなヨウジどのはこの部屋に何の用事が?」
そんなって、どんな……。
「……預言者様に言われて」
「えっ。預言者さまって、預言者フェッタさまのコトですか……?」
「そうです。その、預言者様です」
「どうしてフェッタさまがヨウジどのに、そんな指示を……?」
「自分もさっき説明を受けたばかりなんですけど。代表として、初出勤も兼ねた顔合わせを城内の部署でしてほしいと。ちなみに仕事の内容も含めて詳しい事は、この紙に書かれているからと、説明はされませんでした」
そして不確かなので口には出さなかったが、預言者の部屋を出る間際、騎士団と魔導団から一名ずつ人員を派遣したと言われたような気も。
「その紙を見せてもらっても、いいですか……?」
「いいですよ」
と、持っていた書類の束を相手に渡す。
「ぜ、全部――……いいのですか?」
「見たいのがどれか、分かりませんから」
ここに来る道のりで内容を知ることが出来ればよかったが。まだ、ながら歩きをするほど読む事には慣れていない。
「なら失礼して」
言って、ぺらぺらと捲り、相手が渡した書類に目を通す。
「……――これは」
ム。
「なにか、驚くことでも書いてあるんですか?」
「え。ヨウジどのは見ていないのですか?」
「まだ見ていないです」
「そうでしたか――あ、こちらはお返しします」
で、改まった物言いで返される、紙の束を受け取る。
「――問題は解決しそうですか?」
そもそも問題があるか、知らないけど。
「はい、半分は」
「なるほど。紙に書かれている事って、ホックさんに関係するコトだったんですね」
「お待ちください。ホックさんなどと、これからはホリと呼び捨てにしてくださいっ」
突然のマゾヒズム発言に、やや動揺する。
「……――せめて、ホリーさんで」
「はいっ」
なんだろう。明らかに、さっきまでと態度が違う。
「あの、急にどうしたんですか……?」
「はい。改めて、自己紹介をしたいと思います」
いや、なんでっ。
「ジブンは本日より、ヨウジどのが代表となった組織の隊員として、お世話になる。九番隊から転属となった騎士、ホリ・ホックです。以後、よろしくお願いしますっ」
実は少し前から薄々そうではないかと思ってました。
なるほど。これは、確かに。
解決できていない問題の半分にあたる部屋の様子を見て、納得する。
「見た感じ魔導の研究で使われる機材や道具なのですが」
「分かるんですか?」
「はい。ジブンは元々騎士ではなく、魔導を志望していましたから」
「なら何故、騎士に?」
「それは聞かないでください……」
俯き気味に落ち込んだ表情で、相手が言う。
ムム。
「――ええと。もしかしたら、部屋を間違えたのかもしれませんね」
大まかに全体を見た結論として、言ってみる。
「いえ。場所は間違っていないと思うのですが……――あ。ひょっとして最初から魔導具の物入れ部屋になっていたのかもしれませんよ」
「それは、違うと思います」
「どうしてですか?」
「だって、物置として使われていたのなら埃が溜まっているはずです。それに放置するなら、動かしたままにはしないかと」
実際に部屋の中で大半を埋める謎の装置はずっと音を立てて動き、時々蒸気のようなモノを放っている。
そして――。
「――その上で、今まさに、気づいたんですけど――」
「何にですか?」
「――あそこに、誰か居ます」
と指差すは部屋の一番奥、の席。其処は並べられている机の中で最も立派な、言わばまとめ役が座るような場所――で顔に帽子を乗せ、たぶん寝ている――。
――……あれは。
「むむっ」
と唸り、短髪の騎士が奥の席へと向かう。その後を、歩き、付いて行く。
「どなたか存じませんがッ、そこは隊を任される人の席ですっ。直ぐヨウジ隊長に席を譲るべきですッ」
いつの間にか隊長にされてる。
「んん――」
長く引いた声を発して、眠っていたと思われる誰かが帽子を取る。
「――……ダレ?」
あ、やっぱり。
「え……――も、もしや、エリアル導師ではありませんか……?」
「そう。で、ダレ?」
「どどっどうしてエリアル導師がここにっ。ワタっワタシッ前々から導師を甚く尊敬していてっ。もっもしよければ、握手をしていただけませんかッ?」
「嫌。ダレ?」
「ガガーン」
ガガンッ?
――と見ていても埒が明きそうにないので、そろそろ話に加わるとする。
「妹さん、その人は騎士のホリーさんです」
「分かった」
「ちなみに、妹さんは何故ここにいるんですか?」
「お願いされた」
「誰に、何をですか?」
「爺に、ここの手伝い」
ジジイ……――誰のことだろう。
「――この辺にあるのは、妹さんの物ですか?」
「そう。危ないから触らないで」
「分かりました。空いてる席は、使ってもいいんですか?」
「うん、いいよ」
という訳で、空いている席に向かって――。
「ちょっちょ、ちょ――っと待ってくださいッ」
――動かそうとした足を止める。
「はい、なんですか?」
「イヤ、なんですか、ではなくてですねっ。どうして、二人は自然に会話しちゃってるの
ですかッ?」
「どうしてと言われても……――」
――意図せず、ボサボサ髪の少女と顔を見合わせる。
「ヨウは、お姉ちゃんのコイビト」
「えっ――エリアル導師のお姉さんって、ジャグネス騎士団長では……?」
「そう」
「え、えっ、え、ええっ――ぬっ、ぬええええええええええッッッ」
ぬえッ? 新しいっ。