第153話〔知りたいから そばに居るのよ〕④/外伝“挙式”
広大な敷地内にある木々が立ち並んだ小さな林のような道を皆と走る。
こんな所もあったんだなと思いながら、向かう――部屋を飛び出した女騎士の後を追う。
現状気掛かりなのは――。
……間違いなく、もう始まっている。
――木々がザワつくほどの凄まじい衝撃と音、更には地響きまでもが。
「み――皆さんっ、待ってくださいよぉ!」
足を止め、振り返る後方に。
「だったらアンタが速く来なさいよ」
いやぁ。――さすがに白無垢は走り辛そうだ。
――……これは。
いつぞやテレビで見た。
震災の光景――とまではいかないものの、既に酷い有り様と成っていた。
林道を抜け、広く開けた所で密集していた建造物は大部分が倒壊――見る影もなく。
「じゃからっワシは其方らを盛大に祝ってやろうとッ!」
「大きなお世話ですっ、そもそも私は呼んだ覚えがありませんッ!」
と、足を止めて立ち尽くす自分達から、やや離れた場所にある大量の瓦礫を足場にした凄まじい攻守、その一方的に見える応酬が一瞬視界を通り過ぎる――が。
「元来ワシを呼ばぬコトが問題じゃっ、なに故その様なヘマをしたッ?」
左から右へ、次いで。
「手違いなどではありません! 落ち度があったとすれば、警備が行き届かなかった故の失策ですッ!」
右から左へ、と親子が視界を横ぎる。
ええと……。
すると隣に預言者が来て。
「おやおや、どうも王に今日の式典が知れてしまった様ですね」
と言うか――あの人は実父なのだが。
しかしながら、現今に至るまで名すら出ていなかったのを今更ながらの疑問に思う――ほどでもないのか。
なんとなく、察しが付く。
――で取り敢えず。
「あの」
「警備っ? 何の警備だッ?」
ぶわッ。
「当然良からぬ者が近付かないようにです!」
同時に突風が横ぎる。
うん、無理っぽい。
「良からぬ者だと? ここは城の敷地内ではないか、何を言っておるっ?」
「だからこそ厳重な警備が必要――です!」
と女騎士が振り下ろす刃から謎の衝撃波みたいな風圧が――近くにあった木々をへし折り、それごと相手へ目掛け、飛ぶ。
だというのに――。
「どういうコトだッ?」
――巨漢の大振りが全く同じ仕方で、但し規模は倍以上で飛んできた木々を相殺且つ転がる瓦礫を含め仕返す。結果。
ぁ。
「おや」
こちら側に居る皆の口から、声が出る。
それは直撃した木々が奇跡的に残っていた最重要の建造物から抜け落ち、地に落ちるまでの間に、――そして破れ目が広がり、大トリとなる鐘が瓦解して壮大な祝福の音が地上で打ち鳴らされる。
言うまでもなく、祝いの雰囲気は皆無。
当然誰が何を発する事もなく、今までの騒動が嘘の様に静まり返る。
と、気付く。
気付いてしまった。
おそらく通常であれば真っ先に本人が気付くであろう、動きに。
しかし今は静寂を破る様に怒号を放ち、相手との間に飛び交う口論で――。
気付けば、そうなる。
――気付かない相手の所へ、走る。
「きゃ」
直前、目は合っていたのだが無抵抗のまま自分が押した事で突き飛ばされる相手が横から迫っていた物の影を見て、から――こちらに手を伸ばす。
凄いな。
宙に浮いた一瞬の内に遣ってしまう身体能力の高さ。
そして、確信した瞬間の長さが事実である事を知る。
勿論見えているだけで、どうしようもないのだけれど――。
ぉ、ぉぉ……。
――時がいつもの流れに戻り、目の前を覆う宙で存在する巨大な石柱を見つめる視界にパラパラと細かい破片が落ちてくる。
次の瞬間、突風の様な流れを全身で感じると同時に目前の石柱が誰も居ない――訂正、白無垢の肩を掠める形で飛んでいき着地の衝撃で瓦礫と化す。
「ひィ!」
……妹さん? か。
皆と同じ衣装をまとう赤黒い髪の少女と目が合い、微かな笑みが返される。
何はともあれ、助かった。
しかしながら毎度考えなしに動くのは反省すべきだな。と、今にも泣き出しそうな顔で飛び掛かろうとする女騎士――を受け止める。
***
何もかもが崩壊し跡形もない式場の様子。されど、誰一人哀しんではいない。
それどころか笑みすら溢れる雰囲気に、ルシンダは理解し難い。
すると隣に独りの少女が歩み寄って来て。
「なに、自分の想像と現実が一致しないから納得できませんって、顔してんのよ」
「……――はて何の事を?」
「言っとくけど、それはアンタが観てきたモノよ。ここで見るモノとは別物だからね」
「……ここ?」
ん、と少女の眼が目の前の光景を差す。
「仰りたい事の意味を把握し兼ねます」
そして少女が声を出さずに笑みを浮かべる。
「アンタも、見ていれば分かるわよ」
見る。ルシンダに取っては最も得意とする行為――。
「――何か違いますか?」
「違いが分かる女になれ、てコトよ」
なるほど、よく分かった。と。
「私には無縁ですね」
「本気で、そう思ってるなら、救いようあるわよ」
救い? 何を言っているのだ、この人は。と示された状況を眺めつつ。
「自分が輪に居ないのに――救世主様は、得を感じられますか?」
「なワケないでしょ。いずれ、あそこはわたしのモノよ」
なるほど、それはよく分かる。
人の幸せとはそういう略奪だ。
「ではその為に居るんですね、救世主様は」
「違うわよ」
「……では?」
「分かるワケないでしょ」
「何故……」
「知りたいから、そばに居るのよ。アンタだって、だから騎士さまにつきまとってるんでしょ?」
それは――。
「観てなさい。その臆病が直るくらいのモノを、見せてあげるわよ」
――何故それを貴方が、否。
「是非、楽しみにしております」
次いで満足気に少女が声を出す。
そしてルシンダは思う。目の前の、騒がしくなりつつある新たな状況を見据えながら。
今は現状で、終わらせておくのも一興だ。と――。
【更新】
“18/09/25”に本編が完結しました。
“19/09/18”に外伝が完結しました。




