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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第55話〔差し当たって これは事故なのだろうか?〕⑯

「なんじゃい? そんな跳ねよってからに」


「メ、女神様……?」


 今まで一体、何処に。


 そう思いつつ恥ずかしく上がった肩を直し、振り返った先でフワフワと浮いている修道女の様な女性神の方を向く。


「スミマセン。今ちょっと取り込み中で」


「みたいじゃの」


 平然とした口調で相手が言う。


 まぁそりゃそうか――。


「――……ちなみに、用件は? できれば手短に」


「いやの、何かてつどぉて欲しい事でもあるかなと思うての。――どうじゃ?」


 ム。


「……急ですね」


「まずもって急を要さぬ切迫した事態など、ありはせんじゃろ」


 そりゃそうだ。


「ほんで、手を施す余地はまだあるのかの?」


 ええと……。――建物の陰から顔を出し、デカい図体の現状を確認する。


 ム、マズい。――急がないと。


「で――できれば、あのトロールを村から遠ざけたいです」


「ほんなら(おとり)じゃの」


「はい。けど、逃げる場所が……」


「フム。他の者は? ホリホリなんかは適役じゃろ?」


「いや……それはちょっと」


 毎度の事ながら不憫(ふびん)だ。――まぁ、そもそもこの場に居ないけど。


「この()に及んで情けないのぉ」


 目の前の聖女が呆れ気味に両手を顔の前で開き、言う。


 なんかスミマセン。


「……とりあえず、逃げ道さえあれば、なんとか自分で」


「それで死んだら親も子もないのだがの」


 身も(ふた)も無い……――。


「――現に今は、一人ですから」


 と、何故か相手がムッと表情を強張らせる。


「……なんじゃ、ヌシはワレを役立たずと申すのか?」


 ム。


「そんなこと、言ってないんですけど……」


「よかろうっ! ならばワレが如何に優秀な神であるかを、この窮地を脱するコトで証明せしめようではないか!」


 と若干浮き上がりつつ両腕と手の平を広げて自身を開示する様に聖女が言い放つ。


 ……せしめよう。――ではなくて。


「いや、ですから……」


 というか相変わらずテンション高いな。


 すると聖女の指がスっと、方角を示す。


「この先に、安全な場所があるでな。其処に逃げよ」


 ム――。


「――……安全な場所?」


「ではワレは、あの図太い失敗作を引き連れるよってな。先に行くがよい」


 そう言って空へ、黄白色のゆったりとしたローブを着る女性神が上がって行く。


 え? ――え、ええと……――エエッ? 眩っ。



 ***



 それなりの努力はしてみたものの、派手に丸まった現状を解くことが出来ず。諦めて(うな)()れたのち顔を上げるホリの視界に目映い光りの球体が――突如、村の上空にて、輝く。


