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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第67話〔それは手厚くしといてください〕⑩

 なんというか、ここのところ何もかもが急である。


「おや。――ありがちな破局現場でしょうか?」


 城の中へと去って行った少女と擦れ違う形で現れた白いローブを着る預言者、が行ってしまった相手と自分を交互に見、茶化す様に言う。


 とりあえず、次の流れは決まった感じかな。






「追わずにおいて、よかったのですか?」


 手摺の側に立っている自分の隣に来た預言者が、真っ先にそう聞いてくる。


「……――大丈夫だと、思います」


 そういう事情(アレ)でもないし。


「しかしながら、沈んだ(おもむき)に見えましたが?」


「……そうですね。きっと、自分の所為だと思います」


「きっと? ――ナゼ、そのような不確かな感傷となるのでしょうか?」


 それは――……。


「……苦手なんです。昔から」


「と、言いますと?」


 ふム。


 ――たまにはいいか。と再び、今度は一括りにした髪を肩から垂らしている相手の方を見て、口にする。



 ▼



 ぼろぼろと落ちていく涙。しかしその瞳は真っ直ぐに自分を見詰めて、拭う事をよしとしない態度で手も差し伸べられない。


「……鈴木さん?」


「気にしないで。急に、花粉症になっただけよ」


 零れ落ちるものはそのまま、いつも通りの(りん)とした物腰で少女が告げる。


 そんなバカな……。


「――カン違い、されたくないから、先に言うけど。悲しくて泣いてるんじゃないわよ」


 ……ふム。


「なら何故――」


「腹が立ったからよ」


 ――ですよね。と、言わずとも読み取られる単純な思考に従順する。


 けど――。


「――俺、失礼な事を言ってしまいましたか?」


「だったとしても、水内さんはなにも悪くないわよ。全部わたしの、勝手な被害妄想よ」


 泣かれている身としては納得し兼ねるのだが。


 ただ勢いは大分おさまってきた。


「被害妄想……?」


 なんとも不釣り合いな言葉――でも、ないか。


 一瞬、身近な騎士が頭をよぎる。


「……――笑いたければ、笑ってくれてもいいけど。――わたしね、ずっと人形になりたかったのよ」


 ム、またなんの冗談だ。――なので。


「すでに大半は、適ってると思いますよ?」


 相応に受けて答えてみる。


「そ、ね。でも、中身まではどうにもならなかったわ」


 それは……。


「まぁ、そうですね……」


 完全な人形になれる訳もないし。


「だからわたし、なりたかったのよ。水内さんみたいな、理想の人形(ヒトガタ)に、ね」


「……ヒトガタって」


 (れっき)とした人間なのだが。――ただ(ようや)く、何を言いたいのかが分かった――気がする。


「つまり鈴木さんは、俺が感情の薄い人間だと言いたいんですね?」


「早い話が、そうね」


 全然早くはないのだが。結構引っ張ってきましたよ。と、辿り着いたお題目を定める。


「正直、自分がどういう人間かは主観で決定付ける内容(コト)ではないと思ってます。なんで、どう思うかは鈴木さんの自由ですし、言ってくれるなら直す努力もしたいとは思います。けど――」


 その先を、言うべきなのか、躊躇(ためら)う。


「……けど?」


 ただどのみち、変えられない事実がある。


「――……自分は、そもそもロクでもない人間です。から、期待されても応えれるかは微妙なところです」


 そして言い切った後に流れる無言の静けさ。


 次いで落ちるものが無くなって、いつも通りになった少女(たいど)で――。


「どういうコト……?」


 ――珍しく、ピンと来ない表情で聞いてくる。






 この際という気持ちで語り終え、自分としては引き離す積もりだった。が――。


「オッケー、分かったわ」


 ――何故か相手の反応は自分が想像していたものとは全く違っていた。


「……分かった?」


「そ。――てワケだから、今日のところは、部屋に戻って策戦でも練り直すわ」


 さ、策戦……?


「……一体なんの話を」


「じゃ、またね」


 ぇ? あ、ちょ。


 小さな手を軽く上げて言い。直ぐに背を向け、小走りで少女が去って行く。


 すると擦れ違う形で。



 ▲



「て訳なんで、腫らした感じはあったかもしれませんが、話した内容的にも後を追うほどの事ではないと思います」


 そして、なるほど。と、山の方を見たまま頷く預言者――が顔を自分の方へと向ける。


「洋治さまの罪作りは、真に天地がありませんねェ」


 (ニコ)やかに、白のローブを着た相手が顔を傾け告げる。


「……なんの話ですか、急に」


「いえいえ、突然の申し上げではございませんよ? 以前からの、度重なる事実を口述したまで、です」


 一難去ってまた一難、もとい一段。――なんか変な雑誌でも流行っているのだろうか。


「最近は、その手の物が出回っているんですか?」


「はて。どこの手のモノでしょうか?」


 明らか揶揄(からか)う様子で、預言者が聞き返してくる。


 その表情は女性らしい妖艶な可愛げがあり、不意に初めて会った時の事を思い出す。


 と。――何か? と、反応できていなかった自分に相手が声を掛けてくる。


 そして、ああそういうコトか。と先刻指摘された内情に気付いた。


 ――ので、聞く恥ずかしさを軽減する為に相手から視線を逸らし、山の方を向く。


 そうして――。


「預言者様から見て、俺はどんなふうに見えますか?」


 ――心にもない事を口にする。


「おや……。洋治さまで、お間違いございませんか?」


 へ。


「……なんですか、急に……」


 予想だにしない新手の確認(かえし)に、思わず逸らしたばかりの目を戻し、予期せぬ表情をした相手と顔を合わす。


 と何故か自分よりも驚いている感じで、預言者が静かに口を開き。


「いえ……。洋治さまには――不似合いな台詞でしたので、些か途惑(とまど)いが」


 言いたい事は分かるが、この際相性のことは差し控える方向で聞いていただきたい。が。


「……――やっぱり止めて」


「いいえ大変興味がございます、是が非でも続けましょう」


 やけに食い気味だな。


「――……けど」


「私は洋治さまのお人柄を(こと)(ほか)、貴重としております」


 本人を置き去りにして始まってしまった――。


「――……貴重?」


「ええ、通常では得がたい在り方です。如何にして至ったのか、深識(しんしき)をもって興を静めたいところではあります、が」


 あからさまな催促が、(なま)めかしく自分を見据える。


 ムム……。


「……聞いたところで、ガッカリするだけですよ?」


「おや、今日は随分と素直なのですねェ」


 もとより素朴(そぼく)に生きてますけどね。


「今後は同程度に、私のお誘いを受けていただければ申し分ないのですが」


 流し目を送る様にちらりと――。


 ――勿論、乗りませんけどネ。



 ※



 父は言った。


 ――期待しなければよかった。と。


 そうして両親が自分を見る事は無くなった。


 その経過、身の置き場も失くし早々に実家を出て、数年――。


 二人は妹と共に事故で亡くなり。


 ――跡形の無い、空の両親(かんおけ)となって、再会する。


 現在(イマ)になって、思う。


 あの時の自分は、目の前で起きていた出来事をどれだけ許容できていたのか。――と。

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