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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第75話〔ここのところ駅前で留学をしていたもので〕⑦

「度々失礼しました。ここのところ駅前で留学をしていたもので、うっかりと」


 そう言って、紫がかったゆるふわパーマの黒髪から洗い立てのシャンプーみたいな香りを放つ、ふわっとした頭が下がる。


 ……なるほど。


 次いで顔を上げ、人目を避けるハリウッドスターの様な異世界人の大和撫子が横に居る聖女の方をチラリと見て、から。


「ワタシはフェッタ様の命で、やって来ました」


 ム。


「預言者様の……?」


「はい。フェッタ様から、お二人の行く先をサポートするよう指示を受けています」


 ……サポート?


 と若干困惑する自分の視界で、ピクっと女騎士の耳が動く。


「しかしつい先ほどのは驚きました。フェッタ様の言う所に来てみれば、こんな薄暗い場所、しかも異世界の民を……。受け止めたのがワタシでなければ二次被害モノです」


「――その様な事、元来せんでよいコト。故に、神の仕置きを妨げておいて意見を申すとは、タルちゃんも随分偉くなったものじゃのぅ」


 横からスッと自分の前に来て間に立った聖女が、ゆるふわ女優の方を向き、そう告げる。


 タ、タルちゃん……?


「……貴女(あなた)は――本当に、あの時の……?」


 ム。と、そして前に居る女騎士の横から覗き込む形で――。


「――ええと。二人は……知り合い、だったんですか?」


 そんな訳はないと思うが、雰囲気的に双方を見つつ聞いてみる。


「ま、の。ちょいと訳アリじゃ」


 なぬ。と、聖女を凝視するお忍び女優に目を向ける。


「……――事情(ワケ)も関係もありません。アリエル様であるコト以外は、ほぼ初対面です」


「ホウ。それはまた寂しい内容(コト)じゃの。しかしじゃ、その髪を見るからにワレの授けた知恵だけは、ちゃんと頭に残しておるようじゃのぅ」


 途端にピクリと反応する女優の手が自身の、軽く縮毛した頭髪を触る。


「――……今回は何を目的に?」


「その様な事情はない。ただ単に観光をしておるだけじゃよ」


 次いで手を下ろす、ゆるふわ女優の瞳が目の前に居る相手を全体的に眺める感じで動き。


「アリエル様を、どうするお積もりで?」


「心配せんでも飽きれば返すよって、安心せい」


 というか。


「であれば早いうちにお願いします」


「それはソナタらの対応次第じゃな」


 なんで急に――。


「……こんな茶番を、いつまで」


「――ちょっと待ってください」


 行き成りのシリアスに加えて置いてけぼりも食らっているので、一旦、話を制止する。


 そして二人の顔が自分の方に向けられた――ので。


「何の話をしているのかが全く分かりません。とりあえず、二人は互いを知っているんですね?」


「……――顔見知りと言う訳ではありません。が、そうですね。女神の存在は幼い頃に一度、把握しています」


 ――把握? 変わった言い回しだな。と、女騎士の顔を見る。


「まあワレはよく様変わりするからの。かと言って、ソナタとて純粋な成長だけでなく、随分と風貌を変えておるではないか。泣きじゃくっておったのが嘘のようじゃわ」


「……イツの話をしているのですか」


「神にとって人の子が過ごす時など、欠伸の間に等しいよってな。間隔が違うんじゃよ」


 言って、聖女がファふっと眠たそうにして短く息を吐き出す。


「故に、何か提供せよ。暇じゃ。――どだい、ソナタはその為に来たのであろう」


 ム? と、女優の顔を見る。


「……――はい。ワタシの役目は先導、ここからは大人しくついて来て貰います」


「ま、アヤツの考えそうなコトじゃが。ここまでを(かんが)みるに、その方が良さそうじゃの。――さあ案内を致せ、(ワレ)が興に乗る場所にのぅ」


 いやいや。


「……なら、こちらに」


「ちょっと待ってください。一体、何処に……?」


 再び、そっちのけで事を進めようとする二人を制止して、ゆるふわ女優に問い質す。


「ドコ? 洋治さんはアリエル様……――女神様と、ランデブーをしているのでは?」


「まぁそうですね……」


「次、ドコに行くか、ご予定は立てて?」


「いえ……。本音を言うと、まるっきりです」


「でしょうね。その為に、ワタシがここに居るんです」


 なる、ほど。――なんとなく、把握できてきた。けど――。


「……意図は分かりました。でも……この人達は、どうするんですか?」


 ――と自分達の周辺で反吐を出している男達に目を向ける。


「心配いりません。この手の輩は社会のゴ――秩序を乱す、連中です」


 いま一瞬、本心が。


「死に繋がらないよう、受け止めた際に処置を施しました。見聞きした事も、誰かに言ったところで、聞いてすらもらえない不燃物、脳に障害を負ったとしても無問題(モウマンタイ)でしょう」


