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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
一章【異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした】
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第23話〔そもそも死んでませんよ〕⑧

 車から降りた後、自販機で飲み物を買ったり電話を掛けたり深呼吸をしたりする男達とは少し離れた所で肩を抱いて震えている運転手の男をやや遠くに見る。


 ……怖かっただろうな。


 奇跡的に助かったが、本当なら今頃は。


「おう。さっきは助かったぞ。これ、飲むか?」


 そう言って近づいて来た体格のいい男が、両手に持つお茶の入ったペットボトルを一つ自分に差し出す。


「できれば飲みたいんですけど。手が使えないので、遠慮しておきます」


「そうか。外してやりてぇとこだが、兄貴分として示しがつかねぇからよ。ワリィけど我慢してくれ。そん代わり飲ましてやるから」


 そして相手が、手に持っていた片方のボトルをズボンの後ろポケットに押し込んでから残った方のキャップを開けて、飲み口をこっちに向ける。


 ムム。






「あぁーっ、ウマいなッ」


 言って、体格のいい男が再度お茶を飲む。と其処(そこ)に、さっき電話を掛けている姿を見た、目の前に居る男からはヤスと呼ばれている細めの男が駈け寄ってくる。


「アニキ、いいですか」


「ん? ――おう。どうした?」


「はい、佐藤(さとう)のアニキに電話してみたんですが。ずっとドライブモード中で、連絡がつきません。ここから、どうしますか?」


「そうか。兄貴だったらきっと、オレらと合流しようとするはずだ。だからオレらは兄貴が来る前に、倉庫に到着してればいい。て言っても、ここからなら倉庫は目と鼻の先だがな」


