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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第138話〔其処を暈かしたら駄目でしょ〕⑫

 


 ***



 度重なる戦闘行為でボロけた赤い外套を羽織る少女の剣を持った両手が振り下ろされる。


 その刃の切っ先が、足場となる騎士総の下で新たな歴史と強度を保持する蓋に押さえられる女騎士の頭部を目掛けて。


「残念、時間切れね」


 途端重しとなっていた騎士から重みが消えていく。


「二人共合格よ」


 一言告げ、押し返す斬撃の力で(ヘコ)んだ地表の外へと二人を弾き飛ばす。






 凄まじい音を伴った割に決着は呆気ない。


 宙に投げられた二人の体は別々の地に落ち、(しば)し勢いのまま転がってから、静止する。


 そして動く力を失った事でだれる四肢を無造作に置く二人の視界に、穿たれた穴の中から軽やかな足取りで登ってくる姿が映る。


 疲労の所為か、ぼやける二人が見たその姿は――心に留まる本人が、重なって見えた。






 姿が見えた時点で既に戦闘中使用していた剣は手に持っておらず、変わりに知らぬ間に少女から奪い取った剣と舞台を上から打ち砕いた剣を両手に携えた女騎士が倒れる騎士総のそばで足を止める。


 と次いで片膝をつき。


「強くなったわね」


 片方の、拾った剣を置く。


 そして腰を上げ、離れていく。――姿を、伏したまま再び与えられた柄を掴み、ぼんやりとユーリアは見つめた。






 命に関わるほどではないものの、(はなは)だしい体内魔力の消費で息絶え絶えとした少女。


 足を運んだ傍らで、直ぐには声も掛けずにその様子を見ていた女騎士が手に持つ剣を改めて眺め、口を開く。


「これ、(あたし)が使ってた予備(モノ)ね?」


 内容としてはメェイデン王国の騎士であれば誰もが持つ、変哲もない配給の品。


 生前に長らく使っていた物を愛弟子に与えた際、投てき用と位置付けて勝手に城から持ち出し収納して持ち歩いていた。


 普通(タダ)(モノ)


 最終的に一度も使用される事はなかった。


 それを知っていたのかは分からない。――が。


「最後にこんな物を持ち出すなんて、正直驚いたわ。けど、発想力を形にする為の体力はもう少し鍛えなさいね。だから……――惜しかったわ、でも上出来。で今後はこんな物を拠り所にしないですむように、処分しておくわね。良い物を買うか、自分で作りなさい」


 そう告げて下ろす刃の根元に女騎士の指が押さえる様に宛がわれる。


 次いで刃に力が加えられた瞬間――。


「あら? ……いつから居たの?」


 ――此度はじめて二人は出くわす。



 *



 また変な声を出し掛けた。


 しかし、さすがに慣れてきたのか内面は至って冷静に。


「……俺は物ではないですよ?」


「無論です。確かな人権的思想で捉えております」


 ですよねー。


「その上で、私に所有される気はあるのか、と問うているのです」


 ム。


「……どういう意味ですか?」


「調べるほどの内容は言葉に秘めておりません。端的に私の夫となれば、この身も心も全て洋治さまが望むまま、好きに扱って構わないと申しているのです」


 歩みを止めず器用にそして(なま)めかしい声と瞳で自身を強調し、白く細い指がローブの上から胸の膨らみをなぞる。


 ムム……。


 ――従ってここは正直に。


「……折角ですが、お断りします」


「でしょうね、そう申されると確信しておりました」


 なんかスミマセン。――というか、だったら。


「それなら何で聞くんですか……?」


「最後の悪あがきとして」


 一体なにの最後だ。


 すると途端に真面目な顔をする。


 ほんと、女性とは(おそ)ろしい。


「話を急に戻します。私は、いずれ預言者の(わずら)わしい運命だけを脱却した自由を目論見、賢者を装いながら機会を窺っておりました」


 実に唐突だな。


「そして見出したのです。自由の鍵となる存在、主が欲しがる交渉の材料を」


 と、相手が核心を突く勢いで自分を見――。


「――洋治さま、貴方です」


 え?


