第28話〔一体なにが〕③
おお……。
徐々に薄れる白い光りが消え、現れた騎士の幼き姿に場が一瞬ざわつく。
「ウム、こんなとこじゃろ」
独り満足げに、聖女がうんうんと頷く。
凄――。
「どわッ、本当にジブンっ子供の姿に戻ってます! なんでですかこれッ凄すぎます!」
光りから出てきた時点で既に服装も相応の物に変わっていた騎士の面影を残す幼い女子が黄色い髪を揺らし、何故かその場でクルクルと動きながら自身の体を見て、回る。
――直ぐに聖女へ顔を向け。
「どうなってるんですか……?」
「ン。――なにがじゃ?」
「……――ホリーさんの、今の状況です……」
「状況? 見たままではないか」
「いやけど……――変な作用とかは、ないんですよね?」
「そんなもの、ある訳なかろう。いくらソナタらの器が軟弱であろうと、たかだか見る目が変わったくらいで壊れるほどヤワではあるまい」
それは……、――そうかもしれないけど。
「じゃが、まずもって、そういう心配は事を起こす前にするべきではないかえ?」
ム。
「いや、その――それは、そうなんですけど……」
……正直、この状況というか展開に、若干ついていけてない気がする。
と短髪の騎士、もとい幼女に目を向ける。
「あ、――救世主さま達が大きく見えます」
「アンタが縮んだだけでしょ」
ふム。――と聖女の方に。
「後で、元に戻してもらえますよね?」
「望みとあらばの」
ふ、ふム。――で再び幼女に。
「一つ聞いてもいいですか」
「ン、なんじゃ?」
「なんで、あそこは戻さなかったんですか」
小さき大人達に囲まれた場所で騒ぐ幼い女子の頭皮を指して言う。
「新しいファッション、挑戦とは、思い切りが大事なのじゃ。いっそ果敢に丸刈りという選択もあるがのぉ、どう思う?」
そうなれば、もう悩み無用ですね。
それで、結局――。
「――どうするんですか? このあと」
「なにがじゃ?」
見るからに何も考えていないのが分かる、ぽうっとした顔の相手がフワフワと聞き返してくる。
「いや……ホリーさんを子供にした、後の事は……?」
「そんなん知らん」
へ。
「ワレはソナタらが直面している問題を解決してやったのじゃ。したがって、これより先はスタッフ・オンリーじゃ」
「……スミマセン、言ってるコトというか、ホリーさんを子供にした理由がそれだと分からないのですが……」
そして自ら出来栄えを褒める様な目で幼女を見る聖女の顔がこっちに向く。
すると何故か微笑を浮かべ――。
ム?
「――あの姿であれば、何かと都合がよいであろう?」
「都合……――ぁ」
なるほど。
「――要するに、ダメ騎士を使って検証するワケね」
ム。――と振り向く。其処に新しく加わった一名を足す、低身長達が居た。
「ウンム、期待しておるぞよ。そしてワレの認識に狂いがないコトを証明するのじゃ」
「さ、それはどうかしら。わたしが考える以上、どっちかの味方をする気はないわよ」
普段と変わらない、どこか言葉に感情がこもっていない希薄な口調で少女が言う。
次いで何故か先程とは違い、どことなく妖しげに笑みを浮かべて――。
「――無論、構わぬよ。じゃがの、ワレだけでなく、其方にとっても都合は好かろう?」
「なにがよ?」
「鬼娘が邪魔なのは、ワレのみにあらず。と申しておるのだ」
ム。――……どういう意味だ?
いまひとつ把握しきれない相手の発言に内心で首を傾げる。そしてそれ故に、何気なく皆の方を見る、と――。
ム……?
