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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第68話〔それは手厚くしといてください〕⑪

 


 *



「と言う訳なんで、特別な何かがあって、こういう性格に――と言うか、人格が形成されたとも違います。ので、預言者様が言う貴重とは全く釣り合いません」


 向こうでは身内が死ぬ事も、それほど珍しい話でもないし。


「……――それでは洋治さまは、これまでに特別な事などは何も無かった、と。そう仰るのですね?」


 ム。


「そうですね。自分としては、そう思ってます」


然様(さよう)で……」


 なんとも名状しがたい雰囲気で、預言者の顔と表情が僅かに沈む。


 ム……?


 と途端に戻り、斜め下の角度から自分を見て――。


「――此度の件はどうでしょうか?」


「……こたびの件?」


「アリエルの死は、洋治さまの心に――何か影響を与えたのでしょうか?」


「……ジャグネスさん、の――」


 そういえば、あの時の自分は一体どんな顔をしていたのだろう。



 ▼



 光の粒が舞い降りる雪の様にゆっくりと上がり、消えてゆく。


 そして吸い込まれるみたいに空へと、最後の輝きが見えなくなって――少しの風が吹く。


 ぁ――。


「ヌ。なにか落ちておるの」


 反応して見る、地面に白いカチューシャがあった。


「じゃから、早うと言ったのに。解毒はの、時間との勝負なんじゃぞ」


 ――ドク?


 聞き慣れない単語を耳にし、心ともなく傍らで浮かぶ相手に顔を向け――。


「――毒って、何のことですか?」


 次いでボケっとこっちを向く顔が、あからさまに動揺して体ごと揺れ動く。


「ななっなにを言っておるのじゃッ! ワカメとメカブは親類みたいな物じゃろ!」


 いや、同一の根元なのだが。――ではなくて。


「ほいではっワレは先に失礼するでの! 皆の者、帰り着くまでが遠足じゃぞッ」


 加えて、おさらば! と言い。急速に上昇して、あっという間に聖女が見えなくなる。


 それを見送る事しかできない自分は――。



 ▲



 ――うん、なんとも形容し難い。


 そして気になっていた事を思い出した。


「正直、なんとも言えません。両親の時もそうでしたけど、人が死ぬ事自体は非常でないと思ってます」


 どのみち、誰もがいつかはそうなる。早いか――遅いかの違いでしかない。


 そう思いつつ自分の返事を待っていた預言者の顔を改めて見直す。


「……――確かに仰るとおりです。生きとし生けるものはいずれ死を受け入れなければなりません。しかしながら、その死とは平等でしょうか?」


 ム。


「平等……だと、思いますけど。違うんですか?」


 向こうと異世界(こっち)ではその辺の考え方が違って。


「皆が死を迎えるという意味でなら等しく、そうでしょう。しかし、早き者――遅き者、望む者――望まぬ者、委ね――抗う、命の在り方その数だけ、死とは偏りのあるモノではないでしょうか」


 ――なるほど。


「そうですね、納得です」


 あと発言が久しぶりに預言者っぽい。


「……それでは、どうなさるのですか?」


 ム――。


「――どう、と言うのは?」


「洋治さまの居た世界とは違い、こちらでは命の在り方だけでなく死の有り様も数がございます。それは結果として、これまでにない事に順応する心構えを必要とするでしょう」


 ……なる、ほど。


 遠回しな言い方だが、最近の事もあってか、何を述べたいかは直ぐに分かった。


 ただ――。


「――その(コト)なんですけど。実際どうなるんですか?」


 いろいろ逸れたが、本来の目的にやっと辿り着く。


 が、尋ねた相手は浮かぬ顔をして。


「従者である私に、主の都合を語る資格はありません」


 と言い終える。


「……けど。歓迎会をするとかしないとかって話も出てますし」


 自分に全く乗り気はないけれど。


「もう少し、その辺を配慮できる情報があれば、と」


「なるほど……。――そうでしたか。さすれば私の方から直接、関係する者達にはそれとない言葉を掛けておきましょう」


 ム。――それなら。


「分かりました。それで、お願いします」


 目途は達成した。ので――。


「――ついでにもう一つ、聞きたいんですけど」


「ええ、今晩の警備は、手薄にいたしましょう」


 いや――。


「――それは手厚くしといてください」


 というか、なんでよ。


「それより。こっちの世界にも、人体にとって毒になるモノってあるんですか? もしあるのなら、簡単に入手できるのかも教えてください」


「おや、洋治さまらしからぬ。さりながら先に答えを申しますと、容易にございます。ゆえに入手とて苦もなく」


「……そうですか」


 なら。あの時のは、やっぱり。


「ですが、そういった手段を用いる者は、そうそうおりません」


 ム。


「何故ですか?」


「たとえ殺意を抱くほどに相手を憎み、その者を殺害したところで。外敵を排除した事にはならないからです。――ゆえに、結果の伴わない手段と言えます。まァ憂さ晴らし程度の認識でしょうか」


 なるほど……。


「ナゼ、そのようなコトを?」


 聞いた根本的な理由、それは単純に思った疑問。


 それを解決する為にではなく。自分を納得させる為、目の前を真っ直ぐに見据えて――。


「――預言者様は、どう思いますか? ジャグネスさんが……その」


「事切れた顛末でしょうか?」


「……――ハイ、そうです」


「その感じからすると……。洋治さまは納得をなされてはいないのですね?」


「もちろん起きてしまった事は、事実として、受け止めてはいるつもりです。けど、()に落ちないと言うか――合点がいかない部分があります」


 それは(いく)つかある。が、特に納得のできない事は。


「ジャグネスさんは……、――ジャグネスさんなら、飛んできた矢を避ける事が出来たと思うんです」


 手に持ってさえいれば、剣で斬って落とす事も出来たはずだ。


 ただあの時は――。


「――自分を、俺を助ける為に咄嗟的な判断でしたコトだったとしても。自分自身も助かるすべは本人の実力ならあったはずです。なのに――」


 ――結果として、矢は刺さり。


「矢に毒が塗られていたのは、盲点だったとしても。それまでの経緯にも疑問となる点はあります。そういった部分をハッキリさせて」


「どうするのでしょうか?」


 ――ム。


「些細な事を明らかにしたところで、結末を変えるコトなど人の身では不可能。考えるだけ、無駄と言うものです」


「それは……――」


 ――そうなのだが。


 すると目の前に居た預言者が、最近よく匂う花の様な香りを髪から漂わせながら城内の方へと歩いて行き、途中で自分に背を向けたまま、立ち止まる。


「……――(ある)いは神にでもなれば、其処にない事象を人の目に映す行為とて不可能ではないでしょう。しかし、人の身である洋治さまに出来る事と言えば、我が身を(てい)して、この忙しい年末(じき)(いとま)を過ごす何処ぞの姫騎士を好い顔で迎える準備(コト)、くらいでしょう」


 ム。


「――それでは私は、これにて失礼いたします」


 そしてこの場を離れる預言者の後ろ姿を見送り。


 なんとなしに、風が吹いてくる山の方を向く。


 次いで、そうか。と、再会の瞬間を思う。


 そのトキ自分は、どんな顔をして――何を、言うのだろう。



 △



 一週間ぶりに合う、その顔は――その姿は、紛れもない本物に見え。


「ヨウっ!」


 懐かしいとさえ思える聞き慣れた声で、名を呼び――部屋に入ったばかりの自分に抱き付いてくる。ので――。


 ――誰ですか? と、思わず咄嗟の感想を口に出す。

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