「それなんですが、どう考えても鈴木が来たのはヘンですよアニキ。何で、こっちの居場所が分かったのか、それを明確にしないうちは倉庫へ向かうのはマズイです」


「そ、そうか。そうだな。よし――」


 で体格のいい男がこっちを見る。


「――ヨウジ、だったな?」


「はい」


「なんか隠しごとしてるか?」


「してないです」


「本当か?」


「本当です」


「て言ってるぞ――ヤス」


「口だけじゃ信用できませんよ、アニキ」


 自分の事ではあるが、同意。


「疑うなら、持ち物とか、調べますか?」


「――いいのか?」


「いいですよ。財布と電話しか持ってませんけど」


 車に落としてなければ。


「よし。なら――ヤス、オマエがやれ。オマエが納得すれば、問題ないだろ?」


「分かりました」






 一通りのボディーチェックを終えた細めの男がポケットから取り出した物を観察する内に、周囲に散っていた男達が徐々に集まって来る。


「なーにやってんすかぁ、康彦(やすひこ)の兄貴ィ」


 最初に来た、車内では後部座席に座っていた、トゲトゲ金髪の如何(いか)にもチャラい男が言う。


「あれ、やすさんてガラケーでしたっけ?」


 チャラ男から一足遅れて来た、同じ後部座席に座っていた、茶色の髪に形は作ってあるもののどちらかといえば不良よりの男が質問する。


 そして共に、顔にはガーゼや絆創膏(ばんそうこう)といった治療の跡があった。


「どうだ? なんか分かったか、ヤス」


「いえなにも……というか、電話帳に職場と実家しか登録してなくて……メールも同僚とか、そんなのしかないから、見るとこがないです。財布も、これといった物は……」


「なに。――ヨウジ、オマエ友達いないのか?」


 ――泣きたくなるほど大きなお世話だ。


「まぁ()いて言うような相手は……」


「さみしくないのか?」


 ――そんなの聞かないで。


「高橋の兄貴、そういうのはあんま聞かないほうがイイっすよ」


「お、おう。そうか、――すまん」


 ――泣きそう。


「ところで、――あきひろはどうした?」


「あきひろだったら向こうでタバコ吸ってましたよ。呼んできたほうがイイっすか?」


「いや。まーいろいろと怖い思いをさせたからな。今は、そっとしておいてやろう」


 体格のいい男が、どこか遠くを見るような感じで、言う。


「――それで、やすさんは何してたんですか?」


「スマホにそれっぽいアプリでも入ってんじゃないかと思ってみたけど。ガラケーだしな」


 それで何故こっちを見る。


「この指輪は取って、見なくていいんすか? 康彦の兄貴」


 声のした方を見る。と、いつの間にかチャラ男が自分の後ろでしゃがんでいた。


 指輪? ――あ。ああ、あ、あああああああ。


「――指輪? 指輪は関係ないだろ」


 マズい。そうだ、思い出した。そうだ、そうだった。ヤバい、指輪は。


「なんか怪しくないですか? どう見たって、アクセなんかつけそうにないですよ」


 不良っぽい男が、自分を疑いの目で見て、言う。


「これは、その、知り合いにもらって、仕方なく……」


「――知り合いって、鈴木か?」


 正面に居る体格のいい男が聞いてくる。


「違います」


「なら誰だ?」


「ええっと――」


 ――マズい、マズいマズい、マズい。


「あ、思いだした。これと似た指輪をコワい女がつけてるの見たっす」


 うわあああああああ。


「なにっ本当か?」


「マジっすッ」


「――本当か? ヨウジ」


 ムム。――ここは、下手な嘘は言わずに。


「はい。けど、ただの指輪ですよ?」


「なら外して、見てもいいか?」


「いいですよ」


「よし。――タケ、指輪を外して、ヤスに渡せ」


「うっす」


 実際、見られたからといって易々(やすやす)とバレるような代物ではないだろうし。(むし)ろ、ここで見せておいたほうが後々も怪しまれずに――。


「――いッタイっ、イタ、イタタタダダっ」


 指がッ指の皮がめくれるっ。


「おいタケっ、乱暴にするなっ」


 そして痛みがピタリと止まる。


 いっッアい。


「だって、メッチャ固いっすよ」


「どれ見せてみろ」


 言って、体格のいい男が後ろに来る。


 もしかして単純には抜けない仕組みになってるとか? だとしたら都合がいい。


「なんだ。むくんでるのかと思ったら、全然じゃないか」


「なら高橋の兄貴もやってみてくださいよ」


「よし」


「――待ってください」


「なんだ? 取っちゃダメな理由でもあるのか?」


「いえ、そうではなくて。ゆっくりめで、お願いします……」


 こんな筋肉質の相手に力任せで引っ張られたら、皮どころの騒ぎではなくなる。


「よし分かった。ゆっくりと、やればいいんだな。ゆっくり、と――よし、取れたぞ」


「えええっ嘘しょッ。うわっマジだ、スゲェ……」


 ホッ――じゃないっ駄目じゃんッ。






 金網で囲まれた敷地に入る為の門を助手席から降りた細めの男が開ける。次いで道が開けたのを確認した運転手が停車していた車を動かし、タイヤで砂利を踏む音を立てながら、(ゆる)やかに敷地内へと進み入り、建物を前にした場所で再び車体を()める。


 おお、思っていたよりか大きい、けど……。


 その外観はボロボロで、一瞥(いちべつ)して、人の出入りが長らくない事を容易に想像させる。


「よし。――全員、いったん降りるぞ」


 車の動きが無くなると体格のいい男が車内に声を掛け、応じる様に皆が動き出す。


「足元に気をつけろよ、ヨウジ」


 言って相手が、スライドドアを開け、先に車外へと出る。






 広い敷地に大きな倉庫がぽつりとひとつ。


「けっこう広いだろ」


 隣で、体格のいい男が誇らしげに言う。


「ですね。けど、こんな何も無い所の倉庫なんかを買って、どうするんですか?」


「いや、目的は倉庫じゃない。これはおまけだ。置き土産みたいなもんか。最初は、これと同じモノがいくつも建っていたらしいんだが。バブル時代の終わりかけに、この場所を買った所有者が倉庫を解体中に金が無くなってな、こいつを解体する前に手放したって話だ」


「なるほど」


 バブルなんて単語を聞いたのは久しぶりだな。


「そんでもって、うちの兄貴がここを見つけて、買い取った。兄貴は時期を見て、なんか建てる計画だったみたいなんだが。目前で、資金の一部を鈴木に持っていかれちまったって訳だ」


 ここに来て、こちらの正義が無くなりつつある。


「だから鈴木には、兄貴に対してちゃんと頭をさげさせて、(かね)も返してもらう」


 ムム。――あ。


(きん)は、どうしたんですか……?」


「きん? なんだそれ?」


 え。


「金貨です。たぶん、置いていったと思うんですが……」


「ああ、あのオモチャな」


 オモチャっ。


「――どういう、意味ですか……?」


「オモチャはオモチャだ。本物の金を鈴木が持ってる訳ないだろ。どこの沈没船だって話だ」


 ですよね。


「――ええと。なら、……捨てたんですか?」


「いや、兄貴は律儀でな。治療が終わったら、本物かどうか確かめるって言ってたな。それまで鈴木には手を出すなってよ。ほんと、兄貴は人がよすぎるんだ。まあ、兄貴のそういうところにオレらが助けられてるのは事実なんだがな」


「……――てコトは、鑑定の結果は?」


「聞くまでもないだろ。兄貴には怒られるかもしれねぇが、鈴木に逃げられるよりかマシだ」


 なるほど――。


 あらかた事の成り行きは把握できた。


 ――だとしたら、金が本物だと説明したほうがいいのか? けど、言ったところで納得しないだろうし。いっそ兄貴って呼ばれてる社長さんを待って。


「どうした?」


「え?」


「あー……もしかして、電話のことか? 心配するな、ちゃんと帰りに回収してやるから。今は我慢してくれ」


 気にしてもらったのが申し訳なくなるくらいの勘違い。故に、話は合わせておこう。


「あんな場所にある自販機に、そうそう人は来ないだろ。それに、袋ごと埋めたから、どっか飛んでいく心配もないぞ」


「は、はい、安心です……」


 そうだった。指輪も置いてきたから、この先、どうなるか分からないんだった。


「よし、じゃあ行くか。縄は中で取ってやるからな。もう少しだけ我慢しろよ」


「分かりました」


「にしても、今にも崩れそうだな。――大丈夫か?」


 さらりとフラグが立ちましたが。

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