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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
一章【異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした】

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30/293

第30話〔絶対に私のこと 好きになってもらいますから〕②

【補足】

 通常よりもかなり長いお話となっております。


 予め、ご了承ください。m(_ _)m

 玄関扉を開けると、日が落ちて外よりも暗くなった家中(かちゅう)の二階へと上がる階段の三段目くらいに、不自然な影があった。


 ム。


「どうかしましたか?」


 取っ手を持ったまま、家の中を覗いていた自分に後ろから声が掛かる。


「なにかが……」


「私にも、見せてください」


 と言われて気づき、扉を持っていた手を放し、相手の入る空間をつくる。そして一緒に、中の様子を(うかが)う。


 ふと精神的に立ち直れたのか気になったが、下手に掘り返すとアレなので、触れないでおくことにした。


「階段の所に何か居ますね」


 女騎士が落ち着いた口調で言う。更に――。


「入って、明かりを()けます」


 ――そう告げる相手を見ると、既に剣が握られていた。


 いつの間に……――。


「――大丈夫ですか?」


「はい。しかし罠かもしれませんので、ヨウはここに」


「分かりました。けど、いざって時は状況を見て、出来る範囲で手伝いますね」


「はい、お願いします。――では、参ります」


 そして騎士が静かに中へ入り玄関脇の壁に手を伸ばす。と瞬く間に、全ての影が照明の(もと)で確かとなる。


 ――あ。


「エリアルっ、貴方またそんな所でッ」






 やや短い黒みがかった赤色の乱れた髪を掻きながら、丈が短めの外套(がいとう)を羽織る少女が座っている段の一つ下の段に落ちていた帽子を眠たそうな顔で拾う。


「妹さん、オハヨウです。そんなところで寝て、体は痛くなってないですか?」


「オハヨウ? 夜はコンバンワだよ。あと、痛い」


 なんかスミマセン。


「――ところで、話は変わるんですけど。妹さんの横にある物は、なんですか?」


 ずっと気になっていた包みを指して言う。


「届いた荷物。頭を乗せるのに丁度いい」


「なるほど。ちなみに中身は?」


「知らない。差出人も書いてない」


 よくそんな物に頭を……――。


「――軽いんですか?」


「うん。あと、やわらかい」


 なるほど。


「――ではエリアル、開けてもらえますか?」


 と自分の隣に居る少女の姉が聞く。


「分かった」


 そして少女が、荷物を自身の膝の上に置き、包みをほどく。と――。


「なにこれ?」


 ――出てきたのはどう見ても、自分の。


 キャー。






「先ほどは申し訳ありませんでした……」


 ダイニングの隣り、リビングルームで二人掛けのソファに座っている自分に飲み物を運んできた相手が目の前のテーブルにカップを置きながら言う。


「ありがとうございます。それと、さっきのコトは気にしないでください」


 気にされると余計に恥ずかしい。


 と隣の席に置いた包みを横目で見る。で――。


「――ところで」


「はい、何でしょう?」


「今日は着替えないんですか?」


 いろいろあって、鎧を着たままの相手に問う。


「ぇ? ――あ。そ、そう、ですね。では着替えてきます」


 そして相手が持っていたトレイをダイニングのテーブルに置いてから、扉へ向かう。


「お姉ちゃん」


 するとダイニングで食事をしている筈の少女が後ろに来た姉を呼び止める。


「はい何です? 食べ方が分かりませんか」


 と、食べてしまったと思っていた土産を妹の食卓に出した姉が返事をし。


「ううん。両方にかじった跡があるのは、何故?」


「……――それは私が毒味をした跡です。だから安心して、食べなさい」


 そう言い残し、女騎士が部屋から出て行く。


 確信犯という奴か。


 そして何故か、少女がこっちを見る。と椅子から立ち上がり、ハンバーガー片手にこちらへとやって来て、包みを置いてある隣の席に背を向けて立つ。


 ム。


 でなんとなく、包みを自分に寄せる。すると、空いた其処(そこ)に少女は座った。


