第151話〔知りたいから そばに居るのよ〕②/外伝“挙式”
「お見合いですか」
衣装などがある、元居た部屋へと戻る道すがら黙っているのも難なので試みた差し障りのない談話で返す。
「はい、それで一年以上拘束されていました」
一年て。
「……またえらく長いですね」
「私一人娘ですから、仕方ないですね」
そういう理解なのか……?
「で、驚きました。あの騎士団長が結婚するなんて聞いた事がありません」
そりゃまぁ今回が初めてな訳だし。
「どうやって口説いてみせたのですかね?」
と、わりかし本気の顔をして相手が聞いてくる。
「……口説くって、べつにそういう事は。まぁその――成り行き、だと思います」
たぶん。
「成り行き? 騎士団長がその場の流れで、ご決断したと?」
いや、それは――。
「あの方はそんな不確かな事で何かを決めたりはしません。もしそう思っているのなら、まだちゃんと理解が出来ていませんね」
――ム。
なんだろう、この人って。
「それでは今日は騎士団長の晴れ姿を、楽しませていただきますかね」
つられて足を止める。
そして戻ってきた部屋の扉に手を掛ける全体的にオカッパ頭の相手を見ながら。
見た目や態度だけで人の全ては分からないな。と、予想外に感情的な眼をされた事を記憶する。
「……ルシンダ? 何故、貴方がここに」
部屋に入ってきた自分達を見、まるで会う事のない相手と出会った様な表情で先ほどよりも薄着になっていた女騎士が言う。
「何故? 私が居るのは不都合でしょうか」
「フっ不都合などでは……なく、――貴方は実家に帰り、婚姻すると……?」
「それに付いてはフェッタ様、預言者様に予め戻るより早くに通告しましたが」
なら、伝わってないな。
口には出さずに思う、そして引き続き部屋の中央で対話する二人を傍観。
「その様な話は伺っていませんが……」
「オカシイですね。私は確かに通知はしました」
すると横目でちらりと奥の扉を女騎士が見る。
ん? ――あ、預言者様は奥の部屋に居るのか。と確信はないが察する。
「それにしても騎士団長、どういうコトですかね?」
「ぇ、――何がでしょうか?」
「当然ながら今日の形式です。どうして、私に黙っていたのですかね?」
ム。
「……黙っていたなどと、第一貴方は帰郷したと、ご両親からの連絡もあり」
「それは親が勝手にした事です。関係はありません」
若干関わりはあると思うが勿論、ここも静黙。
「しっしかし――、……と言うより貴方、婚姻は……?」
「全て断りました。後腐れもありません」
「こ、断った……?」
「はい。だというのに、騎士団長が入籍するというのは、どういうコトですかね? 正当な理由を隠さずに述べてください」
「……――正当などと、その様な従いはありません。見ての通り、私は愛する者と結婚するのです。其処に他意を挿む余地など皆無と断言します」
「本当ですかね?」
「何がでしょう……。貴方は、私が伴侶を得る事を不満に思うのですか?」
「まさか、そんな難クセを騎士団長につける訳はありません。ですがあの――異性に言い寄られるだけで切っ先を向けていた“アリエル様”が、亭主を持つとは俄かには信じ難いと、ご自身でも思いませんかね?」
「なっななっ――何を突然言うのですかッ?」
「何って、ただの事実を口にしたまでです」
「わっ私はその様にッ――訳もなく見知らぬ者に刃を向けたりなどしませんっ!」
ぇ、そう……?
