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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第89話〔できれば資源ゴミの日だけは勘弁してもらいたい〕⑤

 さて、実際そろそろ。


 瞬間的に場が乱れたものの、直ぐ互いに冷静となり腰を下ろして話を始めた時と同じ形で向き合う預言者を――改めて見る。


「ええと、いくつか質問をしてもいいですか?」


 そして直ぐさま、どうぞ。と返す相手が湯気の消えたカップに手を伸ばす。


 ん? ――まぁいいか。


 気の所為だろうと、ようやく訪れた絶好の機会に意識を戻す。


「――率直に聞きます。預言者様の目的は何ですか?」


 次いで口を離れたカップが受け皿と共に卓上でカタっと音を鳴らし、その手を放れる。


「私に実現したい望みなどはありません。――……いえ、既に失われた。と言い表すのが妥当でしょうか」


「……失われた?」


「はい。以前から申しております、預言者としての定めに準じてのコトです」


「女神様……の命に従うとかってやつですか?」


「お察しのとおりです」


「けどそれは、自由にしてはイケないという内容(モノ)ではないですよね……?」


「不自由である事が必ずしも己が意のままであるとは限りません。時に人はその心ごと何かに束縛されたいと思い、理性的に判断のできない盲目となるのです」


「……一体なにの話を」


「いえいえ、ただの世論的な事情を代弁したまで。お気になさらぬよう、どうぞ宜しくお願い致します」


 何のこっちゃ。


「……――まぁその、ともかく、預言者様が自分に対してどうこうしようと思った動機をくわしく教えてください」


「はい。あの時は私なりにも古い因縁を断ち切ろうと全身全霊をもって挑み、さりとて後一歩のところにて惜しくも――」


 ――口惜しさが感じられるワザとらしい口調で。


「いや、くやしく、ではなく、くわしく、教えてください」


 と言うか。


「……ふざけてます?」


 それならそれで、むしろ助かる。――が。


「いいえ、私は至極真剣です」


 相手の眼を見るからに、それは完全に否定されている。


「……――なら、そろそろ前向きに……」


「仰るとおりです。が今の内情を言葉にて表現するというのは真っ当には難解なのです。ゆえに、なにとぞ、ご容赦くださいますよう」


 座ったままの薄い緑色の髪がペコリと下がる。


 ふ、ふム……――。


「――そんなに緊張する事、ないと思いますよ?」


「と、言いますと?」


「……ええと。正直に言って、事情はどうあれ結果はもう変わりません。例え、預言者様が首謀者でも、これまで沢山お世話になってきましたし。今さら真実を知ったところで、自分には恨めないと思います。なので――」


「断じてイケません」


 ――ム。


 声量的に大したことはなかったが、不意の言明に場がしんとなる。


「……よくない?」


 そして耐え兼ねた訳ではないが機を逸するのは嫌なので問い返す。と何故か、これまで被っていなかったローブのフードで頭部を覆い、顔をやや下向きにして――。


「――貴方は私を憎むべきです。そして願わくば、私を殺していただきたく存じます」



 ***



「で、実際どこまでが、ほんとなのよ?」


 ホリを間に挟み、机を前に並んで座る黒髪の少女が反対側に居る銀髪の少女に顔を向けて問う。と思い当たる感じのない表情をする相手を見て――。


「――家出少女を気取ってるみたいだけど、騙せてるのは水内さんだけよ。いい加減、白状しなさい」


「ぇ、――なんのコトぉ?」


 自主的に誰も居ない方へ逸らされる眼。が、直ぐに元の相手へと向けられる。


「そっか。隠してても意味ないよね。うん、――皆の思ってるとおりだよ」


「でしょうね。――誰の入れ知恵?」


「ぇ。――そんなコトもバレてるの?」


「これはわたしの勘よ。で、当たってたみたいね」


 ァっと声を発するマルセラ。だが次の瞬間には持ち前の切り替えの早さで。


「私はあんまり乗り気じゃなかったんだけどネ。お姉ちゃん達が」


「ああ、アレね。前にちらっとだけ見たわね。二人だっけ?」


「女神杯の時に一緒に来たのはセシ姉と、歳は一緒だけどクラリスお姉ちゃん、かな」


「その口振りからすると、他にも居そうね?」


「うん、――他に妹が二人と、お姉ちゃんが三……四人? 居る」


「……随分と、お(さか)んね」


「そう? ――普通だよ?」


「ま。こっちじゃ、そうかもね」


「こっち? ぁ、そっか。――異世界だと違うんだ?」


「一部以外はね。基本、(つい)よ」


「そうなんだ。――だから、ようじはああいう感じなの?」


「ああいう感じ?」


「うん。ようじって、なんか――変? だと思うの」


「ああ、こっちの男どもと比べてってコトね」


 そしてウンと頷くマルセラを見て、黒髪の少女が持っていたカップの中身を飲み干す。


「――水内さんは、特別よ」


「特別……?」


「ようするに、もの凄く変、ってコトよ」


 言い放つように、花子は告げた。



 *



 聞き間違いだといいのだが。と、淡い期待を持ちつつ――。


「それは、どういう意味ですか……?」


 ――フードを被って俯く相手に聞き返す。


「……出来ることなら、お察しください」


 そう、下向きのまま預言者が呟く様に。


 ――イヤ。


「無理です。全く意味が分かりません……」


 と言うか、未だに趣旨(しゅし)すら把握できていない。ので。


「まぁ、この話はもう止めにしましょう」


「ェ?」


 ム。


「――そもそも、自分としては()いて聞くほどの事でもありませんし。いいですよ」


 と、上がった顔の潤んだ瞳を見、言う。






 退室時の礼を済ませ、扉を閉めたのち――。


 さて。


 ――と振り向いた所に。


 あ。――小さく頭を下げる双子の姉が居た。






 遠くまで広がる草原の先に見える山を城の上階テラスにて、黒い布地で装った双子の姉と共に眺めつつ。


「それで、話というのは?」


 するとハイと応答し、黒い服装で身を包む相手が直ぐに体ごと顔を向ける。


「不躾ながら先ほどのお話を盗み聞きしていました」


「さっきの? ――あぁ、そうだったんですね」


「ハイ、第一にそれを謝罪させてください」


 そう言って、こちらの返事を待たず、深々と目の前で頭が下がる。


「いや、そんな謝るほどの事では……」


 というか、正直だな。


 そして顔が上げられる。


「では第二に、あなたのご家族を殺したのは私です。重ねて、お詫び申し上げます」


 そう、再び相手が頭を下げる。


 ハ、ハイ……?


 次いで上がり――。


「――第三に、これまでの不祥事、それら全て」


 そうして再三にわたり眼前で頭部が上下運動を繰り返す。






 ……え、ええと。


 幾度目かの折、肩で息をし始めている相手に――。


「――もう、いいですよ……」


 というか。


「よく、そんなに出てきますね……」


 つい唖然と見てしまっていたので内容は当初で終わっているが、とにかく、長い。


「いッいえっ。まっまだ、半分くらい……です」


 まじで。


「――いや本当に、もういいんで……。それより」


「ハ……ハィ?」


 すっと相手の向こう、自分から見えるテラスの端――デザイン的に組まれた手摺りを指で示す。


「アレをどうにかしたほうが……」


 そして振り返る双子の姉と、柵の外側にぶら下がっている妹が目を合わせる。


 早くしないと、プルプルしてるし。

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