「何があった?」


 と質問してから、相手がハンバーガーを食べ始める。


「なにというのは?」


「ぉねぇふぁん――……――んぐ。――珍しく、魔力を解放した跡があったから」


「魔力……」


 これまでで一番の、ファンタジーな響きだ。まぁそれはそれとして――。


「――よくは分かりませんが。たぶん、そういう事になったのカモしれません」


「ふぁも?」


「はい。実は途中で気絶しちゃって、見てないんです」


「――んぐ。――頼りない」


 ごもっともです。


「ちなみに、跡って?」


「――お姉ちゃんみたいな人が体内の魔力を解放すると、毛が逆立つ」


 確かに、髪は全体的に少しボサっとなっていた。てっきり、暴れたからだと……。


 で納得して、少女の方を見る。と食べ終わった後の指を舐めていた。


「美味しかったですか?」


 聞くと、相手が“親指を立てる(サムズアップ)”で。


「イケる」






 それから(しばら)くして帰ってきた姉と食事の終わった妹は一緒に浴室へ。そしてリビングで眠気に襲われ、ウトウトしていたところ、二人が戻ってくる。


「お待たせしました。どうぞ、ヨウも」


 (ようや)くの風呂だ。


「――お湯、飲まないでね」


「エッ、エリアル……?」


 いったいどこで、そういうのを覚えてくるのだろうか。






 その後、風呂からあがり、髪に残った水気をタオルで拭きながら浴室の構造まで同じだった事に親しみを感じつつ、ダイニングに入る扉を開ける。と中は小さな明かりに灯されて静まり返っていた。


 ム。


 そして、さっきまで座っていたソファで横になっている人影を見つける。で確認がてら、そちらへと歩を進めると。


 ム。――ジャグネスさんか。


 他に誰も居ない部屋で見つけた相手は、ソファの肘掛けを枕代わりに少し体を丸めて寝息を立てていた。


 起こさないほうがいいかな?


 と誰に聞くでもなく、寝ている相手と向かい合うソファに腰を下ろす。


 そして改めて、相手を見る。


 ――今朝は眠たそうにしていたし、きっと疲れもあって。


「ん……」


 ム。


 特に起こしてしまうような事をしたつもりはなかったが、うっすらと目を開いた後、こちらを見付けると相手は慌てて体を起こし、座り直す。


「いい、いつの間にっ」


「すみません。起こしてしまいましたか?」


「い、いえ。そ、それは別にっ」


 しかし意外に慌ててるな。


「――そういえば、妹さんは?」


「エ、エリアルなら、いつものように城へ行くと言って、出掛けました」


 なるほど。ということは――。


「――もしかして、俺のことを待ってたんですか?」


 と聞いた自分に、相手がハイと頷く。


「そうですか。気にせず先に寝てくれても、よかったのに」


「い、いえ。そういう訳にも、いきませんので……」


 ム。


「どうしてですか?」


「ヨウに、しなければならないお話が、ありますので」


「え、あ。そうだったんですか、――ちなみにその話って?」


「はい。えっと、その。じつは、その……」


 言い難い内容なのか、相手が首に掛けているタオルをしきりに(いじ)る。


「ひょっとして、話というのは預言者様が言っていた、例の?」


「え? あ。そう、そうです、そうなのですっ」


 なるほど、自分に関係する話だったのか。


「――言いづらいコトですか?」


「……はい。ずっと、言い出せず」


「ということは――」


 前日から? そういえば、意味の分からないことを何度か言われた記憶が。


「――つまりそれって、迷惑が掛かってるってコトですよね?」


「へ? な、何の」


「俺が居ることで、ジャグネスさんに迷惑が」


「え、え? ま、待ってくだ」


「それならそうと、直ぐに言ってくれれば――」


 いや、言いたくても、なかなか言えなかったのか。


「――そういうコトなら、明日にでも向こうへ帰ります」


「なっ。ちょ、っと待ってくださいっ」


 ム。


「はい?」


「私はそういうコトを言おうとした訳では、なくて、ですねっ」


「え、違うんですか? なら、なにを……?」


「私はその……ヨウと」


「俺と?」


「こっ、こ……」


「こ?」


 あ。


「こっこしてください、ですか?」


 どういう意味だったかな。


「ち違いますッ私は婚約と言いたいのですっっ」


「ああ、コンヤクですか」


 なるほど、コンヤクって言いたかったのか。それで何度もコを……――こ、こんやく?