 思わず自分の顔を指す。


「はい。貴方は女神が必要とする愛した(モノ)の殻、それを捧げた褒賞に私は自由を謳歌する予定だったのです」


 へぇー、何の事かサッパリだ。――ただ。


「その殻と言うのは?」


 さっきまで居た部屋で聞かされ、内心は納得しているものの詳しい事は分かっていない。


「二百年ほど前の出来事で分離した魂の外殻、人の魂が入る容器の様な内容と捉えていただければよいかと」


 なるほど。で。


「それが自分と?」


「はい。本来は一つとして数える性質を逸脱した存在です」


「……どうしてまた、そんな事に。よくあるコトなんですか?」


「いいえ、前代未聞(ぜんだいみもん)の特質な現象です。他に類はありません」


 そのわりには何の得も無さそうだな。むしろマイナス……?


「有益などありはしません。通常であれば存在するどころか、中身共々消滅し無に()すのが正しい在り方なのですから」


 バレた。――ではなく。


「なら……何故に?」


「全ては二百年程前、救世主に付いて来た一人の男に女神が恋をした過去が現在まで続く事の発端となっているのです」


 しかも、その生まれ変わりが自分――らしい。






 ――要するに、二百年前の救世主が連れて来た男に惚れた女神は相手の気持ちお構いなしに我が物と奔走し挙げ句は恋人の危機を悟った当時の救世主が元の世界へ逃げようとした。


 という感じで、いいのだろうか……? 所謂(いわゆる)、読者目線と呼ばれる訓戒だと。


「そして、裏切りを知った主は二人が異世界へと逃げ果せる直前に処分を下したのです」


「処分……?」


 まさかとは思うが。


「幸い死を以て償う事にはなりませんでした、が結果は命を失うよりも悲惨です。更に逃亡し掛けた際、誤って男の魂が殻と分離し行方不明になった事で現在まで続く問題と化したのです」


 なるほど……。


「で何故、分離した魂は無事だったんですか?」


 本当に無事な状態なのかは、自分にも分からないけれど言う。


「分かり易い表現として殻と申しました。しかし厳密には同一の(モノ)で、比重を置く片割れが存在し続ける限り直ぐに消える事はありません」


「なら、いずれは消えるんですか?」


「正しい筋道ではそうなります」


 つまり条理に反して消えないと。


「しかしながら主は、自らの恋心に幕を閉じる事が出来ず。再会を夢見て、間に合わせの処置を施しました」


「……それは?」


 すると言葉を呑む様に、相手が間を空ける。――そして。


「罰と称し、逃亡を図った当時の救世主――その魂に接合していた小さな魂を奪い取り、中身を出してから消滅を阻止する避難先としたのです」


 小さな魂って。


「はい。当時の救世主は初期の段階ではありましたが、子を身ごもっていたのです」


「……――その、出された方は……?」


「必然的に消えます。敢えて申すなら、初期である以上は確実な生命(モノ)ではまだなかったと言うコトです」


 だとしても。


「……その後は、どうなったんですか?」


「救世主は新しい特別な器を与えられ、宿した子も切り離すことができぬまま、現在までを生き続けております」


「切り離す……?」


「端的に申せば、特殊な出産の後――親は子と子は親と顔を合わせる事が叶わぬ二魂一対の器で主の赦しを待つ身となったのです。ゆえに、身体の成長も著しく緩やかなモノに変えられて、今も処罰されております」


 何と言うか、もう――不規則(チグハグ)過ぎて、訳が分からない。――ただ。


「……いつかは会えるんですか?」


「此度が其の。ですが洋治さまの在り方が全てを台無しにしてしまいました」


 え。

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