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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第106話〔ちゃんとワタシ達の責任とってね〕⑦

 何故か大した光源もないのに自分達の姿がクッキリと見える闇の世界、で。


 左の目に映る手が右へと移動するその過程で消えるさまを何度か繰り返して確認し。


 うん。と、納得する。


「オ、怒っておるかぇ……?」


 直ぐにムと声のした方へ顔を上げる。


「いえ怒ってませんよ」


「……ナゼじゃ?」


「まぁ、わざとではないみたいなんで」


 それに怒ったところで治る訳でもない。――それよりも。


「この後は、どうなるんですか?」


「なにがじゃ?」


 ポワっと光る球から若干間延びした声が直接頭に響く。


「……なにがって、ずっとこのままって訳でもないですよね……?」


 というかイマ何時だ。


「ァー、そうじゃったなぁー」


 うおい。――大体。


「そもそも今どういう状態なんですか? ここに来る前は自宅で寝てたはずなのに……」


「うム。器の方は現状問題なくオヤスミしておるよ」


 え。


「どういうコトですか……?」


「分かり易く解釈するとの、ワレとソナタは同じ夢を見ておるみたいな感じじゃ。よって普段使っている肉塊はベッドにて安らいでおる」


 一体なにを元にした解釈だ。あと、肉塊って表現はヤメてほしい。


「……じゃあ、さっきから見てるこの……――全て、幻ってことですか?」


「いいや夢じゃ」


 なら、どっちでもいいです。


「そして空想とも違う」


 ム。


「けど、ジャグネスさんはまだ……」


「それはワレが見せた悪戯じゃ」


 なんとも悪趣味だな。


「じゃが先の体験は(まご)うコトなき、事実じゃ」


 体験? ――っ。


 一瞬右の目の奥がズキンと痛む。


「まあ下手に触れず、今は忘れておくのじゃ」


 ム……?


「それよか、今日の女神杯に備え、早々に休むがよい」


 ……女神杯? ――ああ、そうか。ん、そういえば……。


「今日の、と言うか――予選で、女神様を見掛けませんでしたね?」


 自らが主催のはずなのに、一体どこで何を。


「ウむ、いろいろと下準備があったからの。じゃが今日の決戦では目立って暴れてやるでの、安心を致せ」


 むしろ不安で仕方ない。


「……周りをちゃんと見て、楽しんでくださいね」


 公園で遊ぶ子供相手に注意をしてる気分だ。


「うム、任せんしゃい」


 不安だ……。


 と、フヨフヨしている光を前に懸念を抱く。


「――にしても、なして予定とは思惑通りには進まんのだろうね?」


 ム。


「急に何のことですか?」


「いやあの、せっかくお膳立てしてやったというのに、全員が勝ち残らんとは情けなしと思うてな。(ワレ)ガックシじゃ」


 お膳立て……?


 ――そして不意に思い当たる。


「……もしかして予選の、――何か、したんですか?」


「ん、なにがじゃ?」


「いや今お膳立てって……」


「ああ。うム、手心的な保護じゃ」


 つまり――。


「――何か細工(ズル)をしたんですか?」


「な。神聞きの悪いことを言うでないっ」


 カミ聞き……。


「よいかっ。ズルなどではない、純粋なマゴコロじゃッ。人の身の一生を懸命に使っても手にすることのできない願望に有り付く機会を――与えたダケじゃ!」


 だとしても――。


「――それは平等にですか? そうでないなら、ズルいですよ」


「ズルくなどないっ。元来じゃッ生きとし生けるものは常に片寄っておるじゃろ! それに加えて与えたからといって旨くいくとは限らんっ。現に、チビッ子や白アタマは長けた能力を生かせずに落ちたではないか!」


 チビッ子――妹さん? 白アタマは、マルセラさんのことだろうか……。


「……妹さん達はズルではなく、実力ですよ」


「じゃとて、ひ弱な連中から見た本質は同じ事じゃ!」


「だからって……」


「モ、本を正せばっ――大体はソナタが悪いのじゃぞッ?」


 イヤなんでよ。


「なんで、そうなるんですか……」


「なるじゃろ! ヨウジがじゃなっハッキリとせんのが悪い! そう、悪々(わるわる)じゃ!」


「ワルわ……、――それは何の事をさして」


「恋路に決まっておろう! いったい何人のオナゴを(もてあそ)べば気が済むのじゃッ」


「……弄んでません」


「遊んでおる! そうでないならば、あのチビッ子があのような手段を用いろうとはすまいっ。愚直じゃ責任問題じゃ!」


「あのような手段……? 何のことですか」


 と途端に女神の球が気まずそうな雰囲気で自分から僅かに遠ざかる。


 ム……?


「あぁじゃからじゃな、そのぉ」


 誰が聞いても明らかな声色の変わり様。その上で、ふと気になった。


「そういえば、妹さんはどうなってるんですか?」


「ド、ドウとぅワー?」


「……――いや、自分はこんなかんじですけど。隣で普通に寝てますよね?」


「まあ寝ておる。しかしじゃな、ソナタら人の眠りとワレのような神に分類される体質の睡眠間隔は異なるからのぉ……」


 体質……? ――まぁいいか。それより、どう見ても怪しい。ので。


「――正直に話してください」


 と薄くなる光の球に顔を寄せて問い詰める。



 ※ ※



 お姉ちゃんは――い。


 ん?


 アタシも、お姉ちゃんみたいに。


 え?


 お姉ちゃん――ルい。


 なんだ、これは。






 初めて見た色は赤だった。


 他の事は、(おぼ)えてない。


 ――それは血の様にアカかった。






 アタシには三人の家族が居た。


 一人目はお姉ちゃん。


 二人目はお父さん。


 三人目は、もう居ない。


 お母さんは死んだ。殺したのは――シだ。


 ――……コロした?






 お姉ちゃんはこわい。


 いつも(コワ)い眼で睨んでくる。


 だから怒られないように静かにした。


 叩かれるのは痛いから。


 ――これは記憶(むかし)の……?






 今日も怒られた。


 これからはお姉ちゃんと同じワタシではなく、アタシと言おう。


 ――……。






 死んだみたい。そして生き返ったみたいだった。


 お姉ちゃんが泣いてる、どうして?


 お姉ちゃんは泣いたら駄目なのに、どうして?


 お姉ちゃんはいつも強くて、いいのに。


 優しくなくても、いいのに。


 ――いい?






 真っ暗な視界に小さな光が見え始める。


 と次の瞬間、散漫だった意識が一箇所に集約し――。


「――こ、ここは……?」


 何もない世界で自由になった手足を動かしながら辺りを確認する。


 と唐突に光の球が目の前に現れた。

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