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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
一章【異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした】
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第20話〔そもそも死んでませんよ〕⑤

 アタッシュケースをテーブルの上に置いて椅子に座る少女の、隣の席に女騎士を座らせた後、台所へと向かう。


「鈴木さん、紅茶と珈琲(コーヒー)なら、どっちがいいですか?」


「ん。わたしブラック」


 シブい。






 飲み干したカップを受け皿に戻し一息を吐く女騎士の様子を見て、声を掛ける。


「少しは落ち着けましたか?」


「はい。おかげさまで」


 実際、帰ってきた直後の青ざめた感じはない。


「それはよかった」


「――ほんと、わたしの運転で酔うなんて、失礼ね」


 やや冷めた珈琲を飲みながら少女が呟くように言う。


「もも申し訳ありませんっ。異世界の乗り物は初めてで、断じて救世主様の不手際ではっ」


 というか。


「鈴木さんて、車の免許、持ってたんですね」


「今年、取ったのよ。で、運転したのは、今日で二回目」


「なっ」


「ま。車を買ってから、一回も乗ってなかったし。ちょうどイイ試運転にはなったかもね。あ、そうだ。水内さんは、免許もってる?」


「持ってますけど……」


「車は?」


「自家用車はないです」


「じゃ。わたしの車、もらって」


「え、いや……それは」


「わたし、マンションの管理会社に、今月中に退去しろ、て言われてるの。だから、このままだと車、処分されちゃうじゃない?」


「なにしたんですか……」


「普通に家賃の未払いよ。ま、ちゃんと払うけどね。その為の、これでしょ」


 言って、カップを持つ手の親指でテーブルに置いたアタッシュケースを指す。


 ム。


「――このケースの中って、やっぱり……」


「ん。見る?」


 飲み終えたカップを横に退けて、少女がケースを手元に引き寄せる。


 そして細く小さな指が錠を外し、閉じられていた箱の蓋を開ける。と――。


 えっ。


 ――隙間なく敷き詰められた万札の束が、表を向いて、中に入っていた。


「凄いでしょ」


「――……本物? い、いくら、あるんですか……?」


「分かんない」


「え。――ちゃんと、許可をもらって、持ってきたんですよね?」


(きん)は、置いてきたわよ」


「まじですか」


「だって。金貨を見るなり監禁しようとしたんだから、正当防衛でしょ?」


 この口振りからして、真っ当な交渉の末に手に入れた物ではなさそうだな。


「――で、どうしたんですか?」


「騎士さまが、その場に居た全員を、かたっぱしから斬ってたわよ」


「へ。――き、斬ったんですか……?」


「きゅ救世主様っ」


「冗談よ。でも、剣は使ってたわよ。血は、そんなに出てなかったと思うけど」


「まじですか――」


 ――返り血をひとつも浴びていない綺麗な騎士に、顔を向ける。


「ご安心ください。刃の無い側面での打撃です」


 鉄パイプ以上に危険なんですが。


「……加減は?」


「勿論しました。ただ、最初に叩いた方が意外に(もろ)く。他よりも負傷の度合いは酷いかもしれません。しかし一人として、命までは奪っておりません。誓って」


 相手の言葉を信じるとしても、結局は複雑に気持ちは残る。けど――。


「――まあ、結果として揉め事は起きてしまいましたが、一先(ひとま)ずは二人が無事に帰ってきてくれた事にほっとします」


 素直には喜べないけど。


「ちなみに、そのお金は金貨と交換で持ってきたんですよね?」


「そ。袋は、分かりやすく机の上に置いてきたわよ」


「このお金は?」


「騎士さまが暴れてる間に部屋を物色して、見つけたの。で、中を確認したら合格ラインだったから、交換で持ってきたわ」


 なるほど。


「――幾ら位、入ってるんですか?」


「さ。五千万くらい? それか、億?」


 億。一般人からすれば、なにそれ怖いの単位なんですが。


