第149話〔今日も今日とて日常を楽しむ〕①“イラスト:主人公”
【補足】
通常よりも長めの文章量となっております。
予め、ご了承ください。m(_ _)m
――また季節が移り変わり、新しい女神の誕生を知らされてから一年の月日が経った。
元預言者だった人物が現在も使う部屋の窓際、外の景色を眺めながら当時の事を思い出していると、不意に後ろで扉が開く。
ム。
「……皆は?」
他の姿が見えず、独り室内に入ってきた白のローブを着て薄緑の髪を一括りにし前へ垂らす、この部屋の主に質問を投げる。
「他の者は、しばし遅れてくるかと」
そう返答しつつ自身の机などがある窓の側、自分が居る所に歩み寄ってきて立ち止まる。
「何か、お考えになっていたのですか?」
「まぁいろいろと」
「……――未だ気持ちの整理、準備が追い付きませんか?」
ム。
「いや、そっちは全くもって大丈夫です。と言うか、あんまり気にはしてません」
寧ろそんな構え方で良いのかが甚だ不審だ。が悩んだところで、後戻りは出来ない。
勿論する積もりもない。
「ならば何事を?」
「ええと、なんとなく、一年前の事を思い出してました」
「一年前……」
覚束無い記憶をなんとか絞り出そうとする元預言者の表情が惑う。――それを見て。
「前の女神様の事ではなくて、普通に皆との事です」
あれから一年が経ち、自分以外で唯一過去の女神を知る記憶は存在以上の事を想起できない状態となっている。
ただ他と違い、完全に忘れる事がないのは預言者という立場で最も長く接したからだと本人は言う。
しかし新たな女神を優遇する為、半強制的にそちらを意識させられているとも、言っていた。ので、今や亡き存在を確かめる記憶は何故か自分にだけ、残されている。
当初と比べ完全にあべこべとなってしまった。が特に困る事ではないので、当然支障もなく、平穏な日々を送れている。
そう一年前の――あの時から何も変わらず、皆と日常的に。
「もしも一年前の我々が、この事を知ったら、どうするでしょうか?」
ム?
「――何がですか?」
次いで、ゆったりとしたローブの袖口から白くか細い腕が自分の頬に伸びてくる。
「これから私達が歩む、未来への足掛けです」
何故か艶やかな声でそう告げる。相手が、更にもう一本の腕を首の辺りに差し向けてくる、のを注視しつつ、今一度速やかに――。
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予期せぬ登場後、話があると言われて待つ。が予想したよりも長い間の取り方にやや不安を抱く、と次いでその気持ちに駆られ。
「……ホリーさん、話と言うのは……?」
「ぇ? ぁ――ワタシまだ、言ってませんでしたか? つい、――言ったつもりになり、返事を待っていました」
イヤっなんでよ!
けれど騒いだところで、何も進まない。
「……まだ、何も聞いてませんよ……」
「なるほどぉー」
ポンと間の抜けた騎士が手の平を叩く。そして、一変に真面目な顔付きとなり。
「実はですね。上で皆さんとお別れをしたあと――もしも助かったのなら、再会した際にヨウジどのへ、お願いを言おうと決めていました」
なんとも言い難い通達的な表現ではあるが、ここは進行を優先しての黙認で。
「その、内容は……?」
聞き返しつつ、そういえば誰かも似たような事を言ってたな、と思う。
「ハイ。――ワタシ、これからも騎士を続けていこうと思います」
ム。
「そうですか」
ただ何故に今、言うのだろうか。と考えが生じるや否や。
「なので近々ヨウジどのの女房にしてください、と言うか勝手になっておきますね」
なるほど、て――ぇ?