「――こんやくって、結婚の約束を交わす意味での、婚約ですよね……?」


「はい、その婚約です」


「なるほど。誰か、婚約したんですか? お友達とか」


 と質問する自分に、相手が自身の胸に手を当てて見せる。


「ぇジャグネスさん……? え、え、ええええっ――す、すっごくおめでたい話じゃないですか、どうしてもっと早くに教えてくれなかったんですかっ?」


 ――あ、そうか。結婚するって事は、俺が家に居たらマズいんだ。なるほど、納得だ。


「ちなみに、お相手はどんな人なんですか? て聞いたところで、分かりませんけど」


 すると相手が胸に当てていた手を、平を上にして、こちらへ伸ばす。


 ム?


 自分の後ろに写真でも飾っているのかと思い見てみる、が何も無い壁だった。


「――この手は?」


「お相手を、示しています……」


「……――ええと、お相手って、壁なんですか……?」


「ち違いますッお相手はヨウですっ、どうして壁と婚約しなければイケないのですかっっ」


 それはそうか。


「――ヨウ、なんだか聞いたことのある、なま……――え?」


 思わず自分の顔を指で差す。と、それを見て、相手が頷く。


 え。


「なぜ……?」


「それについては、これから説明をします」


「は、はい……?」






 そして説明を終え、胸を撫で下ろす相手が――。


「私が伝えたかった事は以上です」


 ――と言って、一息をつく。


「なるほど……」


 うーん。


「事情は分かりました。けど、オカシイですよ、それ」


「何について、でしょう?」


「ナニというかは話の大半です」


「そう、ですか?」


「はい。どう考えても俺には、無理にジャグネスさんと婚約させようとしてるようにしか思えません」


「そのようなことは……」


「けど、問題視する相手と婚約させるほうが問題だと」


「それはきっと、預言者様がヨウの身を案じて」


「案じてもらえるのは嬉しいです。だからってジャグネスさんと婚約させるのはオカシイかと。そもそも、滞在するのが問題だというのなら、公表する事を考えるより先に向こうへ帰したほうが――」


 ――ム?


 話している最中に突然、相手が顔を(うつむ)かせる。


「なにか失礼なことを言っちゃいましたか……?」


「……――ヨウは、私と婚約するのが嫌なのですか?」


「え。いや、そういうコトでは」


「私が、危ない女だからですか?」


「……それはどういう意味で」


「見ていましたよね? 私が戦うところを」


 ム。


「ヨウが止めなければ、私は間違いなく、あの者の首を()ねていました。そのように他人を、簡単に人を、(あや)める女と婚約するのが、嫌なのではないですか……?」


「それは違います」


「嘘ですっ」


 相手が、勢いよく前へ顔を突き出すようにして上げ、声を放つ。


「……――嘘ではないです。というか、俺はジャグネスさんが戦っていたところなんて見ていません。見たのは、事が済んだ後の有様(ありさま)です」


「それをやったのは私です」


「だとしても関係ありません。仮に全てを見ていたとしても、です」


「どうして、言い切れるのですか?」


「ジャグネスさんが人を殺そうとした理由が、悪ではないからです。確かにやり方は乱暴だったかもしれませんが、それは文化の違い、というか仕方のないコトだと思います」


「……――では、どうして?」


「結婚は、好きな人とするものだからです。責任とかを理由に、するものではありません」


「しかし私との婚約は、あくまで表立った話であって」


「そこまでして、滞在するつもりはありません。ただ、ジャグネスさんが約束を守ろうとしてくれた気持ちは本当に嬉しかったです。けど、いや例え、婚約が人前に限られた嘘だとしても、こればかりは譲れません」


「ではヨウは、私と婚約するくらいなら、向こうへ帰ると?」


「細かい事を抜きにすれば、そういうコトになります」


「……私が、居て欲しいとお願いをしてもですか?」


「それが婚約する事となるのなら」


 と言う自分を、()らす事を躊躇(ためら)う、あの眼がじっと見詰める。


「……――分かりました。ヨウの意志は固いのですね」


 俯き加減に相手が言う。


「――……いろいろと段取りをしてもらったのに、申し訳ないですが」


「いえ。気にしないでください」


 言いながら相手がやや前へ傾いていた体を引いて、戻す。


 そして見計らったかのように、時を知らせる、音が部屋に響き渡った。


「――このままでは、日が変わってしまいますね。話に夢中で、気づきませんでした。そろそろ寝なくては」


 と言って、相手が先に腰を上げる。


「そうですね。早く寝ないと、明日は帰る準備もしないといけま、せん、し……――」


 ――え?


