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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第19話〔この女たらしめっ 恥を知れ!〕⑥

 適切な措置は後日という流れで、一先ず場が収拾され、群集も解散した後に連れ立って来た二人を部屋の前に待たせ、入る騎士団長室の飾り気はないが立派な内装に。


 へぇ。――ここが。


 と、やや関心する。


「よかったら、お掛けくださいね。ご主人さん」


 自分の後に入ってきたオカッパ頭の騎士が扉を閉めたのち、横を通り過ぎて行く際に、そう告げる。


「あーいや、自分はこのままで。というか、ご主人さんと言うのはヤメてください」


「え――どうして、です?」


 近頃見掛けなくなった救世主で名高い少女を思わせる黒い髪の先を(りん)と左右で揺らし、書類を抱える相手が振り向き様に足を止めて言う。


「間違ってはいないと思いますが、自分的に違和感があるので」


「そうなると、私的に困りますね」


 ム。


「どうして、困るんですか?」


「馴れ馴れしく呼んだりなんかして情が移ったら、私、(こま)切れにされちゃいますよ?」


 すると誰が見ても上品だと分かる一番奥の机に着いたばかりの女騎士がピクっと動きを止め、立ったまま、こっちを見る。


「ルシンダ、誰がその――細切れとやらにするのでしょうか?」


 次いで名を出された騎士が振り向き、騎士の長と顔を合わせる。


「それは騎士団長に、決まってます。よっ、愛妻家ならぬ愛夫家」


「なっ。わ私は、その様なフザケた質問をした訳ではありません!」


「はい、分かってます。私も冗談を言った訳ではありません」


 しかしそのわりに表情は、どう見ても、ヘラヘラと笑っている。


「なら、その弛緩(しかん)した顔を引き締めなさいっ。下の者が見たら、士気が下がります」


「それは言うに及びません。私は騎士団長と違い、公私は卒なく分けていますから」


「わっ私が、イツ、混同したと言うのですかッ?」


「イツではなくて、イツモ、ですよ。――ね、ご主人さん」


 こっちを見るオカッパ頭の騎士が愛想よくニッコリと笑い、言う。


 ムム。


「なっ何故、そこでヨウに話を振るのですかッ」


「それを一番お分かりなのは騎士団長だと、私は思いますよ。その証拠に、以前は何をするにも眉間に(しわ)を寄せていた方が、事ある毎に身だしなみを気にして――別にするなとは言いませんが、突然、剣を取り出すと周りが怯えるので手鏡くらいは所持してください」


「ちゃっちょッわ、私は――刃こぼれなどがないかを、剣身の確認をッ!」


「騎士団長がお使いの剣に、刃こぼれ――ですか?」


「騎士たるものっ、常に命とも言える武具の事を気にするのは当然の、責務です!」


「……――素直に褒めてほしいと、言えばいいのに」


 若干ため息まじりに目を細めて相手を見、オカッパ頭の騎士が言う。


 そして、途端に反論ならぬ弁明をする長との間で論争が始まり。


 自分は気持ち蚊帳(かや)の外となって、二人の談話を傍観する傍ら熱弁している騎士の補佐を務める騎士に横目を向ける。


 なんというか、ほんとに変わった人だな。


 ――初めて会ったのはつい最近、結婚式当日の式場――で最初は、その見た目にそぐった事務的な態度、もとい対応だった。のに、気づけば歳相応の少女みたいな言動になっていたり――と思ったら騎士団長補佐に相応しい振る舞いで、話していたり。


 本当に、どこぞの少女を思わせる。


 などと内心までも、そこはかとない感じになって二人の事を見ていると、突然、女騎士がピタリと停止し、次いで少し間を空けてからオカッパ頭の騎士が言動を止める。


 ……ム?


 そして急な変わり様に、何が起きたのか全く分からないまま、黙って様子を窺う。


 すると書類等を抱えていた騎士が、静かに女騎士の方へと動き出し。


「騎士団長、こちらの確認が済み次第、明日以降の早期提出をお願いします」


 と補佐らしい口調で、そう告げ。オカッパ頭の騎士が持っていた物を騎士の長が居る机の上に置き、前を向いたまま、二歩ほど後ろへ下がる。


「分かりました。明日中に済ませておきます。――ので」


 置かれた書類を一瞥(いちべつ)してから相手を見、言葉を(にご)す形で女騎士が口を閉ざす。


「はい、決してジャマはさせません。ので騎士団長はご主人と、お気の済むまで、お話しください」


「よ、余計な事は言う必要がありません」


「それはそうですね。では――私はこのへんで、失礼します」


 言って、自分の方へと振り返るオカッパ頭の騎士。が横を通り――。


「あんまり(みだ)らなコトはしちゃダメですよ」


 ――と自分にだけ聞こえる程度の声で言い、過ぎて行く。


 み、淫ら……?