「まぁ当分、お金で困る事はなさそうですね……」


「空き巣に()ったらサイアクだし。ケースは向こうへ持っていくけど、構わないでしょ?」


 こんな量の札束を発見したら、空き巣が交番に駆け込みそうだ。


「――そうですね。それがいいと思います」


「でもって。いくらか、使ってもいい?」


「いいですけど。何に使うんですか?」


「未払いの家賃をカギと一緒に、まとめて部屋に置いてくる」


「放置するんですか? 振り込むとかにしたほうが」


「メンドクサイ。だいたい、義理を立てるほど、よくしてもらってないし」


 ム。


「――その辺の事情は、自分が口を出す事ではないので、鈴木さんに任せます。なので他に、やっておきたいコトとかって、ありますか?」


「そ、ね。なんか、あったかしら」


「ええと。ご家族に、連絡とか、しなくていいんですか?」


 というか、十八で一人暮らし?


「ん。ああ、――興味ない」


 少女が明らかに干渉を避けたい物言いをする。


 下手に触れないほうが、よさそうだな。


「――救世主様のご両親は、どの様な方達なのですか?」


 ジャグネスさん……。


「べつに、普通よ。興味があるなら、いつか、もの凄く暇な時にでも、話してあげるわ」


「分かりました。その時が楽しみです」


「ん。じゃ、お腹も空いてきたし。残りをちゃちゃと片付けて、どっか、食べに行きましょ」


「いいですね」


 ついでに口座の中を確認しておこう。


「あ。――わたしたちがいない間、水内さんは、なにしてたの?」


 ム。


「今後の事を考慮して、色々と。ただ、主に、掃除です」


 ――そうだ。あとでゴミを出しに行かないと。


「じゃ。もう、用事は済んだの?」


「ゴミを出せば終わりです」


「そ。なら、荷物を運び終わってから。出かける時で、いいわね」


「運ぶ? まだ残ってたんですか」


「次は向こうへ運ぶの」


「なるほど」


 そうなるのか。


「――では預言者様に連絡をして、向こうでも受け取る準備をしていただきましょう。その方が、円滑(えんかつ)に終わります」


 ム。――的確な判断だ。そして、何故か力が入っている。まさか――。


「じゃ、連絡しといて。わたし、カギとか置いてくるから。――頼んだわよ」


 そう言うと、ケースから束を三つ取り、席を立って少女が部屋を出て行く。


「自分は、荷物を引き出しのある部屋に、移動させておきます」


 と言って立った瞬間に、女騎士から重低音が鳴り響く。


 ――やっぱり、おなか空いてたのか。






「これで、終わりね」


 残っていた最後の荷物を持って、意気揚々(いきようよう)と少女が言う。


「ですね……」


「最後くらいは、わたしが持って行くから。二人は先に下で、まってて」


「なら、ついでにゴミを出しておきます」


「そ、ね」


 そして満たされぬ腹具合で使命を全うした女騎士の方へ、振り返る。


「ジャグネスさん、行きま」


 あ。






 エレベーターから降りた後、エントランスホールを抜けた先にある自動販売機の前で、隣を歩いていた女騎士が急に足を止める。


「どうかしましたか?」


「先ほど、この場所を通った際にも気になったのですが。これは、いったい? 筒状の、似た形の物がいくつも飾られていて、光も放っていますが……」


 ム。


「気になるなら、何か買いましょうか?」


「買う? これは商品なのですか? 持ち運ぶには少々不便な大きさですね……」


 販売機ごとっ。


「と、とにかく、先にゴミを出してきますね。すぐ、そこなんで――」


 ――駄目だ。ぶつぶつ独り言を言い始めた。……今のうちに、出してくるか。


 で相手をその場に残し、二十メートルほど先のゴミ置き場へと向かう。


 そっか、異世界には自販機ないのか。としたら、何を買おう。やっぱり紅茶かな。いや、驚かす意味合いで炭酸も捨てがたい。けど、それならもっと上の変わり種を――。


 突然、直ぐ側の花壇に生えていた木の間から飛び出してきたナニかに振り向こうとした矢先、目の前が何かで覆われる。


 ――え?


 そして同時に、強い力で(なか)ば引き摺られる様に、体が上がった。

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