第119話〔永久就職とはよい言葉です〕③
*※*
どうも、皆さんご存知のホリーこと元ダメ騎士です。
――と言うのも最近はダメな方でのお呼びがないからです。
そろそろ汚名も――返上でしょうか?
あ。――イキナリなのですが、皆さんは驚いたコトってありますか?
実はワタシ、あるんですよ。
あの時は途方もなくビックリしました。
今思い返してもヘソから心臓が飛び出すのではないかと思うほどです。
と言っても本当に心臓が飛び出していたのはジブンではなくてですね、――ぇ? あ。
ハイ、分かりました。――ええっと、とにかく皆さん、引き続き頑張って参りましょー。
*
なんだろう。
そこそこ離れた映像越しではあるものの、何かブツブツと言ってる様に見える。
無論、確認する事も出来ないので何かしようとは思わないが。
まぁ無事であることが分かっているだけで十分に気は楽。
なので――。
「甘っちょろい打ち込みじゃのぉ。なんだアレは?」
いや、聞かれても。
――と、飛んで行った少女と入れ替わりに現れ、その後デカい図体を堂々と広げて左側の席を占拠している巨漢を見る。
で。
「ええと。どうしてここに……?」
「ん。――何がだ?」
振り返る顔、同時に大きく揺れ動くマント。
一般的な体格と比較して常識を遥かに凌ぐその身体は何かと大層な結果を招く。
「いや、だって……王様ですよね?」
「うむ。お義父様と呼べ」
そこは今どうでもいいのだが。――まぁしかし。
「……お義父さんは、何故ここに?」
「うむ。寝ておったら急に外が騒がしくなったのでな、ちょいと足を運んでみた」
「ね、寝て……?」
「うむ、昼寝だな」
まだ午前中ですが。
すると大男の大きな顔が周囲に向けられる。
「で、なんだ? この騒ぎは」
へ。
「……知らないんですか? 今日の事」
聞いてはみたが、さすがにそれは。
「何がだ? ワシは何も聞いておらんぞ」
うそん。
「まあ己で言うのもなんだがの。ワシは名ばかりの王だからな」
「……そうなんですか?」
確かに普段なにをしてるとか全く知らないし耳にもしないが。
けれど一応は国を治めてる王の立場な訳だし。
「――其方は必要だと思うか?」
「お義父さんがですか?」
「いやワシは居っていいだろ。そういう事ではなく、王という民を導く主権者だ」
ああ、そういうコトか。
「それは居るんじゃないですか。居ないと――」
――……困る?
まてよ。そもそも王様って、何をする為に。
「困らんだろ、誰も」
ム。
「……誰もって、訳ではないと思いますよ。実際に王様という立場がある訳ですし、何かしらやれる事はあるんじゃないですか?」
勿論結びは、知らないけど。
「だとしてもだ。ワシには分からん。何せ戦闘一筋、腕っぷしだけで生涯を楽しむ事に勤しんだからの。民の平和、国を統治する術など知らんし興味も持っとらん」
うおい。
「――だがの、娘達が喜んでおる姿は別だ」
ム……。
そしてぎょろりと、到底自身の娘を想っている様には見えない、大男の眼が自分に向く。
と次の瞬間、威圧する態度諸共ガックシと頭が分厚い胸の前に落ち。
「だと言うのにだ……、ちびっとも彼奴等はワシに懐かん。なんでだ?」
父親ってそういうモノですよ、お義父さん。
そしてなんだかんだと愚痴は続き、三度高くて手が届かない義父の肩と頭が漏らす溜め息と共に項垂れる。
……なんというか。
随分と溜まってたんだな。と思う、矢先に死角側で人の気配がし――。
「相も変わらず、主は図体に似合わぬ繊細よの」
――見ると居た事すら忘れていたご年配がヨッコイショと自らが作り出した席に腰を下
ろす。
結果登場した短躯で痩せ細った相手を、本人との差からすれば余りにも真逆の存在を軽く間に居る自分を越えて大男が見下ろす。
「誰だ? この薄汚い爺は」
「ほッ、オマっ」
いや決して汚くはないだろ。
「がっはっは、軽い冗談ではないか」
体躯に似合った声量で笑いながら自分を越えていく大きな手が老いた肩を慣れた感じで叩き言う。
そして叩かれた衝撃でか、見ている側が不安になるほど咳き込む高齢者。
「ゲホコホゲっホゴホガボッ」
……大丈夫?
ただ心配する半面、気になる事があった。――ので。
「ええと、二人は知り合いだったんですか……?」
歳は自分ほど離れてはいないが、周りに与える印象は完全相反する二人の間で双方の様子を窺いつつ疑問を発する。
「知り合いもなにも、王が民の顔を覚えて不思議はあるまい」
さっきは興味ないって言ってましたが。
すると順々むせた気管を落ち着かせたご老人が座ったまま、いつの間にか手に持っていた杖らしき細い棒を足元の地面に突き立て息苦しそうな体を支えて、自分の頭部より上にある大男の顔を見上げる。
「――筋肉馬鹿、ゲホ、の主が――随分とカホっ、――偉くなった、もんじゃゴハッ」
そんな無理に喋らなくても……。
「ふん。其方とて――、――そう言えばお方は息災か?」
「コホ。――主に心配される程ではないわい」
お、持ち直した。
「フム、そいつはよかった。時々エリアルが会っとるとは聞いておったがな」
「――父親に似ず、優しい子達じゃわい」
「なんだ。褒めても酒一滴、奢らんぞ」
「仮に出されても主からの施しなど受けんわっ」
なんだろう。――聞いてる感じ、仲は悪そ。
「なにを言う、先週飲みに行ったばかりではないか。よもや酔って忘れたのか? 其方がいい歳して若い女子にその立派な白髭をクルクル巻かせておった事を」
でもないか。
「ほッ。ヌ、主とてっ若い者に甘えた声で縋っておったではないか、みっともなくのっ」
「ダ、誰がだッ!」
「主じゃ!」
あーはい、もっと周りの目も気にして話しましょう。
その後、特に注意はせず。さり気なく席を移動して見上げた上空の小さな映像に外套を羽織った赤い少女と白いローブを着た小柄な女性、先刻各方面にある予選会場へと向かった二人の姿を見付ける。――が。
……消えた。
枠内に映っていた黒い石に殆ど同時、触れた二人が一瞬にして、その場で姿を消す。
次いで疑問は生じず、に残された一枠を見て思い返す。
あそこは確か……。
それが意図してなのか、それとも偶然か。けど偶さかとは考えづらい、がしかし計画性となると更に考え難い。
どのみち、対応する人数と対象の数が合わない以上は必ずそうなる結論だ。
うーん……。
余計な事をしてはイケないのは過去の体験から、身に染みて、分かってはいる。
――それでも。
「いい加減、飽きてきたのう」
ムと振り返る。其処に、知らぬ間に立っていた大男とご老人。が上を見ながら――。
「先に忠告しておくがの。若い者に交ざるものではないぞ」
「何故だ?」
「代を超えて節を害してはならん」
「なんでだ?」
「アカンもんはアカンのじゃってッ」
大導師様、語彙力ないなぁ……。




