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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第82話〔全員 ただでは帰さない〕②

「なるほどね。じゃ、今は騎士さまの中にメンド神が居るのね」


「はい、鈴木さんには話す機会がなくて。あと細かい事までは……」


 と、先ほど緊張が解けたばかりの騎士に目を向ける。


「大丈夫ですか……?」


 何故かは分からないが、息苦しそうにしている相手に一応声を掛けておく。


「ハ、ハイ。ワタシのほうは――、どうにか……」


 何がどうなったんだ。


 すると奥に居た預言者が席を立ち、近づいて来て。


「本日は楽しめましたか?」


「ぁ、はい」


 ――そうだ。


「ええと、タルナートさんのコトなんですが」


「ええ、私のほうで手配をいたしました」


「ハイおかげで助かりました。ありがとうございます」


「……――それは、よきことで」


 一瞬目を逸らしてから、薄暗い表情で預言者が告げる。


 ム?


「それでユーリアは?」


 気の所為かな……。


「ええと。タルナートさんとは向こうで別れました。理由は特に聞いていません」


「さようで。ではのちほど、私のほうから今日の礼を申しておきましょう」


「お願いします」


 そして、さて。と首の痛みに触れてから、ソファでクッキーを楽しそうに食べている聖女の方を向く。


「女神様、皆に話したい事があったんじゃ?」


「――ホグ、ふぁミがじゃ?」


「……――こっちに戻ったら、預言者様に意見を聞くとかって……」


 次いでゴクンと、女騎士の喉が鳴る。


「――フむ。フェッタよ、女神杯の準備をいたせ」


「はい、(かしこ)まりました」


 エっと躊躇する事なく了解した預言者を見る。と、こちらが口を開く前に――。


「――(おおむ)ね既に知り及んでおります。ゆえに、今晩の内に日取りを決定し、早々の開催を試みます」


「うム、期待しておるぞ。褒賞は従来通りじゃ、考えておくがよい」


「御意に。――して、主の望みは?」


 普段通りの面持ちで預言者が尋ねる。すると手に持たれた新しい菓子ごと自分(こちら)を指し示し、女騎士の顔でニヒルな笑みを浮かべる聖女が。


「ヨウジじゃ。ワレが勝ったあかつきには、この者の魂を貰うよって。各々決死の覚悟で杯に挑むがよい」


 ふぇ。――タ、魂……?


 そして部屋に居る皆が自分と同様に困惑した様子でザワつく中、一人冷静な立ち姿のまま、白いローブを着る預言者が一括りの髪を揺らして静かに口を開く。


「主よ、それは如何な解釈を致せば?」


「言葉のままに受け取るがよい。ワレは此度の催しが終われば座に戻るよってな、褒賞を持ち帰る為には唯一無二の方法じゃよ」


「……端的に、洋治さまの死をお望みと言うことでしょうか?」


 なぬ。


「事実ソナタらの器は連れては行けぬからの。じゃが安心せい、無になる訳ではないぞ」


 其処でダンと、例の如く小さな少女の足が話の中心に踏み入り――。


「――ちょっと待ちなさいよ。なに、勝手なコト言ってんのよ。ナメてんの?」


 ム。


 若干いつもより鋭い雰囲気と低い声色に、皆の注目が集まる。


「舐める? 何をじゃ?」


 そう言って、手に持ったクッキーを見せながら、聖女がベっと舌を出す。のを見て、少女が片方の袖を(まく)し上げ。


「そっちが先よ」


 と吐き捨てるように言う。


 いやいや。


「鈴木さん、待って」


 そして制止しようと言い掛けたところで、ソファから聖女が立ち上がり。


 ム……?