 ソファから立ち上がろうとした矢先に目の前のテーブルに落ちてきた一粒の滴、から音を立て次々と。それを見て、顔を上げる。と――。


「ジャグネスさん……?」


 ――先に立った相手が、立ち尽くしたまま、泣いていた。その頬をつたい落ちる涙をぬぐうこともせず、唯々(ただただ)流し、泣いていた。


「あの、ジャグネスさん……?」


「ぇ? ぁ、はい――ぇ、あ、あれ?」


 自身が泣いているのが不思議なのか、やや混乱気味に首のタオルで涙を拭き始める。


「どうして、でしょう。急に、涙が」


「俺、なにかヒドイことを……」


「け決して、そのようなことはっ、ち、違います。これは、自分でも、どうしてなのか分からな、くて。た、ただ、ヨウが帰ってしまうのだと思ったら、急に、涙が――」


 え。


「――き、気にしないでください。すぐ、止まりますからっ」


 しかし止まるどころか(あふ)れてくる涙を拭いきれず、相手は自身の顔にタオルを押し付けた。






 それから互いに腰を下ろし、状況が沈静するのを待ってから――。


「止まりそうですか……?」


 ――と、(はた)から見ても落ち着きを取り戻しつつある相手に聞いてみる。


「はい。もう、大丈夫です」


 そして、泣き()らした目で無理やりに微笑む。


 ムム。


「――あの、いくつか質問してもいいですか?」


「はい。何でしょう?」


「ジャグネスさんは、好きではない相手と婚約してもいいと思ってるんですか?」


「もちろん、好きでもない相手とは嫌です」


「ならどうして、嫌だって言わなかったんですか?」


「最初は困りました」


「今は?」


「するつもりでいました」


「何故……――そこまでするほどの約束では」


「約束をしたからではありません。むろん、体裁(ていさい)でもありません」


「なら、する理由が……」


「私がヨウのことを好きになったからです」


「ふぇ」


 変な声が出てしまった――。


「――昨日、会ったばかりなんですけど……」


「はい。でも好きになりました」


 なんだろう。泣いた所為(せい)か? 吹っ切れてる感が……。


「私も、質問していいでしょうか?」


「はい。なんですか?」


「ヨウは、私が好きでもない相手と婚約するのが駄目だと言いました。ですが好きな相手となら問題もない気がします」


 いや、質問になってないし。


「――……一方だけでは駄目かと」


「ではヨウも私のことを好きになってください」


 エエ。


「いくらなんでも直ぐには……」


「ヨウは、私のことが嫌いなのですか?」


「嫌いではないです」


「では好きですか?」


「とは言い(がた)いです」


 言った途端に、相手の目に再び涙が見え始める。


「まっ待ってください、おっ落ち着いて――」


 ――俺にどうしろとっ。


「……どうすればヨウに、好きになってもらえますか?」


 騎士なだけあって、吹っ切れると真っ直ぐだな。


「ヨウは、明日には帰ってしまうのですよね……?」


「いまのとこ――」


 ――駄目だ。言い切ったら絶対に泣く。


「……――分かりました。なら最後に一つ教えてください」


「最後……」


「いや違ッ今のはそういう意味ではっ」


 ――ふぅ、ギリギリセーフっ。


「……――はい、何でしょう?」


「ええと。ジャグネスさんは俺のことが、好きなんですよね……?」


「はい好きです」


「気の迷いとかではなく、ですか?」


「私は正気です」


 ……まあいいか。


「けど俺はジャグネスさんのこと、好きとは言い――おっ落ち着いて、たっ耐えてください。で、よければ、滞在してもいいですよ。ただし条件付きで」


「ぇ、……本当ですか?」


「はい、ただ条件付きです。――ええと、こっちで滞在するにはジャグネスさんと婚約しなければイケないんですよね?」


「はい……」


「なら、ジャグネスさんの気持ちを()むことはできませんが、せめての妥協で形式上は。けど中途半端な事はしたくないので俺と――付き合ってください」


「付き合う……?」