「はて、アレはなんでしょうか?」


 頭髪を確認している間も、おりることなく居座る背の赤き魔導師に向けてホリは問う。


「……――知らん」


 (おもむろ)にそして愛想なく返る答え。するとホリは全く気にすることもなく、次いで刃先で前髪を整えている騎士の長を見る。


「アリエル騎士団長……、――やっぱりジブン、急がれたほうがよいと思うのですが」


「わ、分かっていますっ。後、ほんの少しですっ」


「で……でも、ヨウジどのに何かあってからでは遅いですし……」


 せめて先にジブン達だけでも。そう、喉から出掛かったホリの両肩がガシッと、一瞬にして力強く押さえ付けられる。


「今のは、どういう意味でしょうか?」


「アっアリエル騎士団長ッッ?」


 目を離さずに見ていた相手が瞬き程の刹那で移動して尚且つ自身の両肩をガッシリと掴む。そんな理解不能な現象に戸惑うホリを、真剣な眼差しでアリエルは見据える。


「ヨウに、危険が迫っているのですか?」


 そしてその直向きな表情に、ホリの内面が心ともなく恐縮する。


「き――キケンと言いますかっ。だったら、イヤだなぁと……ァハハ」


「何を(おど)けているのですか。――先ほどの光りと、何か関係が?」


 既に消えた閃光の方を見、若干怯える相手にアリエルは問う。


「え、ええっと……――確信はないのですが、ジブンはそう――て、あれ?」


 ふっと肩が軽くなると同時に、向き直るホリの前から騎士の長が居なくなっていた。


「アリエル騎士団長……?」


 次いで周囲を見渡すホリの肩を小さな手が叩く。


「――エリアル導師?」


 そして小さな指が村の方を指す。


「行くぞ。急げ」


「ぇ? ――あ。ハイ、そうですね。ジブン達も」


 しかし動き出そうとした途端に縮れた髪を引っ張られ――。


「――あだダダだっ。な、なにですかッ?」


 すると少女の指がすっと、方向を差す。


「あっち、から行け。早い」


「え? あぁ――ハイ。あっち、ですね」


 そうして言われた方へと体の向きを変え、少女を背負う騎士はエッホエッホと走り出す。



 ***



「ナニよ、今の光り」


 突然上空から放たれた瞬間的な光の後、眩しさから視界を守るため額に宛がっていた腕を下ろして少女は誰ともなしに言う。


 と強い光りに目を回し倒れていた獣を抱え起こすマイラは、光の消えた空と――。


「……分かりません。でも、トロールが戻っていくみたい」


 ――立ち並ぶ家屋の屋根より上に出ている緑色の上体、その後ろ姿を見て僅かな安息を吐き、口にする。


 がそれを聞いた少女の心は逆にざわつく。


「ね。――この先に、なにかあるの?」


「なにもありません。村を出た先は、ただの草原です」


「そ。――て言うか、家が多すぎない? 年寄りばっかの田舎でしょ」


「す、すこし前までは居たんです。でも皆、都会に貰われて……」


「ふーん。なら、アンタは?」


「わ、私は……」


「あ。そういえばアンタは、出稼ぎ男に捨てられたんだったわね。ゴメン」


 さも興味のない、他人事とばかりに自身の髪を手で払い少女が言い捨てる様に謝罪する。


 そしてコボルトを抱えたまま青ざめるマイラを無視し――。


「――じゃ、あとは頼んだわよ」


「……ぇ? なに……?」


「ちょっくら好きな相手を助けに行ってくるのよ。それくらいは、言わなくても分かるでしょ?」


「ぇ、でも……ヨウジさんには、たしか……」


「そね、騎士さまが居るわよ。でも関係ない、でしょ?」


 次いで驚くマイラの方へと振り返る少女――の視界に、忽然と女騎士が姿を現わす。


「きゅ救世主様っ、何故、この様な所にっ?」


 そして登場し早々に慌てふためく相手の様子を見、一驚すら無く、少女は溜め息を吐く。


「……――それは、こっちのセリフでしょ……。なんで、騎士さまが居るのよ?」


「わっ私は――預言者様から連絡を受けて、急遽(きゅうきょ)こちらにっ」


「ふーん。なんて、言われて来たのよ?」


 途端に慌ただしく動作していた女騎士の動きがピタリと止まり、ピンと姿勢が正される。


「はい。大変な事態となり、至急、皆と合流せよ。との言付けでした」


「大変な事態? なによ、それ」


「えっと……具体的な内容は現地にて把握、対応せよ。との連絡でしたので……、私もまだ完全には状況を理解していません。しかし、ヨウの身に危機が迫っていると聞き、村に入ったところで、救世主様を見つけて現状です」


「なるほど、ね。――にしても、えらく早い登場ね? 今まで、ドコに居たのよ」


「はい、本日は早朝からの訓練を行なう日だったのですが、突然預言者様がやって来られて調査任務を言い渡されました。ですので、私はつい先刻まで隣の村に居たのです」


「ふーん、調査任務ね。で、成果はあったの?」


「一応の結果は得られたものと思っています」


「そ。――なら、現状をどうにかしてもらおうかしら」


「はい。私は、何をすべきでしょうか?」


 甲冑を鳴らして足を揃え、騎士としての本分を果たすべく、アリエルは目の前の小さな少女に問い掛ける。


 と、それを見た少女は腰に手を当て、やや恥ずかし気に――。


「――とりあえず、向こうに居るバカデカイ奴を、どうにかしてくれる?」


「はい、お任せください」


 言って――即座に移動する女騎士。


 それを、しゃがんだまま見ていた村娘は唖然たる面持ちで口にする。


「消えた……」


 次いで、特に驚く様子もなく、少女が言う。


「騎士ってのは、ほんとせっかちね」


「……――今のが……?」


 少女の方を見、恐る恐るマイラは尋ねる。


「そ。水内さんの、最初の女よ」


「ソ、……そぅ」


「ん。なに、怖気づいたの?」


「いいえ……。なんて言うか、その……。同じ騎士でも、さっきまで居た方とは印象が全然違いましたので……」


「ああ。アレは騎士としても、女としても、欠陥だらけだから、気にしなくていいわよ」


「……そう」


 不憫に思うものの、マイラの首が縦に小さく落ちる。

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