――受ける印象は各々で違うものの、わざと余所余所しくする感じで声を出さずに騒然としていた。
「どうか、したんですか?」
ちびっこ集の内、最も近くに居る幼女を見て聞く。
「ワ――ワタシは違いますよっ!」
え、なにが。
急に声を上げる相手の反応に若干驚く。と、その途端に他が動き出し。
「なに自分だけ逃げようとしてんのよ、アンタ」
「え? ――ジ、ジブンは、逃げるなんてっそんなッ」
「ふーん。だったら、アンタは万が一でも、おこぼれは要らないのね?」
「え。……そ、それはっ」
「――ま。わたしは、おこぼれに預かる気なんかないけどね」
「ジっジブンはッおこぼれでもナンでも、貰えるものは貰います!」
一体なんの話を……。
「ならば、ソナタの活躍を期待しておるぞ」
相手の身長に合わせる様にやや下降して、聖女が告げる。
「え、期待? ジブンなにかするのですか?」
「当然じゃ。なんの為にソナタをその姿に見せたと思う」
というかは、ここまでの流れで薄々でも気付くと思うのだが。
「ええっと……ジブン、どうして子供になったのですか……?」
え、そこから。
「鬼娘を誑かす――ではなく、目を欺く為じゃ」
若干思惑が漏れてますが。
「あざむく……? アリエル騎士団長をですか? しかもジブンが……? ム――ムリですッ! 否が応にも即死します!」
否が応……――どういう表現だ。
「ホウ。あの者は女神だけでなく、子供にまで手を出すのかえ?」
ム。
「子供にと言うか、ジブンだとバレたら手荒なコトになりかねません」
「どういうコトじゃ? ソナタは、鬼娘に嫌われておるのかえ?」
「きっと嫌われてます」
ム――。
「――根拠は?」
次いで、エ。と声を出す幼女、もとい皆が自分の方を見る。
「……ええっと、根拠はその……――ありません。ダメ騎士の勘です」
どう受け止めればいいんだ。
「それに、今更ですが、最初からアリエル騎士団長には、よく思われていないと思うのです、ワタシ」
ふム。
「どうして、そう思うんですか?」
「思うというか、初っ端に剣を突き付けられていますよ?」
ム。――確かに、そんな事が、あったような。
すると突然、なるほどの。と聖女が呟くように声を出す。
「差し詰め――鬼娘の被害を受けたのは、ワレだけではなかった。というコトじゃな」
ム――。
「――それは、違います」
「どう違うのじゃ。ソナタは被害者の声をちゃんと聴いた上で、そう申しておるのか?」
「被害者……?」
「ワレを除き、皆の意見に耳を傾けてみよ」
そう言って聖女が眼で示す先に顔を向ける。
「ん? わたしはべつに、騎士さまに文句はないわよ。そりゃ突然こっちに連れてこられて、いろいろあって死んだりもしたけど。恨む謂れにはならないわ」
というか、鈴木さんは幾分自主的に来た気もするが。
――思いつつ少女の隣、預言者に目を向ける。
「おや、私もですか。しかしながら私は立場上、特定の誰か、一方に肩入れをいたしません。唯一例外となるのは、仕える神のみです。ゆえに第三者の公正な目で見て、アリエルの言動は問題視するほどのモノではないと存じます」
そして何故か俯き加減に相手が目を閉じる。――ので、次の幼女に顔を向け。
「ホリーさんはどうですか? 実際のところ、ジャグネスさんのコトを、どう思っているんですか?」
「え――なんでワタシだけ、そんな普通に……」
ム?
「……――ええっと。ワタシは、アリエル騎士団長のコトを、アリエル騎士団長だと思っています」
でしょうね。
「ですから、試すようなことをするのは正直よくないと思います」
内心で、え。と思い、相手の下がった手にある雑誌を一瞥する。
「――て言うか。アンタそれ、たんに危険な目に遭いたくないだけでしょ?」
いつもなら目線を上げて話す少女が自身よりも低くなった相手に歩み寄り、上から圧し付けるような口調で言う。
「そッそんなのっあたりまえではないですか! ジブンだって死にたくありませんよ!」
「アンタね、死なないモブ騎士に、なんの価値があんのよ?」
というかは単一の騎士が死ぬ事と群衆は全く関係がないのだが。
「何事も命あっての物種ですよっ」
そのとおり。
途端に聖女がスッと幼女に近づく。
「なんならソナタの努力次第では、その頭を元に戻してやってもよいぞ?」
「え。――……本当ですか?」
「神に二言はない」
「やっ――やりますッ、是が非でも!」
へ。
「ホ、ホリーさん。……いいんですか?」
「え――なにがですか?」
「いや、その、命――き、危険なのでは……?」
「なに言ってるんですかヨウジどの、女は、髪の命ですよ!」
逆、逆。




