第2話〔貴方は あのその斬られたい ですか?〕②
現代において剣を突き付けられるという修羅場を体験したのち、何故か自殺願望を問われて――そして。
「……ええと、毒は絶対に入ってないんで。よかったら、どうぞ」
急須で淹れた御茶から湯気が立ち上らなくなるまでテーブルに置かれた湯飲みを睨み付ける相手との沈黙に耐えかねて言う。
「お構いなく」
一瞬だけ目を合わし、やや俯き気味に視線を外して再び相手が黙る。
ム……――。
――気まずい。というか何故、突然タンスから飛び出してきた謎の人物を自分はもてなしているのだろうか。しかも物騒な物を所持しているというのに。
思わず、テーブルの陰に隠れて見えてはいないが確実に存在する剣を意識する。
「私の剣を奪おうなどと考えているのなら、無駄です」
え? ――と見る相手と目が合う。
「ごまかしても手遅れです。私の、この剣が気になっているのではないですか?」
言って、相手が物は見せずにテーブルの下で重い金属音を立てる。
「いや、その……」
「何でしょう? 言いたい事があるのならハッキリと言ったら、どうですか。どうせ善からぬ事を考えているのでしょぅ」
「別に善からぬ事を考えては……」
「嘘です。貴方みたいな……――と、とにかくっ――ハッキリと言ったらどうですか?」
「……――なら、お言葉に甘えて」
そう言う自分に、どうぞ。と答える相手の反応を見、率直に述べる。
「刃物なんて持って、危ない人ですか?」
「やはり、思った通りですね。異世界には、その様な悪辣な思想を持った……――へ? 危ない、人? 私が、でしょうか……?」
相手を真っ直ぐ見て、頷き返す。
「な。な、なっなな、な、何をッ。わ私をっ危ない危険人物だと言うのですかッ? メェイデン王国の騎士団長でジャグネス家の当主である、私をっ!」
間違いない、これはヤバい案件だ。
「何ですかッその顔はっ! あからさまに警戒心を強めないでくださいッ」
しかしテーブルをバンバンと叩くその必死さは、安心できるものではない。
「……――分かりました。私が危ない危険人物でない事を、今から説明します」
むしろ危ない危険人物に付いての説明が欲しい。
「いいですか、私はメェイデン王国に古くから存在する由緒ある騎士団に所属する身、尚且つジャグネス家の当主で名をアリエル・ジャグネスと申します。これでも私が、危ない危険人物だと言うのでしょうか?」
……大事なコトなのだろうか。
「それを証明する証拠はあるんですか?」
「証拠? ですから私自らが、そうと名乗っています」
さて問題は、連絡するのが警察だけでいいのかというコトだ。
「――申し訳ないんですけど、そういうのは証拠とは言わないですよ」
「何故でしょう?」
「言ってるコトが、嘘かもしれないので」
「貴方は、私が嘘を言っていると言いたいのでしょうか?」
「あくまでも可能性の話です」
「なる、ほど。――失礼な事を言います。どうやら貴方は、異世界の民としてはそれほど教養の無い方なのでしょう。――いいですか、騎士と名乗る者は元来、嘘を言いません。これは一般的な常識さえ持っていれば、誰もが知っている当たり前の話なのです」
「あいにく知り合いに騎士はいないもので」
「そう、ですか。しかし見た事くらいはありますよね?」
「今が初見です」
「ショケン? 初めてと言う事でしょうか?」
「本物なら、ですけど」
「なるほど。――……それほどまでに治安の……転移をして……」
なんか独り言を言い始めた。
「……わりには然程……汚れのない……部屋――」
――次いで、すっと立ち上がり、部屋を観察し始める女騎士の腰に。
ム。――やっぱり本物っぽい。
「あの。その剣は、どこで買ったんですか?」
「ぇ? ――ハッ」
カチャリと相手が柄に手を添えて身構える。
「いや、とったりしないんで安心してください」
というか、とれる気もしない。
「やはり、この剣を奪う心算なのですね」
「断じて考えてません。そうではなくて、どこで手に入れた物なのかなと」
「手に入れた? ――失礼な、これは私の家に……――代々伝わる、由緒正しき剣です。其処らの物とは違いますっ」
「なるほど、大事な物なんですね。失礼なことを言って、すみません」
「え? ぁ、はい。……――えっと、分かっていただけたのなら、私はそれで」
「ところで、なんで俺の家に居るんですか?」
何よりも知りたいのはソコだ。
しかし答えは、なかなか返ってこない。
「あの……?」
と声を掛けた途端に、相手が勢いよく近寄ってテーブルを叩き――音が部屋に響く。
「思い出したましたッここはドコでしょうッッ?」
いや、噛んでるし……。