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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第64話〔それは手厚くしといてください〕⑦

 うーん、凄い。


 今一つピンとこない動機から作られた新食感のドリンクを飲んでから数日、でかでかと表紙になった少女と一緒に掲載されている雑誌の一面を見て、思わず感心する。


 そして売り切れ続出、注文殺到、などの文字が度々目に入り、その優れた価値を示す。


 ――のだが、当の作製者は今日も今日とて自身の立派な席で(くつろ)ぎながら風呂場で使用すると思われるアヒルの手入れをしている。


 ふ、ふム。


 と少しずつだが髪の形が落ち着いてきた騎士が向かいの席から、魔導少女の所に行く。


「エリアル導師っ、今回のも大人気ですよ!」


 ム。――今回のも?


「前回の、強く引っ張ると抜けない指輪は今や当たり前のように使われていますが――今回のっ温かい氷を作り出す技術は、更に革命的ですっ」


 とはいえ、今のところ使い道は偏っている。って――。


 ――要するに、この指輪は。


「いったいどのように、あの氷は作られているのですかッ?」


「……――バカに分かる訳、ないだろ」


 ボサっと頭の少女が、手入れの邪魔をされたからか、鬱陶(うっとう)しそうに言葉を吐き捨てる。


 自分なら内心で泣くな。


「ハイっそのとおりです! 聞いたジブンがバカでしたっ!」


 若干、使い方を間違っている気もするが。


「――なら消えろ、見えなくなってもまだ遠くへ」


 (ツラ)っ。


「……妹さん、さすがにそれは……」


 一応と自分の席から処置(フォロー)する。と、髪に丸みの残った騎士がくるっとこっちを向き。


「いいのですよ。これはエリアル導師の、――言わば交流ですんで」


 ふム……。――だといいのだが。


「――バカは死んでも直らん」


 恐らく本心が本音(こえ)になってますが。


 と何故か、ポンと自身の手の平を騎士が叩く。


「死ぬ、で思い出しました。――どうするのですか?」


 素っと表情を変え、改めて自分(こっち)を見、騎士が言う。


「……何のコトですか?」


「アリエル騎士団長の件です、ナニかするのですか?」


 ム――。


「――ナニか、と言うのは?」


「歓迎会とか、復職会? などです。するのですか?」


 へ。


「な、なんですか……それは」


「まーワタシくらいになれば、――毎度したりはしませんが、アリエル騎士団長ともなれば祝賀(しゅくが)会規模で迎えるのも悪くはないと思いますよ?」


 なんだ、それは。――というか。


「祝うものなんですか……?」


「ハイ。結構普通に――よくある話ですよ?」


 そうなのか。


「ぁ、でも――今日か明日には戻ってきそうですし、準備が間に合うか分かりませんね」


 今日か明日。その言葉に、ふと以前した預言者との会話が思い浮かぶ。


 ぁ――。


「――と、その事なんですが……」


 気分の乗らない内容からして、無意識に声量が落ちる。


「ぇ? ――なにですか?」


 いや、まだ――。


「いえ何でもありません。ただ少し」


 ――確証の取れた話ではない。と――。


「席を外すので、いつも通りにお願いします」


 ――立ち上がり、済んだ分の業務を小脇に抱える。






 アレっと部屋の前で(たたず)んでいた少女の姿を見て思うや否や横から来た自分の方に振り向く相手と目が合う。


「鈴木さん、どうしてここに?」


 すると何処かバツの悪そうな顔をして。


 ム?


「……水内さんは、なんで?」


「預言者様に会いに来ました」


 言いつつ持っている書類を相手に示して、説明を省略する。


「そ。でも、残念だけど、今は居ないみたいよ?」


 ああ。――それでか。と独り納得する。


「そうですか。ちなみに、鈴木さんも――ですか?」


「そ。だから丁度、戻ろうとしてたところよ」


 なるほど。――なら。


「それなら自分も改めます」


 言って軽く礼をし、踵を返す。


「待って」


 ――そして振り返る。






「へぇ。明るいと、なかなかの眺めね」


 形式的にはバルコニーだが、その広さなどからテラスの様な場所となる城の上階に位置する屋外――を囲む落下防止の手摺から、ギリギリ目線を確保している少女が景色を眺めつつそう述べる。


 さすがに(おぼ)えてるか。


 と、謎の不安を解消しながら隣で足を止める。


「最近になって、ちょくちょく来てるんです」


「……――そう」


 (はかな)げな声で少女が答える。


 ム……?


「――ええと。話というのは?」


 取り()えず本題に入ろう。と相手の方に顔を向け、尋ねる。


「ん。そ、ね。――なにから話そっか?」


 そんなコト聞かれても。


「……何か、話したいコトがあったのでは……?」


「ま、そね。でも、本題に入る前に、場を盛り上げるのが先でしょ?」


 分からなくはないが、本題によりけりでもある。


「ええと……――なら、最近は何か買ったりしたんですか?」


「……水内さんて、イキナリぶっこんでくるわね」


 なにがでしょうか。


 そしてジトっとした少女の眼が自分を見る。


「べつに普通よ……。特別、貴重な物はなんにも買ってないわ」


「……そうですか」


 これは、初めてじゃないな。


 と内心で冗談を言う、自分に――少女が怪しげな目をして。


「み、水内さんは――どうなの?」


 ム。


「どう、と言うのは?」


「……――騎士さまの、コトとか?」


 ふム、これまた――。


「――唐突ですね」


「ま。本題がそれだから」


 だとしたら行き成りだな。


「……雰囲気的なものは?」


「十分に、温まったでしょ?」


 そうなのだろうか。――まぁ。


「ええと。どんなコトが知りたいんですか?」


 答える分に支障はない。


「そ、ね……。昨日の夜とかは、どんな感じだったの?」


「普通です」


「どんなふうに?」


 ――どんな。


「いつも通りに、過ごして寝ました」


「……――夕食は、なにを食べたの?」


 ム。


「ええと……、普段よく食べてるパンと干し肉で出汁を取ったスープです」


 ちなみに汁物は同居している少女の要望である。


「それって、水内さんが作るの?」


「まぁ、作るってほどの事ではないですけど。ある物を使って、用意するだけなので」


「ふーん。で、食べた後はどうするの?」


「片付けます」


「そういうのはハショっていいわよ……」


「なら、風呂に入ってから寝ます」


「誰と入るの?」


「もちろん一人で、です」


 というか――。


「最初に、どこから洗うの?」


 ――何の質問だ。


「あの、鈴木さん……。これはどういう意図での質問ですか……?」


「ん。意図なんかないわよ?」


「ぇ、なら……」


「好きな相手のコトを知りたいって気持ちに、理由なんてあるの?」


「……それは――ないとは思います。けど好きになる理由は、あってもいいと思います」


「なるほど、ね。如何(いか)にもってかんじ」


 胸の前で腕を組み、本人らしさを出す感じで少女が告げる。


「なにがですか……?」


 すると不意に相手の目付きがキツく変わる。


「ね、水内さん」


「はい。……何ですか?」


「こっちに来る前に、誰か死んだの?」

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