第140話〔ジャグネスさっ〕①
衝撃のラストを言い放った様な顔で口を閉ざし、平然と歩き続ける相手に。
「……まさか今ので?」
「はい、終いです」
そんなアホな、と。
「省略し過ぎでは……」
「左様でしょうか?」
さようでございます。
まぁ、是非にと自ら望んで聞いていた訳ではないが。
「……さすがに」
途端しばらく振りに感じるほど大人しくしていた少女が横から顔を出す。
「もういいんじゃない? 十分に頑張ったでしょ。これ以上は、酷よ」
というか、鈴木さんが飽きたんじゃ。
「過去は前、現在はその後よ。済んだコトを気にしてないで今に生きましょ」
相も変わらず男らしいというか、気性の溢れている。
「……――まぁ本人が、それでいいのなら」
と見る、話し相手を戻す。
「私は特に。ですがこれよりも先、もっと深く知りたいとあらば時を改めて」
日ではなく時間なんですね。
「そんなのに付き合う必要ないわよ」
ム。と、見えない分、余計に動き反対を見る。
「わたしだってね、水内さんにもっと自分のコトをさらけ出して楽になりたいわよ。で、アンタ今回はちょっと取り過ぎよ」
また何の話を……?
「おや――これまでの取り分を徴収しているに過ぎませんが?」
「そんなの、アンタが勝手に決めたコトでしょ。関係ないわよ、自重しなさい」
本当一体なにの話だ。と、自分を間に若干いがみ合った態度で接する二人を交互に見る。
「如何に救世主と言えど、他人の恋心にまで踏み込むのは無粋な事かと」
「なにが救世主よ。わたしも含め、端っからアンタにとっては手駒扱いだったんでしょ」
「おや、さすがは救世主様。既にお気付きでしたか」
「アンタねッ!」
ムム……。
――にしても、二人って前からこんな感じだったっけ?
傍で見てる分に揉めていると言うよりは、変に楽しげだ。
で少し前から、近いような遠いような、なんとも言えない。けれど確かに聞こえてくる地を割ったみたいな音は――、……何だ?
***
覚悟を決め。けれども、いつ如何なる時も逃げれる心持ちにて転移空間のそばで膝を揃え居座っていた。
幸い大きな破片が飛んでくることもなく、間近で人生最大のスペクタクルを拝む事が出来た――と思った矢先。
「あら? ……いつから居たの?」
目が合った。何故今頃になってと思う気持ちで、無意識に相手から視線を逸らす。
「ね? 聞こえてるでしょ」
一瞬にしてありえない距離から発せられる声、に。
「どわッ!」
咄嗟の器用で膝を畳んでいた姿勢から後ろに跳び退き、立ち上がる。
次いで後ろ側の足が空を踏み。
「わっ、わわわわっわ!」
危うく縁から落ちそうになるも何とか持ち堪え、前へと体を立て直す。
そして不思議そうな眼をしていた相手と再び合い。
今度は上体の位置だけで間を調整し、自身の場を落ち着かせる。
すると何もせずに様子を見ていただけの相手が口を開き。
「ひょっとして……アナタも、騎士なの……?」
戦いの場としては悪くないものの、多少配慮をしなければならない程度には手狭である。
そんな限られた空間に居て、途中気付けなかった。
外見は――王国の騎士の様だが見るからに頼りない。
確認で問い掛けてもみたが返事はない。
ただ無視をされているというよりかは完全に怯えた様子。
不意に、自身以外の記憶が僅かに想起する。
それで偶発的に相手が無害である事を知れた。――が。
単独では関係ないものと気に留めず。逆に、騎士である事を知ってしまったもので気に障る。
「どうして、戦わなかったの? ――覚悟はして来たのでしょ?」
途端、瞳に新たな怯えが映る。
……この子、本当に騎士なの?