「ですんでアリエル騎士団長――今後とも、よろしくお願いします」
自分の横に居る相手に、ぺこりと頭を下げる。
するとまだ肩に乗っていた片方の手がゆっくりと落ち。
「貴方は……何を?」
当然の混乱と言える様子で、こちらから離れる手が告げた方へと伸びていく。
と其処で例によって話の切り替え地点となる、黒く細い長髪を靡かせ横から現れる少女。
「ちょっとなに、勝手に話を進めてんのよ。しかもダメ騎士が」
話題を口にするのに用を成す状態かどうかは関係ないと思うのだが。
そして、どうして照れる。と――。
――独り内心でツッコミを連発する自分は、そっちのけられ話は進む。
「ですがぁ、真っ先に言っておかないと――ジブンの出番なくないですか?」
「ま、それはそうね。だったら、ここからは順番よ」
「ハイ。皆さんも、――どしどしヨウジどのに言いたいコトを言っちゃってくださいっ」
そんなお便りみたいに。というか――。
「――待ってもらえますか」
いつまでも、これまで通りとはいかない。
そう決めていた自分に二人の、次いでこの場に居る皆の意識が向くのを感じる。
もうこの辺りで、全員の踏ん切りをつけたい。
一時的に混乱し掛かっていた女騎士も含めた全員の顔が窺える位置で足を止め、皆が居る方へと振り向く。
いずれにしても近いうち、出来れば今日にでもと思っていたので、ありがたい。
しかも幸いというのか、かなり荒れてはいるが場の状況は完全に落ち着いた。
この機会を逃す訳もない。なら――。
「――ここに居る皆に、自分から伝えたい事があります」
一部関係のない人も居るが、おそらく流れを汲み取り理解をしてくれるだろう。と。
静かに話を聞く姿勢をつくってくれた対応に重視する。
「今回の事だけでなく、これまでの事を含めて自分は――何の価値もない、空っぽの人間なんだと確かに分かりました」
瞬間ざわつきが起こり。しかし直ぐにこちらの態度を見てか、収まる。
「……――その事を、早くに気づいていた人がこの中には居たのかもしれません。けど、自分はようやく知りました」
ずっと、幼い頃からの疑問だった。
「だからこそ現状は、ハッキリと断言ができます。自分は誰かを、自身を含めた何かを愛する気持ちには――なれません」
解釈と感情は別にある。大事に扱う考えと、大切に思う気持ちがそれぞれ一緒ではなく別のもの、だから無理矢理に当て嵌める必要もない。
「それに自分は気付けました。皆の、おかげです」
もし皆と会わなかったら、もっと言えば“異世界”に来ていなかったら、気付く事はなかったはずだ。
「これからはその感謝を、皆に返すつもりで生きていきます。だから、それぞれの状況が許す限りこれからも絶対に生きて近くに居てください。当然身勝手な行動は謹んで――」
――ム?
小さく挙手した少女に顔を向ける。で――。
「どうか、しましたか?」
――何かあったのかを問い掛ける。と。
「ん……なんて言うか、お別れでも言うのかと思ったら、それって要するにわたし達、申し込まれたのよね?」
ム、まぁ。
「そうとも言いますね……?」
こっちの希望を知らせた訳だし、言い回しとして間違ってはいないはず。
「――ただ、判断は自由ですよ。それに」
当然今以上の婚姻などは全く関係がない。と言い掛けた矢先、自分から見て真正面に居る相手が動く、と自身の胸に手を当てて。
「私は何があっても、ヨウの傍に居続けますっ。仮に感謝がなければと言うのなら、一生かかっても返せないほどの恩を無理やりにでも着せ、妻の座を死守しますッ」
ぇ……。――なんか勘違いを。
「ま、そね。現状はってコトは、今後わたしのドッ濃い愛で、真の愛情に気づけるし」
いや、かけ声みたいになってるし。
「ぇ――ドスコイが何ですか?」
と笑いの相方が少女に寄っていく。
結果やる気に満ちる感じの自分の相方と、話し始めた二人に釈明をする雰囲気がどんどんと失われ――慌てて声を掛けようとしたところに別の二人がやって来る。
ム。――フェッタ様、とその隣で。
「ヘレンさん……?」
どうしてか俯いて落ち着かない様子に、無意識で声を掛ける。
すると何故か小ぢんまりとしたその両肩がびくっとなり、恐る恐るに顔が上がる。
ム……?
