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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第147話〔ジャグネスさっ〕⑧

 


 *



 ――何かしなくとも、周りが勝手に動き始める。




 そんな生活だっただろうか? 自分は。


 生まれた時から何も無く、欲する事も求める事も知らなかった。


 ただ与えられた事柄に触れ、自主的になれば放置する。


 いつしか周囲の、自分に対する興味が薄れていくのを察し、安心し。


 一つの疑問を抱く。


 独りで在る事が自分なのだと思うのは、結論として単独で在る事を望むから。


 だとすれば何故、そこまで拘るのか。


 もしかすると自分はヒトリになろうとする余り、何かが己を満たすのが不安(コワい)と。


 なら、もう――そんな行為(コト)に、皆を付き合わせる訳にはいかない。






 見たところ落下速度を緩めているのは少女が前面に作り出す膜のようなモノ。


 しかし軽減されているとはいえ、膜の表面を抜けてくる気体の勢いは尚も強め。


 前の二人が、どう思っているのかは分からないが――自分としては、かなり厳しい。


 うーん……。――このままだと、ちょっと。


 というか無理。死ねる気しかしない。


「洋治さま、少々よろしいでしょうか?」


 ム。


 膜の作用(おかげ)か難無く聞き取る。


「はい? 何ですか」


 また考えを読まれたのか。しかし今回は顔を向き合わせてはいなかったのに。と共に落ちながらの状態でこちらを見る相手に応答する。


「私の判断によりますと、このままでは着地の衝撃に洋治さまは堪え兼ねるかと。いえ、ハッキリと申しまして、大凡(おおよそ)助かる見込みがございません」


 ですよね。


「……まぁ、ここまで来れただけでも奇跡なんで。最悪それでも」


「いいえ必ずや救命いたします」


 ――ム。


「何故……そこまでして」


「それが乙女と()(モノ)です」


 また何とも反応がし辛い。――ので。


 下手に触れず、精悍(せいかん)な表情をしている事をやんわりと流し。


「何か、策でもあるんですか……?」


「はい確かな。ゆえに、直ぐにでも背中をお向けください」


「……背中? どうして」


「訳を話す暇など微塵もございません。ささ、早く――よいではないか」


「ぇ? いやっちょっと」


 あーれーって、なんか違う!






「で、その……」


 これは一体どういう状況、というか体勢。


「ご深慮なく、何もかも的確な行動です」


 至極落ち着いた声で地上の方、背中側に居る元預言者が耳障りの良い膜の内で言う。


 しかしだ。


「一応……説明はしてもらえますか?」


 まるで上向きの凧の様に、二人に体を持たれ落下の速度に反る背筋が痛くない限度のまま、何かが変わる気配すらないが落ち続ける。


「はい、解説(それ)こそ言わずと知れた私の使命でしょう」


 そうだったのか……?



 ***



「ちょっとサバ読み、アンタもう少し下がりなさいよ。わたしに負担がくるでしょ」


 広げた衣の対角を手で持って担う相手に、長い黒髪を一時的纏めた少女が手元の僅かな布の(たる)みを見て言い放つ。


「……ワタシには大して余力が」


「なに弱気なコト言ってんのよ。わたしなんか触ってる程度の助力なんだから、シッカリしなさいよね」


 事実、皆との身長差は現状で埋めようがない。


 それを容易に見て取れるからこそ――。


「――……そうしたら何故、こんな施策を」


 正直に言えば無謀な失策ではないかとユーリアは思っている。


「じゃ、なに。アンタは他のイイ案が思いついてるって言うの?」


「それは……」


 咄嗟の考えを巡らす。がしかし――待たない。


「人様が()ろうとしてるコトに、ただ文句だけ言うのは老けた証拠よ。迷惑だから、こっちに垂らさないでくれる?」


「なっ……」


 思わぬ精神的痛打に言葉が出てこないユーリアの口がパクパクと動く。


 そしてお構いなく、少女の眼が他の角を持つ二人へと向けられる。


「アンタ達も、わたしを度外視でガンバんなさいよ」


 次いで意図せず見た角度的に注意の目線が寄った方、ヘレンが即反応する。


「ハ、ハイっ」


 途端に他三つの角に居る皆の手から地上より浮かし持つ王の外套がずれ動く。


「ちょっと、張り切り過ぎよ。ちゃんと均衡は保ちなさい、他が迷惑するでしょ」


「ぁ。ハイっ、……ゴメンなさい」


「ん。――アンタも、頼んだわよ」


 最後、手には同様に衣を持っているが一言も発さず空を仰ぎ見続けている銀髪褐色肌の相手に顔を向けて告げる。と――。


「待って」


 ――声色から、その真剣さが伝わる。


 そして僅かな間、場が静まったのち。


「来た――もっと南、急いで」


 微塵も遊びはない本気の口調と内容で即刻、全員の足が動き出す。


 傍ら、他に合わせて進む少女は“南って、どっちだっけ”と思った。



 *



 落下が始まってから、どれくらい経っただろうか。


 普通なら()うに終わっているはず。が、まだ自分達は地上に着かない。


 大きな犠牲を伴い、尚も彼女達は奮闘する。


 誰の為、自身の――なら良い。


 しかし確かめようがない。


 おそらくは聞いても、本心に辿り着く事は永劫ないと言える。


 だから、そんな事情(モノ)は無いのと同じだ。


 なら見えているモノ。


 自分は、それだけを信じる。






 赤い少女が作る膜の様な透明の仕切りが落下速度を軽減する。


 しかしそれだけでは確実性が低いと判断されての新たな態勢。


 自分は空を見る仰向きに寝かされ、下の二人はそれを抑止する形での降下となる。


 無論、状況は継続している。


 そして――。


「瞬間を合わせ、洋治さまを打ち上げます」


 ――顔は見えていないが、背面の事情を聞く。


「打ち上げる? どういうコトですか……」


「そうするコトで最終的な衝撃の大半を一度、断ち切ります」


 ……なるほど。


「我々とは違い、何ら補強の出来ない洋治さまの生身が生き残るには目下最善かと」


 それでも――全く無傷にはいかないと思う。が悪くない賭けだとも――、けれど。


「二人は? フェッタ様と妹さんは?」


 自分が上へ向かうというコトは、その反面は下に反動がいくというコト。


 それを聞くまでは承諾など出来ない。


 けれども返答が直ぐにない。


 なんとなくだが結果(した)を確認している感じが背中越しに伝わってくる。


 と返事を待っていた相手とは違う方の指がぎゅっと動く。


「……また、ね」


 ああ、やっぱりか。


 次いで薄れた期待が背に顔と思う――を押し当てる。


「もしもまた、お会いすること(かな)いましたら、これからは私も皆と同じ(てつ)を踏みたく存じます……」


 で――。


「待っ」


 途端に身体が勢いよく反り、上昇(アガ)る。


 ――こうなるコトも、直ぐに分かった。






 曲がる事の痛みは際どいものの、なんとか耐えた。


 しかしだ。


 ええと……。


 思いの外、上がっていた時間が長い。


 そして身体に重みが掛かり始める。


 これ、……イケる?

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