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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
一章【異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした】
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第18話〔そもそも死んでませんよ〕③

 


 *



 行ってくる。と言って、部屋に帰った隣人と御付きの騎士を見送った後、ただ待っているのは暇なので始めた床掃除が、玄関扉を目の前にした廊下で一段落する。


 よし、一通り拭き終わったかな。


 で立ち上がる。と目前の扉がチャイムを鳴らされる事なく、静かに開かれる。


「ん。水内さん、出迎え?」


 小さく開けた扉の隙間から半身を中に入れた少女が、こちらに気づき、言う。


「いえ、丁度いま床の掃除が終わったところで」


 そして不安からか、つい相手の足元に目がいく。


「――ん、大丈夫。それに、ずかずか歩き回ったのは騎士さまでしょ。わたしは、すぐ脱いだんだからセーフよ」


「そ、それは……そのようなけ、形式と、知らな……か……」


 何かに圧し潰されそうな姿無き声が、扉の外、廊下の方から聞こえてくる。


「あ。ごめん」


 すると少女が扉を限界近くまで開け、大量の荷物を背負った相手を家の中へと導く。


「うわっ。ちょ、待っ。あ、く、靴を、脱いでっ」


 ぐいぐいと迫って来る荷に、思わず両手を下からすくう様に突き出す。


「ム……リ……で……す……」


 背負う当人の顔が床についていそうなほど低い位置から、呻き声の様なモノが発せられる。


「す、鈴木さんっ、て、手伝ってっ」


 物に覆われた視界の先で玄関扉が閉まる音がした。


「ん、と。靴を、脱がせばイイわけ?」


「いや、この場合は、後ろから、荷物を」


「ひゃッ、きゅ救世主様っ? 何をッ。ひゃッ、お、おや、おやめ、くだっ。キュッキュ救世主様っっ」


 (みが)くのはヤメてぇぇえええ。






「あ、ありがとうございます……」


 椅子に座り、テーブルに突っ伏して体を休める女騎士が同じ状態の自分に言う。


「い、いえ……」


 そして台に上半身を預けたまま、部屋の(かたわ)らで持ち込んだ荷物の整理をしている少女に顔を向ける。


「凄い量ですね」


「ま。だいたい、服だけどね」


「服……――鈴木さんって、資産家の娘とか、なんですか?」


「……そ、ね。この際だから、言っておくわ。わたしね、借金で追われてるの」


「えっ。――そんな、追われるほどの額なんですか……?」


 思わずテーブルに預けていた体を起こす。


「ま、ね」


 あっけらかんと少女が言う。そして――。


「こんな状況にでもならなかったら、死んでたかも」


 ――と続ける。


「そんな切羽(せっぱ)詰まった状況だったんですか……」


「ん。ああ、そうじゃなくって。自殺よ、自殺。ほんとはね、いまごろ部屋でブランコしてる予定だったのよ」


「え。……それって」


「でも、こうやって生きてるのは、水内さんのおかげよ。ま、そこにいる騎士さまのおかげもあるけどね」


 そういえば、さっきから静かだな。ただ、心なしか寝息をたてているような気も……。


「――何もしてませんよ、俺は」


「ん、と。これから、て時に、邪魔されたのよ。大声で。だからムカついて、壁を蹴ったの。そしたら、なんかスッキリしちゃって。もう一回、て気になれなくてね。――で。ぼーっとしてたら、チャイムが鳴ったってわけ」