もし正式なら随分と不甲斐ない集団になったものだ。
しかし延いては娘の、もっと辿れば――。
「――……いいわ。特別試験よ。私が一撃を放ってから、生きていたら合格にしてあげる。駄目だった時は、私と一緒に来なさい」
真剣な表情で言われた言葉を受け、正常と混乱が入り乱れていた感情が停止する。
次いで再起動したのち――。
「――どど、どうしてっそうなってしまうのですかっッ?」
直ぐ様ぱっと相手の表情が広がる。
「ぁ、ちゃんと口はあったのね」
はっと開けた口に両の手を持っていく。
そのまま相手を見続けるホリは、覚えている限りの情報を整える。
今、目の前に居るのは知っている方ではあるが、本当ではない。
そこのところは分かっている。他は薄ぼんやりと。
そもそも何故こんな危険な場所に居たのかがハッキリと思い出せない。
ジブンは何をしに、ここに……?
なによりも存在が蔑ろなまま、終わりそうな雰囲気だった。――のに。
どうして今さらになって――。
「アナタも騎士なら、強くなりたいでしょ?」
「――ジブンは関係ありません!」
えっ。と驚く、無意識に声を上げてしまったジブンをも含み。
「……ならどうして騎士になったの?」
ぇ、騎士に……?
そういえば何故、ワタシは騎士になったのだろう。
――養父母に迷惑を掛けないため?
だったらもう騎士でなくとも。
――強くなりたいから?
それは無い、絶対。
――うーん。
ジブンは今まで何の為に生きてきたのだろう。――生かされた?
いっそ死んで蘇生しなくとも、誰も悲しまないのではないか。
両親は――さすがに悲しむ。
友達――……救世、居ない気もする。
同僚……。
あれ、ワタシってもしかすると居ても居なくとも……?
――なーんだ。
何にも考えず生きてきたけれど。自分の価値なんて、そんな内容か。
それならば潔く、死んで帰らぬヒトとなろう。
あぁ、二十三か――短く感じる生だった。
実際累計での蘇生期間は長い。
そして親と生き別れてから記憶に薄ら残る誰かを探して歩き続け、愛されても嫌われるのがイヤで遠ざかった。
思い返すとジブンは一体ナニをしていたのだろうと。
あれ? もしかするとこれは死ぬ間際に過去、何度か見たコトのある例の……?
だとしたらこれまで以上に長い。
記憶が続く範囲内を凄まじい速さで、意識が駆け抜ける。
ほらもう最近の出来事までが思い出され――。
あっ、と。
――心の中で、肩に手が置かれた。
戸惑いを感じながらも手っ取り早く、斬ることにした。
騎士になった理由を尋ねただけでブツブツと呟き始め、挙げ句にはまだ何もしていないのに棒立ちのまま死を悟った様子。
正直に忍びない。
見ているだけで可哀想とすら思えてくる。
もしも与えた恐怖の余りそうなってしまったとしたら、責任を取ってから帰ろう。と、女騎士は持っていた剣を渋々掲げる。
途端ぼやけて見えていたホリの瞳にハッキリとした意識が灯り。
「――ワタシは決めました!」
さすがにやや吃驚する。
「……どうしたの?」
すると自身の顔の前で拳を掲げ――。
「――ワタシは女としてっ騎士に殉じますッ!」
叫ぶ程の声が遠くへ、観客席などない遥か上空の地で響き渡る。
「そ、そう……。で、どうするの?」
今にも振り下ろしたい気持ちをギリギリで抑え、問う。
「まずはソチラの一撃を受けて生き残ります!」
「分かったわ。いい覚悟ね、じゃあ」
「お待ってくださいッ!」
下りる直前の刃を防ぐ様に、ビシッと手の平が前に出される。
「おま……、――何かしら?」
「近すぎますッ。遠くからでないと死んでしまいますっ、もっと離れてください!」
「……そう」
次いで前に振り切りたい感情を一心に抑制した女騎士が横の地表を薙ぎ払う勢いで腕を振り下ろす。
「どわああ」