「では、ごゆっくりと」


 咄嗟に後ろを振り返る。と次いで、ノブに手を掛けていた騎士が少し変わった立ち位置で扉を開き。


「どわああぁああああッ!」


 見慣れた騎士と、状況的に珍しい少女を筆頭に大勢の女性騎士が部屋の中へと倒れる様に流れ込んでくる。


 ……なん。


「貴方達ッ!」


 直後、部屋の奥から女騎士の怒号が響き渡った。






 バタンと後ろ手に扉を閉めて部屋に戻ってきた女騎士が、静かに自分を見て――。


「――……お待たせしました」


「もう、いいんですか?」


「はい。後の事は、ルシンダに任せてきました」


「そうですか。ジャグネスさんは、その……なんと言うか、ルシンダさんのコトを信頼しているんですね」


「ぇ? ――い、いえっ。そういう訳では……。――何故、そう思うのでしょう……?」


「何故、と聞かれると困りますが。強いて言うなら、話してる時の、二人の雰囲気? だと、思います」


「雰囲気? 私、何か不自然でしょうか?」


「いえ。(むし)ろ自然だからこそ、そう思うのだと。なにしろジャグネスさんは生真面目ですから、自然体で居られる事の方が少ないんじゃないですか?」


「それは、そう……かも、しれませんが……」


 と呟くように言いながら扉を離れる相手が、自分の前に来る。


「……――ヨウは、私を、どの様に思っていますか?」


 ム。


「それはその、人柄的な意味で、ですか?」


 直ぐにこくっと頷きが返る。


「――なら、今言ったように、根本的な生き方が真面目だと思ってます。ただ……」


「ただ……何でしょう?」


「……――ただ、行き過ぎる時もあるので、心配になる事は結構あります」


「そう、ですか……」


 伏し目がちに、相手が呟く。と途端に、くすっと声を出し――。


「――ですが。それはヨウも同じですよ」


 ム。


「どういう意味ですか?」


「そのまま、の意味です。ヨウも私と同じ様に、行き過ぎた事を気懸かりな程します。いえ、私以上に、しています」


「……――そうですか……?」


 ハイと答えが返る。次いで、どこか寂しげな様子になり。


「何故ならヨウは、いつも優しいですので……」


 ふム。


「それって、気懸かりな内に入るんですか?」


「も、勿論ですっ。私がどれだけ心配していると思っているのですかっ、もし私の不安を抑止するコトなく解き放てば国から、いえベィビアから人が居なくなってしまいます!」


 なにそれ、コワい……。


「……まぁその、よく分かりませんが、気を付けます……」


 と、いったところで――。


「――なんで、ちょっと耳に入れておきたい事が」


 と会いに来た理由、その本題を口にする。






「――という訳なんで、もし何か変だなと思ったら、気を付けると言うか、そういう事だと思ってください」


「わ、分かりました……」


 そう言って項垂(うなだ)れる、まではいかないものの俯く、女騎士が(かな)しそうな目をする。


「ええと……。ジャグネスさんは何も悪くないですよ」


 途端にエと顔を上げるキョトンとした目が、自分を見る。


「ジャグネスさんは俺を、と言うか皆を、(まも)る為に戦いました。それ以上でも以下でもありません。でもって俺は、それを悪い事だとは思いません」


 すると若干見開いていた目が元に戻り。


「はい。それについては反省すべき点はあっても、後悔などはしていません」


「ぇ。あ、そうなんですか……。――なら、どうして……?」


 そして再び哀しげな顔で女騎士が気持ち俯く。


「私は、その……乱暴者、なのでしょうか……?」


「その事なら、今」


「はい。ですが、私が危惧(きぐ)しているモノとは違います」


「……なるほど。なら、ジャグネスさんは何を心配しているんですか?」


「具体的に、どうと言い表すのは私の語学では不十分だと思います。しかし、敢えて言葉にするのなら、私は私自身の力を過信し酔っているきらいがある様に思えます。それが、今回の一件に関わっていないとも思えません」


 なるほど。――そういうコトか。しかし、なんだな。


 と、思わず口元が緩む。


 直後に目の前の相手が不可解な面持ちをして。


「何故、……笑うのでしょう?」


「ぇ? あ。スミマセン、思わず。と言うか、ジャグネスさんて酔う時も真面目なんですね。らしさが出てますよ」


「わっ私は、真剣に悩みを――。……――それに、私はヨウが思っている程、真面目ではないみたいです……」


「そうですか? そんなコトないと思いますけど」


 何故か、じっと自分の顔を、というよりか口元を見てくる相手に言い返す。


 そして何気なく壁に掛けてある時計の方を見て――。


 結局、急いて来た意味があるほどの事は何もなかったな。


 ――と、行方知れずの聖女を内心思いつつ、視界の端で何やらこそこそとしている金色の髪が気になり顔を正面に戻す。と途端に、柔らかい感触が唇に押し付けられ――。


 ――定時の鐘が鳴り響いた。

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