 あの壁ドンに、そんな裏側が。


「失礼を承知で、(たず)ねるんですが。鈴木さんって、歳はいくつですか?」


「ん。十八」


「ああ十八ですか――十八ッッ?」


「水内さんは?」


「え……と、二十三です」


「マジ?」


 何故か驚く相手に、肯定して、軽く頷く。


 驚きたいのは、こっちなのだが。


「水内さんて、大人なんだ」


「それはまあ……。もっと若く、見えましたか?」


「ううん。外見じゃなくて、中身の話よ」


 それを言うなら鈴木さんの方が……。


「わたし、思うのよね。人間て、生きた年齢に比例して中身は成長しないって」


「かもしれないですね」


「で、ね。カネ持ってるヤツとか、賢いヤツも、なんか違うのよ」


 ム。


「けっきょく、人間なんて根っこからバカバカしい生き物なのよ。自分勝手で、自己中心的で。その上、自分だけは救いようがあるって、心の底では思ってる」


 本当に十八なのか……。


「水内さんは、叶えたい夢とかって、ある?」


 ――夢――なんて単語を聞いたのは、久しぶりだ。


「平穏無事に過ごす、とかなら」


「……それって、夢なの?」


「分かりません……」


「ま、いいわ。わたしが言いたかったのは、夢が無いと、生きていても楽しくないってコト。だから死のうと思った理由は、借金じゃなくて。そっち」


「なら、……どうして?」


「気づいたのよ。もったいない生き方をしたな、って」


「……――だから、向こうに?」


「そ。でも、まだナニも無いから。しばらくは、のんびりと暮らすつもり」


 と言って、終いを告げるように荷物を整理する手を止めて相手が立ち上がる。


 そして、不安が詰まった様な顔で少女が――。


「ど、嫌いになったでしょ? わたし、勝手だから」


 ――と。それに――。


「……早く、いい家が建つとイイですね」


 ――と新しい生き方を祝う気持ちで、言葉を返す。


「なに、それ。ダジャレ?」


 え。


「あ。もしかして、なごまそうとした?」


 エエ。


 で呆気にとられていると、いつの間にか近付いて来ていた少女が自分の耳に顔を寄せ。


「一緒に住むって話、前向きに検討しておいてね」


 耳元で言う必要が。


「いや、それは」


「自慢じゃないけど。わたし、けっこう尽くすタイプだから。気に入るかもよ」


 ハ、ハイ?


「――そういう」


「何を、やっているのですか……」


 瞬時に、声のした方を見る。とテーブルの上で、こちらに目を細めて向けている起きしなの女騎士が。


 や、ややこしくなった。






「私は別に……御二人が何をされてたかなどに、興味は」


 そして女騎士がそっぽを向く。


 何故……。


「ふーん」


 よそを向いた相手の隣に座っている少女が、意味深な目で、騎士を見る。


「どうかしたんですか?」


「ん。ちょっと、確認をね」


 なんの確認だろう。


「で。水内さん、どうするの?」


「どう」


 ――まさか、さっきの続きを。


「わたしの用事は、だいたい終わったし。次、どうするか決めた?」


 あ、そっちか。


「資金をどうするか、ですね」


「あと、水内さんの問題もね」


 ム。


「あとで、職場に連絡します。まあなんとかなるかと」


 そういえば、携帯電話の存在を忘れてた。どこに置いたかな。


「ん。ああ、マジなの?」


「なにがですか?」


「金、なんて、本当にあるの?」


「金というか、金貨――」


 あ。


「ちょっと待っててください」






「どうですか?」


 革袋から取り出した金貨を凝視する少女に問う。


「ん。資金の話、これで解決なんじゃないの?」


「実を言うと、微妙です」


「え、なんで、金よ?」


「単純に、こんな大量の金を持ってたら絶対、怪しまれます」


「あ。そ、ね。どこの沈没船だって、騒ぎになっちゃいそうだもんね」


「ですね。余計な詮索を受けず、金を売れる場所でもあれば願ったり叶ったりなんですけど」


「ん。――あ、そうだ。イイコト思いついちゃった。わたしに任せて、金」


 その手の発言は不安しかない。


「……どうするんですか?」


「詳しい話は、あと。その前に、アンタ」


 少女が唐突に女騎士を見て、言う。


「え、私ですか?」


「いますぐ、着てる服を脱ぎなさい」


「へっ?」


 まてーいっ。


「――鈴木さん、突然なにをっ」


「ん? 着替えよ、着替え。こんな硬いの着たままで外に出たら、注目のマトよ?」


「……なるほど」


 だったら、もっと分かりやすく言って。


「しかし救世主様。私は着替えなど、持ってきておりません……」


「そんなの、分かってるわよ。わたしの貸すから、それを着るの」


「救世主様の物を借りるなど滅相もないっ」


 その前にサイズ的な問題が。


「言ってても始まらないわ。ほら、行くわよ」


「ででで、ですがっ」


 椅子から立って、ぐいぐいと女騎士を引っ張る少女。


「水内さん、こっちの部屋、借りるわよ、と。着替えてる間に、職場に、連絡でも、してて」


 二人の体格差を考えれば振り解ける筈の騎士が、抗う事に躊躇(ちゅうちょ)するあまり、ずるずると少女に引き摺られていく。


「は、はい、どうぞ……」


「きゅ救世主様っ、――た、たす、助けっ」


 其処(そこ)で無情にも助けを乞う眼差しが扉の向こうへと消えてゆく。


 ムム。――鈴木さんて、単純に力は強いんだな。


 途中で鞄を一つ拾い上げていった。


 まあ、あっちは鈴木さんに任せて。こっちは、電話を探そう……。






 ――ええと。これは、その……つまるところ、の――アレだ。


 携帯電話へ送られてきていた情報を整理し、出す結論。


 倒産してた。

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