まぁ――理由が無かった。と言う訳ではないけれど。
と更に言い合う二人の傍で思いつつ、待機を続行する。
その途端に奥の扉が開き――。
「ちょっと、ナニ騒いでんのよ」
――真っ白いドレスを着た長い黒髪の少女が現れる、と同時に告げる。
そして目が合う。
「ぁ。水内さん、居たの?」
ご覧の様に。とは勿論、言わず。
「はい。今、戻ってきました」
「そ、ちょうどよかったわ。皆で写真を撮ろうと思ってたの、て言ってもこれから騎士さまが着替えるから、少し待ってもらうけどね」
なるほど。
「そのくらいは全然」
それよりも、自分はどうするんだろうか。
私服のままって事にはならないと思うが、現時点までで特に指示はない。
「ほら騎士さま、さっさと来なさいよ」
と手招きで少女が女騎士を自分の所へ誘う。
「ぁ、はい」
しかし動かず、目の前に居るオカッパ頭の相手をちらっと見て――から。
「……す、少しだけ待っていただけませんか?」
「なんでよ?」
「後少しルシンダとの話に見解を、明らかにしてからでないと……」
「そんなの後でもできるでしょ」
「今が望ましいとっ」
「なら、さっさと着替えてきなさいよ」
言いつつ、白い衣装で自身を被う小柄な少女が女騎士の後ろに回り、腰辺りを押す。
「きゅ救世主様っ? 何をっ」
「いいから、行きなさい。――あとの話は、わたしが代わっとくから」
「し、しかしっ」
「いいから――抵抗するんじゃないわよ」
そしてズルズルと押し込まれるように、女騎士が隣の部屋に入る扉へと進んでいく。
そうして流れ的に残された自分の前で、同じく残ったオカッパ頭の相手に胸の前で腕を組む少女が面を向ける。
「で、アンタ誰よ?」
当然そうなります。
「ふーん。要は騎士さまのお付きね」
大分違うと思う。が、いつも通り余計な事は言わないスタンスを貫く。
そして足元から再び顔へ、少女が相手を観察する。
「見た感じ今日の式に出席するみたいね」
次いで、はい。と返事がなされる。
その表情を見。
なんだろう。――さっきまでと雰囲気が。ひょっとして、緊張してる……?
「お初に御目にかかりますが、今後は視界に入る事も多く予想されますので御見知りおきください。――異世界の、救世主様」
どうやら、そういう訳ではなさそうだ。
「初? どうせ、アンタも有象無象と一緒に見てた口でしょ」
言い方よ。
「いえ、私は祈りの儀式に立ち会ってはいません。運悪く、実家の方に居ました」
「ふーん。そ」
実に興味はなさそう。もとい、無いな。
「しかし、本日は騎士団長の形式と聞いていたのですが」
明らかに相手の、少女が着ている純白の雰囲気を見つつ、告げる。
「ん? ああ。――ま、記念みたいなものよ。女としての想い出作り、保険みたいなモノね。但し、わたし以外が、だけど」
「では救世主様にとっては?」
「予行演習よ」
なるほど。と、相手が頷く。で何故かこっちをチラ見した少女が出てきた後ろ側の扉をワイルドに親指で示す。
「アンタもやってく?」
そんな閉店前のお店みたいに。
「私は当分遠慮します」
互いに素っ気ない受け答え、の後――断りを入れたはずの方が誘った相手をじろじろと見る。と当然。
「――なに?」
「変わった衣装ですね」
ム。
「べつに大したコトない、ただのウェディングドレスでしょ?」
それはそれで失礼だが。
「……ウェディングドレス? 初耳ですね」
「ぇ。じゃアンタたち、ナニ着て生きてんのよ」
いや、そもそもが普段着ではないでしょうに。
なので代わりに――言い添える。
「んと、これは異世界の衣装です。預言者様にお願いして、こっちで製作してもらった物です」
ちなみに許可を得てカタログを持ち帰り、見本とした。
ただ購入するつもりだった当初の予定を変更して。
「なるほど。しかし色がないですね」
「それが売りみたいな衣装だと思います」
すると何故か少女が自慢げにして。
「花嫁ってのは皆、純白なのよ」
「なるほど、では時と共に黒くなりますかね?」
「……アンタ。――下ネタはもっと後にしなさいよ」
イヤ何処がっ。