「わっ私、妹を待たせていましてっ。で、ですから、本日はこのへんで……」
「ぁ、はい。クリアさんによろしくお伝えください」
途端に相手の肩が一瞬驚く。
……ム?
「し、失礼っ致します!」
そして元預言者を残し、走っていく――数メートル先で唐突に立ち止まる。
ム?
次いで振り向く双子の姉が、どこか初々しい様子と改まった姿勢で。
「ふっ不届き者ですがっ、妹共々宜しくお願い致します!」
と深々頭を下げてから――直ぐに走り去っていく。
いや、それを言うのなら不束者だと思うのだが。
意外にも他愛なさを感じた相手が何故それを告げたのかは後日、またの機会で確かめるとして。先に聞きたかった事を、目の前の相手に問う。
「で、どこまで知っていたんですか?」
「おや、さっそく審議にかけられているのでしょうか」
「……そこまでは言いませんけど。落ちる前に言った言葉の真意を正しく知りたいです」
もし助かると分かっていたのなら、何故それを告げる必要があったのか、を。
「弁解などではなく、保証はあの時点でも確かではありませんでした」
それは分かる。いくら前もって準備をしていたとしても、何か一つズレていたら結果は違う内容になっていたと一目で想像が出来る際どさ。
これまでの経験上、そんな危うい計画を立てる人柄でないのも知っている。
ただ最後と思った瞬間の、何かが引っ掛かって腑に落ちていないだけ。
単純に本当を確かめたいのだ。
「……あの瞬間、私は自らの死を躊躇したのです」
ム。
「恐怖心などではありません。ほんの数時間前まで、私は死を欲していたのですから」
ふム……。
「しかし生死の決断する刹那、私は無意識下にある生を望んだのです。それは結果として、あの言葉へと繋がりました。他意は一切ございません。そして途中から下を見ていなかったエリアルは、着地の瞬間まで地上の事は何も把握しておりませんでした」
……なるほど。と、久し振りに直接会う姉と楽しげに話す赤い少女を横目に見る。
と視界に新たな人物が入ってくる。
なで上げて固めた髪を箇所で崩している消耗した髪形。
一瞬、色の方に気を掛けたが特に問題はなさそうだったので。
「お疲れさまです」
と明らかに疲労が見えるその体調を気遣う。
「ほんと、めっちゃ疲れたわ……。はよ帰って、一杯やりたい気分やよ」
それは勿論いいのだが、どういう訳か関係のない若さに意識が着目する。
「ほな、あとで連絡するさかい。準備しといてや」
ぇ。と思う自分を放置したまま、そう言い残すオールバックの騎士が横を通り立ち去る。
咄嗟呼び止めようと、振り返る目に――銀とやや黒みを帯びた茶色の肌が、映る。
「やっほーまた会えたね、――ようじ」
ム。
また、と言うほど時間は経っていない気もするが、その相変わらずな振る舞いに合わせ。
「マルセラさん、無事で良かったです」
「え、――ほんと?」
ム――。
「――もちろん本当です。どうしてですか?」
「う? ぅーん……、……どうしてだろ?」
イヤ聞き返されても。
「あ、そうだ。ね、ようじ」
「はい……?」
「さっきの話って、本当?」
「……さっきの話? どれですか」
「また――嘘だったら、悲しいと思うでしょ?」
ム……。
「……そうですね。嘘はもう、吐きたくないです」
当然お互いに。だが。
「で、話と言うのは」
「本当ッ? 分かったっ。――それならお姉ちゃんに言わなきゃ!」
え、何を。
「また後でね!」
「ぇ、ちょ」
――行ってしまった。