 皆に女騎士の顔が向けられる。


「まア騒ぐでない。先ほどフェッタも申したであろう、概ね理解していると。ならば(ワレ)とて同じじゃ。ソナタらの事はよう分かっておる。よって、これはチャンスと思うがよい」


「チャンス……? どういう意味よ」


 するとニヤリと笑む聖女の視線が一人の少女を見。


「此度の催し、勝てばその者が望みを最大限に叶える積もりじゃ。活躍の場は平等に設けるよってな、楽しみにいたせ」


 次いでニマリと笑んだ後、ソファに腰を下ろす聖女が再び菓子を食い始める。


 その傍らで黙り続ける皆の顔は、自分の知っている表情(モノ)とは違っていた。



 ▲



 ――経緯(いきさつ)を思い返し、どうしてそうなったのかは分からないが、背中に乗っかった黒髪の少女に後ろから頬を左右に引っ張られている騎士を含めた皆に顔を向ける。


「結局、反対の声がなかった理由って何だったんですか?」


 途端にエと言った感じの表情で、皆が自分の方を見。騎士の背に居た少女がストンと床に着いて、自身の腰に片手を当てる。


「じつは水内さんに、言っておかないといけないコトがあるのよ。聞いてもらえる?」


 ム。


「はい、勿論です」


 というか、この流れで聞かないとは言えない気もするが。


「どんな内容ですか?」


「ん、あのね。わたし、しばらく敵になるわ」


 へ。


「て、敵……?」


 なんだ急に、というか何の敵だ。


「そ。わたしね、この前のコトで気づいたのよ。このまま良い子してても無理だなーって、だから敵になるわ。ゴメンね」


 この前……。――いや、それよりも。


「……敵と言うのは、何の?」


 すると少女の手が腰から上にあがり、仁王立ちと共に胸の前で組まれる。


「――恋敵よ、悪く思わないでね」


 ふぇ。


「……恋がたき? 誰の」


「当然、騎士さまのよ」


「ジャグネスさんの……?」


「どうなるかは知んないけど。今後は全力で水内さんのコト、奪いに行くから。覚悟しといてね」


 な、ぬ。


「イヤ――そ、そもそも、自分はもうジャグネスさんと……」


「知ってるわよ。でも、問題ないでしょ?」


「それは……。――だとしても、そんな気は」


「分かってるわよ。だから、今回は完全に敵。助け合いは一切なしよ」


「……どういうことですか?」


「ま、信用してるワケじゃないけど。メンド神の話が本当なら、わたしにもチャンスはあるはずよ」


 ム。――まさか。


「鈴木さん、女神杯に出るつもりなんですか……?」


「そうよ」


 小さいながらも堂々とした少女の細い黒糸の様な髪が縦に動く。


 そうよ、って。


「危険では……?」


「かもね。でも、もう決めたの。わたしは勝って、願いを叶える」


「……願い?」


 そして再び頷く小柄な少女が少し間を空けてから――静かに口を開く。


「水内さんの記憶を、消してもらうわ。そんで、わたしを好きになってもらう。ど、イイ考えでしょ?」


 な。――イヤ。


 少女の願う内容を知り、室内が若干ざわつく。が直ぐに一つの疑問に気付き――。


「――……それ、無理だと思いますよ?」


「ん。なんで?」


「おそらく、叶う願いは一つだと思います。それだと願いが二つになっていて、一方しか叶いませんよ」


「……――そ、ね。だから勝たないとイケないのよ」


 ム。


「いや、勝っても……」


「ね、水内さん。水内さんなら、きっと覚えてると思うけど。わたしが勝てば叶う願いは二つよ。だから、問題ないわ」


「二つ……?」


 なんで鈴木さんだけ。――あ。


 と思い出す、以前の記憶。それは――。


「――……あの時の?」


「そ。わたし、まだメンド神との約束を保留したままよ」


 ――なるほど。


 納得する。と、先ほどの罰で両頬が赤くなっている騎士が突然少女の前に慌てた様子で出てきて。


「待っ、――待ってくださいよッ救世主さま!」


「なによ急に……」


「ジっ、ジブンは――どうすればいいのですかッ?」


「……そんなの。自分で考えなさいよ」


「そんな頭が有ったら、――こんなダメになってませんよっ」


 うおい。


「……――だったら。イスかテーブルよ?」


「ジブンは、剥製とかでもいいですよ?」


 身の置き場を考える以前の問題だな。

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