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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第117話〔永久就職とはよい言葉です〕①

 突如摩訶不思議空間を背に本人の尊厳を顧慮(こりょ)しない見た目上司と話す騎士の肩に、多数の色が織り成す歪みの中から現れた手が――置かれる。


 次いで、驚き退いた騎士と入れ替わり場に現れたのは――。


 タルナートさん……。


 ――自分が最もよく見る、ゆるふわパーマではなく、今回の女神杯が始まった当初からちゃんとした甲冑を着るメェイデン王国に所属する騎士の長。


 それは文字通り、この国の騎士を総じて最も偉い立場であり本来であれば、こんな催しに出場しているほうがオカシイとは思うのだが。


『よう戻った、タルちゃん』


『……前置き不要』


 どうやら怒りは開始当時のまま、寧ろ心頭すらしている様だ。


 それを理解したのか、若干茶化す雰囲気だった進行役が後退りで距離を取り始める。


『まあ落ち着くのじゃ。怒って何を成せる、怒りは敵ぞよ』


『敵は、貴女(オマエ)だ』


 瞳が朱く見えるほどの怒気と共に光る籠手から現れる通常よりもやや刀身の広い剣が紫がかった黒い髪を後ろになで上げる騎士の手に握られる。


 え。え?


『必――殺』


 ちょっ。






 急遽、始まった剣劇。


 ただ一方にとっては本気で仕留める行為が、幕を開けた。


 遠く離れた大地の上、送られてくる映像越しに伝わる激しい剣と剣のブツかり合う音と響き。が絶妙なカメラワークによって観戦する側の注目を、本来の主旨を忘れさせるほど夢中にさせる。


 いつしか画面内に映る外枠のない広く丸い地面はその殆どが二人の遣り合いでボコボコと大小の穴が空き、確実に面積が減り始めていた。


 ええと……。


 ふと、あることを思い出す。


 ……ホリーさんは、どこだ?



 ***



 観る者の心に昨年の闘技大会を思い起こさせるほどの激闘が繰り広げられる直径にして五十メートル以上はあるせり上がった大地の中央付近で、ユーリアが振るう一撃が地面に人一人が軽く収まる()り鉢状の穴を作り出す。


 結果、重圧な一撃に巻き込まれまいと跳び退いたアリエルの体は通常よりも相手との距離を置く位置に着地した。


「フぅ。――凄まじい一撃じゃの」


 今のに限らず。周辺に空いた穴の数々を(かんが)み、優秀な騎士の身体を使う神は自身に怒りの矛先を向ける相手の力量を称賛する気持ちで告げる。


 それが、更なる燃焼である事を理解した上で。


「褒賞など端から度外視。その高慢(こうまん)ちきな人格を叩き伏せれるのならば、バイトを休んだ甲斐はあるというもの……。――覚悟」


「人格じゃと? 神に、そのような矮小(わいしょう)の規格は存在せぬぞよ」


 次いでユーリアの指が構え直す剣の柄を強く握り締め、確信と共に口が開かれる。


「バイトリーダーであるワタシの神は、お客様だけだ」



 *



 周囲の声援や激しい現場の状況から二人の会話は殆ど聞き取れなかった。


 結果再開した戦闘行為に一層観戦する側、周りの声が高まる。


 というか、一体なにを応援しているんだ……。


 どう考えても予定外、急遽始まった余興をすんなり受け入れる対応はさすが異世界に住む人々だと、自分を(かえり)みる。


 ――しかしだ。と隣、左側に居る預言者を見る。


「いいんですか……これ」


「おや、何か不満でも?」


「いえ……不満とかはないんですけど。予定していた事と違うのでは?」


「突発的な出来事も含め、国民的行事とは楽しむものと私は思っております」


 そういうモノ、なのか……?