文字通り鉄砲玉みたいな人だな、ほんと。
まぁ、それはさておき。
漸く場が落ち着いた。ので。
待機していた相手と、改めて向かい合い。
「最終的な、答えを聞かせてもらえますか?」
▲
――当時の事を思い出し、伸びてきた二本目が首に掛けられる前に失礼がないよう身を引いて躱す。で。
「特に、これといった内容はなかったと、思いますけど?」
実際あの後に告げられた事も“悪戯心”的な結論だったし。
寧ろその後の、今日までの一年間の方がよっぽどややこしかった。
現状は一先ず落ち着いてはいるものの、今後どうなるか。
と、がやがやした話し声と共に、部屋の扉が開く。
「お待たせいたしました」
室内に入ってきた五人の一同が彼女等を真ん中に左右へと広がる。
そして窓際で突っ立っている自分達を見。
「……何か、あったのでしょうか?」
心配そうに聞いてくる。
その腕には綺麗な布で包まれた赤ん坊が抱かれている。
「ぁ――いえ、ちょっと雑談をしていただけです。そっちは順調にできましたか?」
「はい、手続きは完全に終わりました」
それはよかった。と告げた直後、横から赤ん坊を覗いていた本日は私服を着る同じ職場の短い髪の騎士がこちらに向く。
「いやぁ。――これでワタシもお役ご免、一安心ですよぉ」
そう言う割に、結構楽しんでやってる様に見えたが。
「ま。アンタの、冥土の土産にしておきなさい」
気が早すぎると思いますが。――加護も復活したし。
「メイド……? あ、メイドと言えばですね。先ほどクーアさまとそのお子さまが来まして、フェッタ様にこちらと――ヨウジどのにはヨロシクと言って、帰られましたよ?」
何故に疑問形。と内心でツッコミつつ、入室した時から手に持っていた書類が入っていそうな封筒を、どうしてか自分の所に歩み寄ってきて差し出す相手から受け取り。
直ぐ様すっと滞りなく近くの、本来の受取人に手渡す。
そして、やっぱり書類だったと手の感触で認識後、彼女と顔を合わせる。
「本当に明日から復帰するんですか?」
「ハイ。いつまでも代行に、任せてはいれませんので……」
預かった物の受け渡しを終えて元の位置に戻る、その代理を確然と意識した口調。
まぁ、今さら過ぎた事なので、言っても仕方はないのだが。
ただ未だに本人がその気になった理由が分からない。
しかも何だかんだとやり遂げた以上、問い詰めるまでも。
「皆様に、ご報告がございます」
ム。と突然に声を上げる部屋の主に自分を含め、皆が注目する。
そうして関心が集まる中、持っていた封筒とその中身を近くの机に置き。
「実は先週、かねてからの研究が完成に至り。本日ここに集う予定としましたのは、その発表をしたかったからなのです」
なるほど。――で。
「なんの研究よ? 中身も分からないのに、祝えって言ったって、祝えないわよ?」
当然そうなる。
「無論です。しかしながら完成と言っても、それ自体の構成は一年ほど前に、既に出来上がってはいたのです。ゆえに此度の報告は生産する過程までも整った次第と」
「ああもう! そういうのはいいから、さっさと、結果だけを言いなさいよっ」
気持ちは分かるが、折角だし。
人生にCMスキップなんて、ないのだから。
「さすれば省略して」
あるんかいっ。
と思わず口から出そうになる深入りを我慢して、机の引き出しから上に出されて置かれる三つの不思議な色をした石の様な物に目を向ける。
……なんだ?
「こちらがその成果、最初に作り出した人工の受精石です」
受精石……?