「形式上は婚約です。けど二人の間では、交際、て事にしませんか」


「つまりそれは、ヨウの恋人に、私はなれるという事なのでしょうか……?」


勿論(もちろん)ジャグネスさんがよければ、ですけど」


「そうしたらヨウは向こうへ帰りませんか……?」


「はい。ただ(しばら)くは、です」


「しばらく……?」


「単純に言うと、交際して一年が経ってもジャグネスさんのことを好きにならなかったら、向こうへ帰ります。それが、さっき言った条件というやつです」


「いちねん……」


「あ、一年、では分かりませんか?」


「いえ、大丈夫です。えっと……一年経って、ヨウが私のことを好きになっていたら、どうなるのでしょう?」


「その場合は、本来の意味で婚約をしてもいいですし……――けど、一年後にジャグネスさん

は俺のことを嫌いになってるかもしれませんよ? もしかしたら、もっと早くに」


「ありえません」


「今に分かることでは……」


「――(よう)するに、一年以内に私のことを好きにならせればいいのですねっ」


 と言って相手が、何故か拳を握る。


 なんで若干喧嘩腰なんだ。


「ま、まあそういうコトですね……」


 ……そういうコトなのか?


「私、頑張ってヨウに好きになってもらいますっ」


「ハイ……」


 なんか急に不安が。


 と其処で、再度、時を知らせる音が部屋に響き渡る。


「――日が、変わってしまいましたね」


 ということは零時か、眠い訳だ。なら――。


「――そろそろ寝ましょうか。明日から、仕事なんですよね?」


「あ、はい」


「ちゃんと寝てくださいね。で無事に、帰ってきてください」


「はいっ」


 そして、ならと言って、立ち上がる。


「――あ。ヨウ」


「はい、なんですか?」


「えっと、その……――恋人だと、ジャグネスではない方の名で、呼んでもらえるのでしょうか……?」


 ム。


「――そうですね。はじめは、二人の時だけでもいいですか?」


「はい、もちろんですっ」


 で相手が早速と言わんばかりの顔をして、こっちを見る。


「ええと……――アリエル、さん?」


 いや、さんは付けないほうがいいのか――ん?


 何故か突然に動かなくなった相手の様子を窺う。と顔を真っ赤にして、完全に硬直していた。


 ムム……。


 そして一年という期間に不安を感じつつ、相手が戻ってくるのを待つことにした。






 最終的にソファの上で硬直したまま横に倒れて眠った相手と、迎えた次の日の朝。やや慌ただしい起床にはなったものの、時間に余裕を残して出掛ける支度(したく)を終えた後、玄関扉の前で、馬車が来るのを待っていた。


「忘れ物は、ないですか?」


 と聞く自分に――。


「はい、ちゃんと確認済みです」


 ――女騎士が微笑んで答える。


「そういえば、目の、腫れが残らなくてよかったですね」


「は、恥ずかしいので、言わないでください……」


 耳を赤くして、相手が言う。


 すると遠くから、馬の(ひづめ)が地を蹴る音が聞こえてくる。


「――来たみたいですね。そろそろ、外に出て、待ってましょうか」


 そして外に出ようと動いた途端に、右の手首を引っ張られ、肩が後ろへ傾く。


「なんですか……?」


「約束、ちゃんと守ってくださいね」


 ム。


「絶対に私のこと、好きになってもらいますから」


「……ええと。はい、自分も出来るだけの努力はします」


「はい。では、行きましょう!」


 と手を引かれ、女騎士が扉を開く。そして人知れず、波乱(はらん)の幕開けにならない事を、願う。

【補足】

 今話≪一章:第30話≫で、一章は終了となります。

 次話≪二章:第1話≫からは、物語の本編が開始いたします。


 そして、ここまでの話をご一読くださった方々に感謝の意を表すと共に

 引き続き≪異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした≫を

 よろしくお願いいたします。m(_ _)m

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