 すると、しかしながら。と、上を見ていた顔がこちらに向けられる。


「余りにも長引くようであれば気掛かりなコトがございます」


 ム――。


「――何ですか?」


「あちらの、映像をご覧ください」


 すっと上がる預言者のか細い指先が、上空にある――小さい枠内を示す。


 其処には、少し離れた会場の石台で浮かぶ黒い玉を開始から変わらず映す像が。


 ちなみに数分前に気付いた事だが、五つある小さな枠の内二つは最初と異なる所を映していて、具体的には各選手の状況――現在に焦点を当てた映像が流れている。


 なので今現在も激しく切り合っている選手を映す枠の隣では交戦の被害を避け先刻出てきた空間の歪みに程近い隅っこで遣る気は全く感じられない騎士がぽつんと体育座りをしているのが視認できている。


 まぁ自分としては心配が減り、精神面も楽にはなるのだが。


 現在、預言者が指しているのは映る内容的に変化のない方なので――。


「――……何か、変わったところが?」


「いいえ。何一つ変わりはございません」


 ム。


「なら……?」


「洋治さまは、憂慮(ゆうりょ)いたしませんか?」


 憂慮――。


「――何について、ですか?」


「中の様子、取り込まれた者達の状況です」


 取り込まれ……。


「……どういうコトですか」


 そもそも中というか、鈴木さん達は今どうなっているんだ。


「女神の言葉を鵜呑みにするのであれば、長く状況を体感するのは(のち)に差し支える所存とのコト。ゆえに選手の身を案ずれば悠長な観戦は如何なものかと存じます」


 ム……確かに。ただ、まだそんなに時間は――。


 はっと冒頭で語られた言葉を思い出す。


「――けど、何かできますか……? 寧ろ下手なことをして、怒られると言うか……余計な事になるのでは?」


「通常であれば妨害なども想定しなければなりません。が今であれば、術者の意識は別のところにございます」


 なるほど。


「あくまでも目的は人命。無事を確認、その保証さえできれば後の展開に何ら支障はないでしょう」


 うん、それなら。


「我々で行ってきます」


 ――ム。


「……我々?」


 そう問い返す自分を越えた後ろ、席でいうと右隣を預言者の瞳が示す。


「問題はありませんね、エリアル」


「……――アタシは行かない」


「おや。なに故?」


「ヨウの、近くに居る」


 ム。


「それはまた……。――不要な事です」


「……――なんで?」


 すると今度は自身の方、左側に座る少女を見る。


「洋治さまの安全はマルセラ様に委ねます」


 そして、私? といった表情をする相手を無視するが如く速さで顔を戻し――。


「――洋治さまの性格を思い遣れば、危惧する事柄を優先し排除すべきと理解しておりますね?」


 次いで気になって回した視界で小さな頷きが返される。


 なんだろう。――自分って、厄介者なんだろうか……。


「このまま放置すれば事はいずれ大きく、更なる危険をも招き兼ねません。その前に側近である我々が対処し、収めれば(あるじ)である洋治さまの安全は確実となるのです」


 いや、誰が主――。


「――まっ、待ってください」


 即座に、そして、おやと口を閉じ自分の方を向く相手の真面目な顔を見返して。


「急にどうしたんですか……?」


「何がでしょう?」


「いや……、オカシクないですか?」


 いくら何でも急過ぎる。


「そうでしょうか。逆にお聞きします、洋治さまはこの後、どうするおつもりだったのでしょうか?」


 ム。


「どう、と聞かれても……――まだ、何も思ってませんでしたよ」


 というか進行についていくのがやっとで。


「……――さすれば、現時点で、どうでしょうか? 私の話を聞いた上での、ご決断は」


 ム――。


「――それは、まぁ……」


 遣ろうとしている通りだとは思う。が。


「だからって急にコトを運び過ぎてる気がして……、どうかしたんですか?」


 ()えて言わないが、いつもならもっと事がややこしくなってから動き出している印象。


「心を改める、一新で」


「いっしん……?」


「はい。今後これまでの自我欲ではなく、新しい主人の人格を推し測った正しい生き方で生を(のぞ)みたいと、願っております」


 と言うところから始まる(はかりごと)なのではないかと思う自分は、性格が悪いのだろうか。

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