「なによ、ただの石ころじゃない」
「いえいえ、こちらは通常の石とは違い、女体に導入する事で男性の協力がなくとも子を身籠れる画期的な少子化対策を担う代物です」
全くもって普通の石とは別物だな。――というか、思い出した。
「……もしかして、それって……」
「はい、あなたの髪が完成の切っ掛けとなった例の物です」
ブツて。
あと、少し前から時々呼び方が変わったのには気付いているが、若干慣れない。
「ぇ。てコトは、それを使えば水内さんの子を作れるってコト?」
その言葉に、一瞬にして室内がざわつく。
イヤイヤ。
「残念ながら、そのような事故は起こらぬ配慮をしております」
当然といえば当然。というか、残念て何だ。
「ところが、私とした事が一つ重大な失敗をしてしまいました」
ム……? 何。
「なんと本日この場に石を運ぶ道中、うっかりと洋治細胞が強く反映した原物をただの石に混ぜてしまったのです」
な。……洋治細胞? ではなくて。
「と言う訳で、今日お渡しする石の一つには洋治さまの子を宿す可能性がございます」
待て待て待て。
「マジ? じゃ、わたし真ん中を貰うわ」
ちょっ鈴木さんッ? ――待っ。
「お待ちください!」
叫ぶ様に、子を抱いた彼女の声が室内に響き渡る。
次いでその声量に驚いたのか、ぐずりだす赤ん坊。
「ぇ、ぁ。お――よしよし、私は怒ってません、泣かないですよー」
……。
――そして程よく泣き止む赤子を確認してから。
「べつにいいでしょ。アンタは一つ当たったんだから、次はわたし達にもさせなさいよ」
そんなガラガラ抽選みたいに。
「で、ですがっ、本人の意思を無視して、その様なっ」
言うまでもなく、本当なら阻止します。
「ま、当たるも八卦よ。あとで使い方、聞きに来るわね」
いや、内容的に一人は確実に当たるから困る。
そして本人達の気持ちは否応なしに、机の前へ向かった少女がひょいと横並ぶ中央の石を手に取る。
ぇ、まじで……?
「では――ジブンは左ので、いいですか?」
ホリーさんまでっ。
結果自分の居る窓際側の机へ再び近づこうとする対象に、向かおうとした彼女が赤黒いボサっと頭が特徴の妹に立ち塞がられる。
……妹さん?
「エリアル……? 何を」
するといつの間にか既に確保されていた石を姉に見せて。
「愛するは平等」
と告げる。その後ろを石を持った他の二人が悠然と通り、部屋を出て行く。
あ。となる、も再び扉は何の妨害なく開かれ、戸を開けた赤い少女が徐に退室する。
え……あれ?
何故という気持ちで。
「止めなくて良かったんですか……?」
何もせずに見送った姉を見、問う。
勿論、状況的に協力して、行くつもりではあるが。
そんな自分の問い掛けに目が覚めたかの様な反応を見せる。と。
「――申し訳ありません。少しの間、この子を見てもらえますか」
「ぇ? あ、はい。もちろん」
速やかに抱いている赤ん坊を受け取る。
「直ぐ、全てを回収し戻ります。どうかその一時、二人で安全な場所に身を潜めて」
すみません、これから何が起きるのでしょうか。
部屋の扉が閉まる。
行ってしまった……。
けれど何か特別な事が起こるとも思えない。ので。
抱いている赤ん坊以外で残された、もう一人の存在に顔を向ける。
というのも、なんとなく、気になったからだ。
「何か、隠してませんか?」
正直単純に引っ掛ける程度のつもりだったのだが、思いの外、相手の動揺を引き出せた収穫に。
ひょっとして、される側に耐性がない……?
「おや、もうこんな時間帯になってしまいましたか。なれば――そそくさ、そそくさ」
それを口にするよりも行動を急くほうがいいと思うが。
そうして逃す、というよりは泳がす、気持ちで出ていく姿を見送る。
――ふム。
さて、と。
今日も今日とて日常を楽しむ。とするか。
出て行った皆の後を追いに、部屋の扉へと向かう。
ふと、手を引かれたあの日の扉を思い出す。
あれから本当に、いろんな事があった。――おそらくは、これからも。
だから自分は思うのだ。いつだって、この瞬間に願う。
開く扉が、波乱の幕開けになりませんように。と――。