 いやダメでしょ。というか、なんかソワソワしてる? 気がするので――。


「――……何か、あったんですか?」


「取り分け何も起こっていません。日々平凡そのもの、折角の出逢いすら(つゆ)(いささ)かも実る気配の無い悶々(もんもん)とした灰色の空、それが今のワタシです」


 聞くからに暗雲が立ち込めてますけど。


「……大丈夫なんですか?」


「問題ありません。今日はバイトのシフトをかわってもらいましたから完全にオフです。一刻も早く、遊びに行きましょう」


 え。


「なんて、言ってかわってもらったんですか……?」


 異世界から来た女神に会うから。なんて理由、通る訳ないだろうし。


「田舎の祖父が危篤状態だと伝えましたが、それが何か?」


 うわ、すっごい古典的。


「……それなのに、こんな所に居て、大丈夫ですか……?」


「見付からなければ。つきましては変装をしていますし、早々に移動すれば可能性も激減します。ですんで、続きは車の中で、でも」


「分かりました……」


 だから、そんな恰好をしているのか。――と自分達に背を向けて歩き始めるお忍びハリウッドの後を追い、歩き出す。その矢先に。


 ん、車?


 聞き間違えた可能性も含め、無意識に小首を傾げる。






 ドゥルンドゥルンと鳴り響く、エンジン音。


 正面からのGを受けて助手席のシートに沈む、身体。


 そして――。


「な、ななっな、なな。ナっなるほどッ、なるほどの! なるほどじゃ!」


 ――加速する車両の後部座席で一人、何故か同意し続ける聖女。


 ……さっきから、一体ナニに納得しているんだ。


 と心配になったので、それなりの力で前からの重力に逆らいつつ、振り返る。


「だ、大丈夫ですか……?」


「オオッ? なんじゃってッ?」


 両手を広げ、なにやら全身で目に見えない重さを受け止めているかの様な上体のまま、女騎士の瞳がこっちを向く。


「……いえ。その、念のためシートベルトは着けてくださいね……」


 見るからに聞こえてなさそうだが、一応言っておく。


「ウッヒョー! なるほどのォー!」






 そうして二十分程ぶっ飛んだ後、到着したのは――。


 ぅ、ちょっと酔った……。で、ここは。


 ――大きな入場口からも見て取れるアニマル感。


「動物園です。前々から来たいと思っていました」


 そう言いつつ、助手席から降りたばかりの自分の所に来たゆるふわハリウッドがサングラスを外す。


「なら、どうして来なかったんですか?」


 気分ごと前に傾いていた体を起こし、尋ねる。と遠くを見る様で、深い悲しみを(はら)んだ様子の眼が――。


「――訳を、聞きたいと思いますか?」


 いいえ、スミマセン、止めておきます。






 いつ以来だろうか。


 というか動物園だけでなく、こっちの世界で娯楽に時間を費やすのが、そもそも久しい。


 なので、こういった場所を最後に訪れたのは――確か。


「見てみい、ヨウジっ。デッカいサルがおるぞい!」


 園内に入って直ぐ、るんるんと前を歩いていた聖女が足を止め。そう声を上げる。


 ム。


 次いで顔を向けていた方向へと走って行く女騎士の後ろ姿を追おうとした途端、入場口を通り隣に来たハリウッド女優が園内マップのような物を両手に広げて持ち。


「明らかに浮かれていますね」


 貴方もですけどね。と、案内図とは別に小脇に挟まれたガイド雑誌らしき物を見て思う。


「とは言え、時間は常に押しています。急ぎましょう」


 ム――。


「――押す? この後の予定があるんですか?」


「当然です。これまで行くのを我慢していた場所は山ほどあります」


 一体ナニの為の我慢だ。


「……時間的に回れますか?」


 余裕がない訳ではないが、既に昼は過ぎてしまっている。


「言うまでもなく、メェイデン王国聖騎士団総長の名に懸け、間に合わせてみせます」


 キリッと今にもそう言いたそうな顔で告げる。


 はい、間違っても口にするべき事ではないです。


「――それでは洋治さん、まずは類人猿のエリアからです。向かいましょう」


 死地に(おもむ)くみたいに言わないよ。あと類人猿も。

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